マギドの提案

 選抜戦が終わりこれで自由になる――そう思っていたのだが、マギドさんからまさかの提案が口にされた。


「おめでとう、マギド。良い試合だったぞ」

「ありがとうございます、ポーラ様。……ですが、一つお願いがございます」

「……お願いか。何だ、言うだけ言ってみなさい」

「はい。俺は――ユウキ・ライオネルと模擬戦をしたいと考えています!」


 ユウキをご指名での模擬戦。

 マギドさんの視線がユウキを捉え、ユウキも真っすぐにマギドさんを見つめている。

 もしかすると、ユウキはこの展開を予想していたのかもしれない。


「……ユウキ殿。マギドはこのように申しておりますが、いかがなさいますか?」

「構いません。ですが、マギドさんはここまで何試合も戦ってきています。後日でもいいですし、今日であれば休憩を挟んでも構いませんが?」

「いいえ、今すぐにお願いします!」


 自信家なのか、それとも別の目的があるのか。

 国家騎士だからゼリングランドの間者という可能性は限りなく低いと思うけど、ユウキの判断はどうなるかな。


「……分かりました。やりましょう」

「ありがとうございます!」


 お礼を口にしているが、その視線は鋭くきついものがある。冒険者だからと下に見ているのだろうか?


「行ってくるよ、ジン」

「気を付けてね」


 僕の心配をよそに、ユウキはニコリと笑って稽古場の中央へ歩いていく。

 近くからマギドさんと対峙し、ユウキの表情が引き締まる。


「……オレリア様は俺の師匠でした。ユウキさんとの模擬戦を見ていましたが、あなたの強さを俺も実感したいんです」

「僕は強くありません。魔法も使えませんし、必死にやって勝てなかったんですからね」

「それでも、俺の目にはユウキさんの実力が高く見えました。……一戦、お願いします!」


 うん。マギドさん、めっちゃいい人だったよ。なんか、変な疑いを持ってごめんなさい。

 というわけで、ポーラ騎士団長も模擬戦に納得したのか審判を買って出てくれ、互いに準備ができたかどうかを確認している。

 ユウキも手に馴染む木剣を手にして何度も素振りをすると、大きく息を吐いて一つ頷いた。

 マギドさんはすでにやる気満々で、身動き一つせずにその場でユウキを見つめている。

 そして、二人が構えを取るとポーラ騎士団長が右手を上げた。


「では、特別模擬戦――開始!」


 タイプ的には似ているだろう二人。無属性魔法の適時発動、速度重視の戦闘スタイルであり、ヒットアンドアウェイを多用するのも似ている。

 そして、試合は開始から目にも止まらぬ速さで剣戟が鳴り響いていた。


「……なあ、ジン。お前、見えてるか?」

「うーん……ギリギリ?」

「凄いですね。私は全く見えません」

「私も無理だなー。他の騎士様も見えてるのかなー?」


 カズチの質問も仕方がないだろう。これ、見えていない人はだいぶ暇になってるんじゃないだろうか。……まあ、音は聞こえるし楽しみ方は人それぞれかな?


「ウインドカッター!」


 似た戦闘スタイルであるものの、マギドさんには魔法がある。

 ギャレオさんとの試合でも見せたウインドカッターを顕現させて双剣と同時に仕掛けてきた。

 一方のユウキは全ての動きに敏感に反応して回避と受けに意識を集中させている。

 攻撃を捨てた分、ダメージを受ける事なく凌ぎ切ったユウキはウインドカッターが消えた途端に攻勢に出る。


「くっ! うおっ!」


 攻めに重心を置いたユウキの剣速は、双剣を扱うマギドさんを上回っていた。

 マギドさんに魔法を使う隙を与えず、離れようとしても距離を空けさせず、無属性魔法の適時発動を捨てて常時発動に切り替えている。

 ここが勝負どころだとユウキは踏んだようだ。


「う、うおおおおおおおおっ!」


 そして、マギドさんも常時発動に切り替えてユウキとの斬り合いに応じる構えを見せた。だが――


「斬り合いをするつもりはないよ」

「なあっ!?」


 マギドさんのペースを崩したユウキが大きく後方へ飛び退くと、マギドさんは驚きと共に歯噛みする。

 決めに行くつもりだったからか、次の一手をどうするべきか必死に考えているように見える。

 そして、ユウキはここから先の展開を思い描いていたからか素早く次の行動に移していた。


「ト、トルネ――っ!?」

「……僕の勝ちですね」


 マギドさんまでの最短距離を全力の無属性魔法で駆け抜け、さらに全身を前に伸ばしてギリギリのところで剣先がマギドさんの喉元で寸止めされていた。


「……さすがです、ユウキさん。……いや、師匠!」

「…………はい?」

「勝者! ユウキ・ライオネル!」


 勝者の名前を告げたポーラ騎士団長の声に今回も大歓声が巻き起こったが、突如として師匠と呼ばれたユウキは口を開けたまま固まっていたのだった。

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