ダンジョン・一階層
雪山にいたはずの僕たちなのだが、ダンジョンの中はとても居心地がよく、寒さは全く感じない。
それどころか暖かさすら感じられる気温になっていた。
「ダンジョンって、こんなに以後ことのよい場所なんですか?」
「いや、ここまでの場所は聞いた事がありませんね」
「僕もないかな。リューネさんは?」
「私も初めてかなー。普通はマグマ地帯だったり、それこそさっきの吹雪よりも極寒の環境になっている場所なんかもあったりしたもの」
……それ、どれだけ厳しい環境の場所なんですか。
しかし、そうなると魔王のダンジョンがこんなにも居心地がよくていいのかと疑問は尽きない。
もしかすると、罠ばかりの造りになっていて、油断を誘っているという可能性も考えられる。
他にはどのような悪逆非道な造りが予想できるだろうか。
「……とりあえず、進まないか、ジン?」
「そうですね。進んでみなければ、ここがどのようなダンジョンなのか分かりません」
「さんせーい! 私が精霊に協力をお願いするから斥候は任せてちょうだいね!」
「え? あの、みんな、そんな簡単に進んでもいいの?」
もっと作戦というか、どうやって進むとか、考えないの?
「本来であればそうだけど、今は時間が惜しいからね」
「ダンジョンって聞いて興奮しているみたいだけど、現状をしっかり把握してちょうだいよねー!」
「今回に関してはユウキ様とリューネ様の言う通りだと思いますよ、ジン様」
「……あ、はい。そうでした、すみません」
カズチたちが待っているんだったな。
……うぅぅ、切り替えよう。すぐに切り替えるぞ!
「曲がり角を進むと少し広くなっている部屋があるけど、そこで魔獣が群れを作っているわ」
「魔獣は上級魔獣ですか?」
「そうみたい。でも、このメンバーなら負けないわ」
「全員で向かいますか? ジン様とリューネ様は魔力を温存いたしますか?」
「いいや、僕がいくよ!」
「「「……はあ?」」」
……え? いや、だって、みんなのために僕も何かやらなきゃと思ったんだけど?
「……ビギャ~」
「……ワフ~」
えぇっ!? 二匹からもそんなため息が漏れるような発言だったかな!!
「フルムがガーレッドと一緒に行くと言っていますね」
「だったら、任せちゃいましょうか」
「分かりました」
「え? あの、僕の出番は? ……あのー、みなさーん?」
誰も僕の言葉には答えてくれず、ガーレッドとフルムはさっさと曲がり角を進んで行ってしまった。
しばらくして大きな爆発音が鳴り響き、魔獣の叫び声が通路に轟いてきた。
ダンジョンの中だというのに地鳴りまで聞こえてきたのだが、本当に二匹だけで大丈夫なのだろうか。
「……さすがはガーレッドとフルムね」
「もしかして、見えているんですか?」
「そうよ。精霊の視界を一時的に共有させてもらっているの。これ、余裕ね」
(――まあ、ガーレッドはドラゴンの霊獣だし、フルムはトールライガーの霊獣だからな)
……はい? 今、エジルから予想外の言葉が聞こえてきたんだけど、気のせいだろうか?
(……エジル? フルムって、トールライガーなの?)
(――そうだぞ? もしかして、気づいていなかったのか? 普通のライガーは雷なんて落とせないし、体毛は青が主だぞ?)
だって、ライガーの霊獣を見た事がなかったんだもの。
以前にロワルさんとラウルさんにナイフをあげた時に、ドラゴンが空の王で、トールライガーが地上の王って言ってたっけ。
……へ、へぇ~。空と地上、両方の王様なのか、二匹って。
「あ、終わったわね」
「二匹とも、いつもは手加減していたのかな?」
「かもしれませんね。手柄を私たちに譲っていたのかもしれません」
僕は驚きから抜け出せないまま戦闘があった場所へ向かうと、そこは今まで見た事がないくらいに酷い有様になっていた。
地面や壁だけではなく天井まで黒く焦げており、近づくだけで帯電しているのか髪の毛が逆立っていく。
フルムが帯電していた電気を吸収したのかすぐに髪の毛ははらりと垂れたのだが、僕は正体を知ってしまったので乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
「ガウガウーン!」
「あはは! 凄いね、フルム!」
「クゥゥーン!」
体躯は出会った頃よりも倍以上に大きくなっているが、ユウキに甘える姿はとてもかわいらしく、地上の王とはとても思えない姿だ。
しかし、本気で戦えばダンジョンを形すら崩してしまうのかと考えると、ガーレッドもフルムが王と言われると納得してしまう。
「ビギャギャーン!」
「……ガーレッドも凄いよ、うん」
「ギャー……ギャギャ?」
僕が放心状態になっていた事に、ガーレッドはコテンと首を傾げていたのだった。
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