いつもとは異なり?

 まあ、カズチの驚きも分かる気がする。僕だって驚いたんだから。


「ふ、副棟梁! それはさすがに早すぎますよ!」

「そうでしょうか? コープス君も卒業するかもしれないのですから、カズチが早いということはありませんよ」

「ジンと比べるのは間違いだって言ったじゃないですか!」


 えっ、それは酷い。事実だけど。


「別にコープス君と比べているわけではありませんよ。カズチの努力と挑戦を、私はこの目で見てきました。カズチならば、これから挑戦する初めての錬成にも、物怖じせずに挑めると信じています」

「で、ですが……」

「カズチだって見習い卒業を嫌がってるじゃないか」

「うぐっ! ……はぁ、そうだな。ジンに嫌がる奴がとか言っておいて、俺が嫌がってるのは意味が分からねえよな」


 カズチの努力は実を結んでいるし、そのことを評価しての判断なのだろう。

 だが、僕とカズチでは大きな違いが一つある。それは当然、スキルの有無だ。

 見習い卒業の最大の判断要因はスキルを持っているかいないか、だろう。

 カズチはすでに錬成スキルを習得しており、ランクも2になっている。

 一方の僕は英雄の器によって一級品や超一級品ができることもあるが、錬成スキルは持っていない。

 英雄の器が錬成スキルの代わりになり得るなら卒業も受け入れられるのだが、やはり錬成スキルを習得してから卒業したいと思ってしまう。

 それが錬成師を目指している人たちへの礼儀だと思うからだ。

 そして、だからこそ錬成スキルを習得しているカズチは卒業するに値するのだと僕は思う。


「まあ、まだ決定ではありませんから、今はまだ見習いですよ。結果は明日か、明後日にはお伝えできると思います」

「き、期待しないで待ってます」

「うふふ、期待してくれていいんですけどね。それと、コープス君のミスリルとアスクードも一緒に見せてしまっていいかしら?」

「あっ、大丈夫です。そうなると、鍛冶は明日ですね」

「今日は慣れない素材で錬成をしたのですから、休みなさい」


 僕は二つの素材を手渡し、ソニンさんを残して錬成部屋を後にした。


 ※※※※


 今日は特にやることがなくなってしまったので、僕の部屋でダラダラと過ごすことになった。

 とはいっても、カズチはなんだかソワソワしている。


「……結果は明日か明後日だよ?」

「わ、分かってるよ。だけどなあ、気になっちまうよ」

「まあ、その気持ちは分かるけどね」


 入学試験の結果発表待ちに似た心境だろう。

 結果発表が明日か明後日かではっきりしていれば、まだ落ち着いて待てたかもしれないが、明日なのか明後日なのか分からない状況は非常にドキドキしてしまう。

 カズチなら大丈夫だと思うけど、やはり結果は出てみないと分からないものだ。


「それにしても、ジンは本当に鍛冶師にも錬成師にもなりそうだな」

「夢は大きく、魔導スキルだって極めたいと思っています!」

「ピッキャキャーン!」


 ガーレッドは僕の真似をして胸を張っている。

 そんな可愛らしい光景に笑みを浮かべながら、僕はカズチに気になっていたことを聞いてみる。


「……カズチはさ、錬成スキルを持っていない僕が錬成部屋を持てたとしたら、どう思う?」

「どうって、そりゃあ凄えって思うんじゃないか?」

「まあ、凄いんだけど……嫉妬したりしない?」

「……あー、そういうことか。俺はジンのスキルのことを知ってるからなんとも思わないけど、そうだな……他の本職の錬成師から見れば、悪目立ちするかもしれないな」

「だよねー。それなら、錬成部屋の許可は下りないかもね。というか、許可されても断るべきかも」

「いや、断るまではしなくていいんじゃないか? ジンらしくもねえし」

「むっ、僕らしくないってどういうこと? これでも悩んでるんですけどー」


 卒業するしないはさておき、本音を言えば当然ながら錬成部屋は欲しい。だけど、カズチが言うように悪目立ちしてしまうのは避けたいところである。

 加入してから数ヶ月経っているとはいえ、僕は『神の槌』でいえば新人であり、一番下の後輩だ。

 多くの先輩を差し置いて鍛冶部屋だけではなく、錬成部屋まで造ってもらったとしたら……あぁ、やっぱり嬉しいかも。


「……困った顔をしたり、にやけたり、大丈夫か?」

「えっ、そんな顔してた?」

「……はぁ。なんか、俺の悩みが可愛く思えてきたよ」


 どこにそんな要素がありましたかね!


「ジンの場合は確かに悪目立ちしちまうけど、結果を残しているからいいんじゃないのか? 結果がなければ棟梁も認めないだろうし、造られるってことが棟梁からの信頼の証でもあるからな」

「……そういうものかな?」

「信頼してないやつに鍛冶部屋や錬成部屋を造ると思うか? どれだけの金が動くと思ってるんだよ」

「どれくらいなの?」

「それは……知らねえけど」


 あっ、やっぱり知らないんだ。

 カズチがお金の回り方を知っていたらびっくりだよ。

 もし知っているなら、サラおばちゃんとのやりとりで困惑することもなかっただろうし。


「まあ、今の僕たちが考えても仕方がないよね」

「……そうだな、確かにそうだ。あー、それなら部屋に戻って錬成の練習でもしておくべきだったかも」

「ぼ、僕を差し置いて練習だなんて、羨ましすぎるよ!」

「いや、冗談だし。それにそこは怒るところじゃないのか?」


 今の会話の中で、どこに怒る要素があったのだろうか。錬成の練習ができるなんて、羨ましいじゃないか!


「……はぁ。やっぱりジンはジンだな」

「その言い方、絶対に褒めてないよね!」

「俺はリラックスできたからいいんだけどな。ありがとうな」


 ……むむっ、お礼を言われたら何も言い返せないじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る