中級魔獣だけじゃなかった

 休憩を挟んでからしばらく進むと、危惧していた事態と遭遇してしまった。


「こいつら、上級魔獣ですよ!」

「ジン! 魔法のフォロー頼むよ!」

「ビギャアアアアァァッ!」

「グルアアアアァァッ!」


 マギドさんが正面、ユウキが右でフルムが左、ガーレッドは飛び上がって上から戦況を見守りつつ、抜けてくる魔獣がいれば火球を吐き出している。

 火球の威力は上手く抑えられており、雪崩が起きるなんてことはなかったが、魔獣の中には一撃で仕留めきれないものも出てきていた。


「僕も出る。魔法はリューネさんとルルに任せるよ!」

「オーケー」

「うん!」

「フローラさんも念のために援護ができるようにしておいてね!」

「わかりました!」


 矢継ぎ早に指示を飛ばした僕は、銀狼刀ぎんろうとうを抜いて駆け出しながら、声を張り上げる。


「エジル!」

(――任せてくれ)

「……どうしたんだ?」

(――……なんでもない、いくぞ!)

「あ、あぁ」


 いつもなら元気はつらつに返事をするエジルだったが、今日は不思議とテンションが低い。

 問い掛けにもはっきり答えてくれなかったし、どうしたんだろうか。

 とはいえ、今は目の前の上級魔獣の群れを一掃しなければならない。

 僕はエジルへの疑問を一旦脇に置き、肉体の制御を託した。


「マギドさん! 僕が正面に出るので、ユウキのフォローをお願いします!」

「わかりました!」

「ガーレッドはフルムと一緒にね!」

「ギャウア!」


 無属性魔法に長けた二人は戦い方も似ており、今では完璧な連携を見せてくれている。

 入れ替わり立ち替わりで前に出ては後ろに下がり、ほぼ間断なく攻撃を加えている。

 それは霊獣であるガーレッドとフルムにも言えることで、こちらはお互いに魔法も使えるとあって、二人よりもより厚みのある攻撃を繰り返していた。


(――はっ! ふっ!)


 一方でエジルは人間とは思えない素早い動きで魔獣の群れに突っ込んでいき、魔法を纏わせた一撃で上級魔獣を一気に仕留めてしまう。

 無属性魔法の使い方もユウキやマギドさんと同等か、それ以上の精度で発揮している。

 だが……うーん、やっぱり少しばかり動きが雑になっているような気がする。

 僕の体だから丁寧に戦ってほしいんだが、マジでどうしたのだろうか。


「エジル! 左から来てる!」

(――わかってるよ!)


 横目で確認した魔獣が迫る中、エジルはかまいたちを飛ばして細切れにしてしまう。

 その動きに無駄などないように見えるが、僕の言葉に対しての語気が明らかに強くなっていた。


「……あとで説明しろよな」

(――……わかったよ)

「隠し事はなしだぞ? もし隠したら、基本的にお前の事を呼ばなくなるからな?」

(――わかったって! ったく、ジンに隠し事はできないなぁ)

「長い付き合いだからね」

(――そりゃそうだ。すまなかったね)


 エジルから謝罪の言葉が出てきてからは、いつも通りの動きに戻っていた。

 豪快かと思えば洗練されており、鋭い動きの中にも余裕がある。

 これならば問題ないだろうとホッと一息ついていると、気づけば上級魔獣の群れは一掃されていた。


 本日二度目の休憩となり、僕たちは弁当ではなく、元々ブリセットでこの時期に食べられている干し肉をもしゃもしゃと頬張っている。

 おやつ……とは言えないので、間食かな? そんな感じでつまみながら、ブリザードマウンテンについて話し合っていた。


「雪山だからか、やっぱり氷系の魔獣が多いですね」

「ガーレッドが火魔法を放ってくれるから前線はだいぶ助かります」

「フルムも頑張ってるよね!」

「私たちはー?」

「リューネさんもルルも頑張ってるって。俺は錬成師だから、なーんもできん」


 一人ひとりが意見を出し合う中、僕はエジルと話し合っていた。


(今日はどうしたんだ?)

(――いやー、面目ない)

(謝罪はいいから、理由を教えてくれ)

(――せっかちだなー。……でもまあ、ジンにも関わってくる事だし、伝えておくかー)

「……はい?」


 まさか僕に関わる事とは考えておらず、思わず口に出して問い返してしまった。


「どうしたんだ、ジン?」

「え? あ、いや……あとで話すよ」

「そうか? それじゃあ、あとで報告よろしくな」


 隣に座っているカズチは首を傾げていたが、エジルの事も知っているので特に追求することはなかった。


(……それで、僕に関わるってどういうことなんだ?)


 改めてエジルに問い掛けると、彼は予想外の事実を口にした。

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