ガーレッドと炎晶石

 食事を終えた僕たちはその場で別れると、部屋に戻ってガーレッドとの戯れタイムである。

 いつものようにしばらくは遊んでいたのだが、僕はすっかり忘れていたある石のことを思い出した。


「そういえば、王様から砕けた炎晶石えんしょうせきを貰ったんだっけ」

「ピキャ!」

「あっ、やっぱり食べたいの?」

「ピキャキャー!」


 どうやら相当食べたいみたいだ。両手をパタパタさせるだけではなく、僕の足を必死に叩いている。

 そういえば、僕が炎晶石を貰った時にガーレッドは寝ていたんだっけ。


「でも、食事を摂ったばかりだからなぁ」

「ピギャ!」

「……それじゃあ、一欠片だけだよ?」

「ピッキャキャーン!」


 こんなに喜んでもらえるなら、もっとあげてもいいかな? ……いや、ダメだ。寝る前の食事は太るって言われてきたじゃないか!


「一番小さな欠けらは……これだな。ほら、ガーレッド、食べる?」

「ピキャキャ! ピキャキャー!」

「はいはい、焦らなくても無くならないよ」


 僕は手のひらに欠けらを載せてガーレッドの前に持っていくと、すぐに両手で掴んで口に運んでしまう。

 口の中からガリガリと炎晶石をかじる音が聞こえてきた時は少しだけ驚いてしまったけど、ガーレッドの表情がとても嬉しそうなので気にしないことにした。


「美味しいの?」

「ピーキュー!」

「それなら良かったよ」


 食事……ではなくおやつになるのかな? を終えたガーレッドは、眠くなったのか大きな欠伸をしている。

 すぐに抱き上げてベッドに寝かせ、優しく頭を撫でてやればあっという間に眠ってしまった。

 僕もそのまま眠りについても良かったのだが、やっておかなければならないことがあるのでそちらを先に考えることにした。


「二人のナイフ、どういったものにしようかな」


 銀色のミスリルと橙色のアスクード。

 個人的な趣味でいえば、やはり日本刀を打ちたい、ナイフのように短い刃長のものなら短刀などを打ちたいというのが本音だが、相手がいる武器を打つ場合は使いやすさを重視する必要がある。

 これは趣味でも遊びでも練習でもない、相手がいる本番なのだ。


「諸刃は当然として、刃長と柄部分は意識する必要があるだろうな。鍔もデザインしたいけど……そういえば、ラウルさんとロワルさんは双子だったよね」


 基本のデザインは同じとして、鍔に少し趣向を凝らしてみてもいいかもしれない。

 気に入ってくれるかどうかは分からないけど、格好良い気もする。

 僕は頭の中で考えていたことを、実際の形にしてみようと思い立った。


「……鍛冶スキル、どういう感じで反映されるんだろう」


 そもそも、いつから習得できていたのかも分からないのだ。

 旅の間で打った武器は三つ……いや、カマドの外ではキルト鉱石でショートソードも打っている。

 どの鍛冶から鍛冶スキルの恩恵が反映されていたのか気になるところではあるが、もしかしたら最後に打った雷切らいきりで習得できたという可能性もあるわけで、そうなれば習得してから初めての鍛冶になるので結果が楽しみだ。


「こればっかりは、明日打ってみてからじゃないと分からないか」


 英雄の器と鍛冶スキルのコンボ。

 単純に鍛冶スキルの効果一〇倍ということであれば、相応の武器が出来上がるはず。


「……あれ? よくよく考えると、ランク一〇倍じゃなくて、効果一〇倍なんだよね」


 スキルの効果って、レベルが変わるとどれだけの差が出るのだろうか。

 一から二になれば、その効果が単純に倍になるのか、それとも倍以上の効果があるのか。


「……あー、思考が明後日に向いちゃったか」


 いかんいかん、今は明日の鍛冶に集中しなければいけない。

 斥候とはいえ魔獣と遭遇することもあるだろうし、討伐となれば戦闘にも参加するだろう。


魔護符まごふを作れたら、また色々と選択の幅も増えただろうなぁ」


 武具に属性を付与する方法は二種類ある。

 カズチが行った錬成の時に素材へ付与する方法と、鍛冶の時に魔護符を使用して付与する方法。

 ミスリルとアスクードには付与がされていないので、魔護符が作れたらと考えてしまう。


「……ゾラさんかソニンさんに聞いてみようかな」


 そんなことを考えていると、外から五の鐘が聞こえてきた。


「あれ、もうこんな時間か」


 考え事をしていたら、時間が過ぎるのは早いものである。

 僕はガーレッドを寝顔を見て癒されながら、気持ちよく眠りについた。

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