久しぶりの三人と一匹

 落ち着いてカズチと話をするのも久しぶりでついつい話し込んでしまった。

 気がつけば夜の一の鐘が鳴り、僕たちは食堂に足を運んだ。

 多くの職人で溢れかえる食堂の列に並び、順番が回ってきたのでいつものオススメを注文する。


「ピキャキャーピキャー」


 そして、最近ではガーレッドも注文をしているつもりのようで、毎回カウンターで声を出している。

 新鮮野菜と果物の盛り合わせもいつも通り注文して席に着いてから数分後、これまた久しぶりにルルが料理を運んできてくれた──一人分多く。


「人も多いのに、よかったの?」

「ジンくんとの食事も久しぶりだろうからって、料理長が休憩をくれたんだー」

「そういえば、三人で飯を食べるのって、確かに久しぶりだな」

「ピギャー!」

「そうだったな、ガーレッドもいたよな、すまんすまん」


 カズチの言う通り、三人と一匹での食事は久しぶりだ。

 僕が王都に行っていたのもあるし、帰ってきてからもしばらくは忙しくて、暇になっても時間が合わなかったんだよね。


「ルルにも教えてやったらどうだ?」

「えっ、なになに、何かあったの?」

「小声でね? あまり大きな声で言えないから」


 人の目が気になってしまうこともあり、僕たちは顔を寄せて鍛冶師見習いの卒業についてルルに教えた。


「凄いね!」

「だけど、加入したばかりの僕が卒業だなんて知られたら大変じゃないかって思うんだ」

「そうかな? ゴブニュ様の弟子なんだから、それくらい規格外でもいいと思うんだけど」

「……そう言われると、そうかもしれないな」

「カズチまで。でもそれだったら、カズチだってソニンさんの弟子なんだから、錬成師の卒業が早くてもいいんじゃないの?」

「えっ? もしかして、カズチくんも卒業が決まったの?」

「いや、俺はまだだよ。今日錬成した素材を棟梁に見せて、その結果で決まるんだ」

「でもそれって凄いことだよ! 二人とも凄い凄い!」


 興奮するルルに少し照れながらも、喜んでくれる人がいるというのは嬉しいことだと思ってしまう。

 僕は僕で、しっかりと鍛冶師としての仕事をこなすことができれば『神の槌』へ恩返しもできるのだと考えれば、卒業も良いのかもしれない。……まあ、一番は鍛冶部屋を自由にできることだけど。


「……そっか」

「どうしたんだ?」

「いや、鍛冶部屋を自由にできるってことは、これから鍛冶の練習をしてもいいんだって思ってさ」

「これからって、もう夜だよ?」

「あー、こうなるからジンに鍛冶部屋を自由に使わせるのはマズかったのか」

「何それ、酷いんだけど」


 鉄は熱いうちに打てというじゃないか。僕の気持ちも熱いうちに行動へ移した方が良いに決まっているのだ。


「ジンの場合は、自由に使えるとはいっても自分で時間を決めた方がいいんじゃないか?」

「そうかもしれないね。そうじゃないとジンくん、絶対出てこないもの」

「出てくるよ!」

「本当かなぁ? それが嘘だったら、ガーレッドちゃんが可哀想だよ?」

「ピギャー」

「うっ! ……そ、そこでガーレッドを出してくるのは卑怯だと思うよ!」

「いや、出てこない気満々じゃねえかよ!」


 そ、そういうわけではないんだよ! ただ、たまーに長く引きこもることがあるかもしれないと内心で思っただけなんだよ!


「しばらくは俺たちが見守らないとヤバいかもな」

「私たちだけじゃあ無理だよ。やっぱり、ゴブニュ様やケヒート様にも声を掛けるべきだよ!」

「いやいや、僕の鍛冶部屋だから! せめて二人だけにしてよ!」

「見守られるのはいいんだな」

「……えっと、あー……誘導尋問だ!」


 なんかここ最近はこんなんばっかだよ!


「でも、ジンくんの場合は本当に引きこもりそうだから怖いなぁ」

「ガーレッドがジンを守る為に頑張らないといけないからな、気を付けるんだぞ」

「ピッピキャン!」

「変なことをガーレッドに教えないで!」

「ビー……ビビッ!」


 ……えぇー、めっちゃやる気になってるしー。


「これならしばらくは安心かもな」

「ガーレッドちゃんがいてくれて、本当によかったよー」

「……もう! 分かったから、気を付けるから!」


 これ以上何を言っても二人に勝てないことが十分分かりました!


「……ビー」

「……ガーレッドにも勝てません」


 確かに鍛冶は大切だけど、今の僕にはガーレッドの方が大事なのだ。


「それじゃあ、鍛冶は明日にして、今日はゆっくり休もうと思います」

「そうしてくれ」

「その方が絶対にいいよ」

「ピッピキュー」


 ……マジで気を付けなきゃなぁ。

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