冬の山・ブリザードマウンテン

キャラバンを始めて一年

 本格的なキャラバン活動が始まってから一年が経過した。

 僕たちはベルドランドという国の隅から隅まで移動を繰り返し、道中で遭遇した冒険者や隊商に商品を売りながら進んでいた。

 最初のお客さんは冒険者パーティだったが、若い職人や護衛冒険者ばかりのキャラバンに怪訝な表情をされたもののパーティの一人が作品の質に目を付けて購入してくれたのだ。

 すると、しばらくして同じパーティがわざわざ僕たちを探して追加の購入をしてくれたところから流れが大きく変わってくれた。


『――この剣、やっぱり凄い切れ味だったよ!』

『――俺も買いたいから追い掛けてきたんだ!』

『――私も買いたいの! お願い!』


 ここからは推測になってしまうのだが、初めてのお客さんが口伝で宣伝してくれたんだろうと思う。

 二度目の購入をしてくれてからしばらくして、冒険者から声を掛けられる事が多くなった。

 中には『若い職人の作品なんて』と敬遠しながら購入していく冒険者もいたのだが、次に顔を合わせると笑顔で新しい剣を購入してくれた時は心の中でガッツポーズをしたものだ。


 そんな中で隊商の方から声を掛けられた時は驚いたのだが、さらに驚いたのは大量の仕入れでなくても購入したいと申し出てきた時である。

 なんでも、僕たちのキャラバンはその時点で結構な知名度を誇っていたようで、変な話が転売のような形になるがどうだろうか? と言われたのだ。

 正直な話、転売は勘弁してほしかった。しかし、こうしてはっきりと許可を求めて来られたのも初めてだったし、少なからずキャラバンで購入した作品を転売している人はいるかもしれないと思っている。

 ならば、こうしてはっきりと許可を求めてくれた人には転売という形ではなく単純に仕入れという形で対応してもらおうと考えた。

 何度も『本当に良いのですか?』と確認されたのだが、正直に言おう――在庫なら大量にあるのだ。

 不良在庫になりかけていた作品を一気に放出する事ができるとなれば、飛びつかないわけにはいかなかった。


「――いやー、儲けられたねー!」

「ジン、あれって本当によかったの?」


 僕の隣ではユウキが呆れた声を漏らしている。


「いいんじゃないの? あっちもしっかりと目利きをして買っていったんだし。僕が提示した金額以上の支払いをしてくれたんだからさ」


 あちらがどれだけの金額で作品を売るのかは分からないが、僕は僕で提示した以上の金額を手に入れる事ができているので問題はない。

 あちらはあちらで儲けを出すために多少は色を付けて販売する事は当然想像できるが、それが商売というものだ。


 そんなこんなが続いて、初めて訪れた都市でも僕たちのキャラバンは好意的に迎え入れてもらえた。

 しかし、全てが好意的に迎え入れられたわけではない。中には若い集団である僕たちを襲って作品や儲けを奪い取ろうとする輩もいたのだ。

 それでもこちらには十分な戦力が揃っている。

 すでに上級冒険者並みの実力を付けているユウキ。国家騎士団に所属していたマギド。魔導師として復帰を果たして実力を伸ばしているルル。そして精霊魔法を駆使するリューネさん。

 今では僕も戦力に数えられるくらいに強くなっているが、一番の戦力と言えば二匹の霊獣だろう。


「ビッギャギャー!」

「ガルアアアアッ!」


 制空権を取れるガーレッドが火を吐けば、あっという間に野盗は散り散りに逃げていく。

 フルムが駆ければ風となり、すれ違いざまの雷撃で意識を刈り取る。

 はっきり言って、僕が前に出なくても勝てちゃうんだよねぇ。


「私もやる事がありません」

「フローラさんは回復をメインにするって決めたじゃないですか」

「そうなんですが……さすがに冒険者としてどうかと思う時があるんですよ」


 苦笑を浮かべるフローラさんに笑みを返すと、僕は自業自得な野盗をただただ見つめるだけだった。


 そして――現在。


「……いやー、吹雪いてるねー!」

「そ、それはそうだろ! だってここ――ブリザードマウンテンだぞ!」


 カズチの叫び声が吹雪によって掻き消されてしまうが、何を言おうとしているのかは何となく分かった。

 しかし、これはキャラバンの性質上、仕方がないのだ。


「自由に進んでいたらこっちに来ちゃったんだから、仕方ないよねー!」

「んなわけあるかーっ!」


 うん、今回も何を言っているのかがはっきりと聞こえた気がする。

 まあ、カズチが何を言いたいのかも理解できる。僕たちは今――極寒の地であるブリザードマウンテンにやって来ているのだから。

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