選抜戦④
休憩を挟んで行われた準決勝だったが、番狂わせなどもなくマギドさんとギャレオさんが決勝に勝ち上がった。
二人とも圧倒的な実力を見せての勝ち上がりだったため、周囲の勝利者予想は完全に分かれていた。
「ユウキはマギドさんが優勝する予想なんだよね?」
「そうだね。実際にまだ魔法を使ってないから、そこの優位はあるかなって思ってるよ」
「でも、ギャレオって騎士もすげえ強かったぞ?」
「うーん、騎士の事はさっぱり分からないなぁ」
「私もです、ルルさん」
僕たちが予想を続けている間、リューネさんだけはこの場にいない。……というか、連れて行かれた。
「リューネ様! ぜひとも精霊魔法についてご教授いただけないだろうか!」
「魔導師長に勝利したあのお姿! とても凛々しかったです!」
「はああぁぁぁぁ~! リューネ様、とてもお美しい!」
国家魔導師たちに連れて行かれ、囲まれて色々と質問をされているのだ。
中にはリューネさんに取り入ろうとしている者もいたり、同性であるのだがすり寄っている者までいる。
……いや、そちらに関しては国家騎士の中にもいたか。
「……うぅぅ、面倒くさい~」
「ははは。そう言わないでください、リューネ殿」
いつものリューネさんならさっさと逃げ出しそうなものだが、隣にユージリオさんがいるので留まっている。屋敷に泊めてもらっているし、恩義を感じているのだろうか?
「そろそろ決勝戦も始まるかな?」
「だろうね。……あ、ギャレオさんが出てきたよ」
集中しているのだろう。鋭い眼差しのまま稽古場に姿を現した。
そして、逆側の通路からは遅れてマギドさんが。
互いに目が合い睨み合う……のかと思いきや、二人共ニヤリと笑みを浮かべている。
「こうして真剣勝負をするのは久しぶりか、マギド」
「はい! 俺は、ギャレオさんを目標に鍛錬を積んできました。だから、ここで負けるわけにはいきません!」
「それは俺も同じだ。確かにお前の剣の腕は天才的だ。だが、先輩にも意地ってものがあるからな。勝たせてもらうぞ」
会話はそこで終わり、剣を抜いて構えを取る。
それを準備完了の合図と見たか、ポーラ騎士団長が右手を上げた。
最初の頃のだらけた様子も今はなく、真剣に眼差しで二人を見据える。そして――
「決勝戦――始め!」
両者が開始と同時に前に出ると、剣と双剣がぶつかり合う。
だが、音は一度だけで終わらずに二度、三度と鳴り響いていく。
最初の攻防で打ち合いを終えると、二人が左右に飛び退いて円を描くように走り出す。
仕掛けるタイミングを見極めている様子だったが、先に前に出たのはマギドさんだった。
「ウインドカッター!」
自らの周囲に風の刃を顕現させると、放つことなく留めたまま無属性魔法も同時に使って間合いを詰めていく。
ただでさえ双剣で手数の多いマギドさんだが、そこに風の刃まで顕現させられると剣一本では対応できなくなるのではと思っていた。
「ファイアボール!」
しかし、魔法には魔法をぶつけるのは当然である。
ギャレオさんはファイアボールを顕現させると素直に放ちウインドカッターを相殺していく。
爆発が起こり黒煙が広がって視界を塞いでしまう。
それでも黒煙の中では剣戟音が響いており打ち合っているのがすぐに分かった。
だが、その中で決着がつくという事もなく黒煙の中から二人が飛び出してきた。
「……ウインドカッター」
「同じ攻撃で俺を倒せるとでも? ファイアアロー!」
先ほどはファイアボールで相殺を狙ったギャレオさんだったが、今度は威力よりも数で勝負と大量の炎の矢を顕現させた。
「貫け!」
打ち出された二桁に迫る炎の矢を前に、マギドさんの表情が笑みを刻んだ。
「トルネード!」
「何!? ブラフか!」
顕現させていたウインドカッターが一つにまとまると、そこへさらに魔力を注ぎこんで巨大な竜巻を作り出した。
威力を落としての数重視に変えていた炎の矢は突風にあおられて消えてしまう。
そして、突風は勢いを落とすことなくギャレオさんへと襲い掛かり動きを制限する。
「くっ! だが、この程度の風なら――!?」
無属性魔法を使って風の中から逃れようとしたギャレオさんだったが、その表情が驚きに彩られた。
「……マギドさんの勝ちだね」
一瞬の迷いが敗北につながる。目の前の試合はその事を証明してくれた。
何にギャレオさんが驚いたのか。それは、自らが作り出したトルネードの中にマギドさんが突っ込んできたからだ。
風の巧みに操り、無属性魔法で加速したその身を風の力で超加速へと変換し、ギャレオさんの予想を上回る速度で突っ込んできた。
右の剣を防ぐことはできたものの、左の剣をその身に受けてしまい、片膝を折る。
「それまで! 勝者――マギド・アブーダ!」
ポーラ騎士団長がマギドさんの名前を告げると、周囲から大歓声が巻き起こった。
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