予想外の魔獣ラッシュ

 入山してから数時間後、僕たちはまさかの魔獣ラッシュに遭遇していた。


「ユウキ様!」

「こっちは大丈夫です!」

「グルアアアアッ!」

「ビギャアアアアッ!」


 ユウキとマギドさんが最前線で魔獣を切り伏せており、どうしても届かない相手にはガーレッドとフルムが対応している。

 僕とリューネさんが中心になって魔法を放っているのだが、数が数だけに今回はルルも加わってもらっていた。


「あの、私も参加できますよ?」

「フローラさんは温存です。これだけの数だし、怪我人が出ないとは言い切れないからね」


 冒険者であるフローラさんにも参加してもらいたいが、そこをルルがカバーしてくれている。

 言葉にした通り、今回の数は完全に予想を超えており、特に前線の二人が無傷で戻ってくる可能性は限りなく低いと言わざるを得ないだろう。


「これだけの数が普通にいるとしたら、どうして麓にあるブリセットは襲われないんですかね?」

「たまたま多かったとかかしら?」

「……それ、説明になってませんよね、リューネさん?」

「まあ、私が分かるわけないしねー」

「それはそうですけど……」


 魔法を放ちつつ魔獣の多さについて考察していたが、ブリセットの住民でもないリューネさんが分かるはずもないので、考える事は止めてまずは目の前の魔獣に集中する事にした。

 予想外ではあったものの、魔獣のランクがほとんど中級である事は非常にありがたい。

 これが上級魔獣だったりすると、マジで撤退を考えなければならなかっただろう。

 ……いや、僕たちが逃げると、それを追い掛けて魔獣がブリセットに足を踏み入れる可能性があるから、撤退もできないかもしれない。


「もう少しで掃討できる! みんな、頑張ろう!」


 最前線にいるユウキからそんな声があがると、僕とリューネさん、ルルは顔を見合わせる。


「よーし、やるぞ!」

「あ、気をつけてね、ジン君」

「張り切りすぎて、雪崩を起こさないでね」


 ……はい、気をつけます。

 そして、僕たちはなんとか魔獣ラッシュを乗り切ったのだった。


 疲れを取るために、僕たちは吹雪を凌げる洞窟を見つけてそこへ入った。

 ユウキとマギドさんが先行して中に入り、そこまで深くもなく、魔獣が隠れている事もなかったので一安心だ。


「とりあえず、掠り傷だけでよかったよ」

「フローラ様に回復してもらいましたし、問題はありません」


 二人とも傷を負っていたが、深いものは一つもなかった。

 数にして二十、三十は超えていたと思うのだが、その中を掠り傷だけで乗り切ったのかと考えると、二人の実力は相当に上がっているようだ。

 接近戦に関して、僕は完全にエジルに依存しているので二人の活躍は非常にありがたい。


「それにしても、異常な数だったね」

「これがブリザードマウンテンの冬の普通なんでしょうか?」

「分からないね。実際のところ、ブリセットの人たちも冬のブリザードマウンテンには入山しないみたいだし」


 そう、誰もこの現実を知らない可能性すらあるのだ。

 自殺志願者という言葉が魔獣ラッシュの事を言っていたのなら、それらしき言葉が出ていてもおかしくはない。

 ゼッドさんからも道具屋の店主からも、それらしき言葉は全く無かった。単に猛吹雪の山に入山する危険を注意しているだけの言葉だったのだ。


「普段はこうじゃないのか、今年がたまたま魔獣の多い年だったのか」

「だとしたら、僕たちが魔獣を掃討しないとブリセットが危険かもしれないって事かな?」

「可能性はあるかも。魔獣同士で捕食し合って腹を満たしているならいいんだけど、そうじゃなければエサを求めて麓に下りてくる可能性は高いかな」


 僕の言葉にユウキが答えてくれる。

 これ、僕の我儘で入山したけれど、結果的にブリセットを守る事につながっているんじゃないだろうか。


「そうなると、遭遇する魔獣はできる限り倒しながら、頂上を目指すことにしようか」

「ですが、大丈夫なのですか? 体力的に厳しくなる可能性もありますよ?」

「休憩を多く挟めば、なんとかなるんじゃないかな」


 心配の声をあげるマギドさんに対して、僕はあっけらかんとそう言い放つ。

 昔のマギドさんならここでもう少し食らいついてくるのだが、すでにその域は通り過ぎている。


「……はぁ。分かりました、そうしましょう」

「ありがとう、マギドさん」

「いいえ。私もだいぶジン様に染まってきましたからね」

「うんうん、良い事だね!」

「……はぁ」


 ……あれ? そこ、溜息をつくところかな?


「……とりあえず、弁当を食べようか」


 気になるところはあったものの、まずは腹ごしらえをしようと僕は魔法鞄から弁当を取り出してみんなに配るのだった。

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