師弟の誕生?

 お開きとなった選抜戦。

 稽古場から少しずつ観戦者たちが去っていく中、優勝したマギドさん、そして決勝の対戦相手だったギャレオさんには残ってもらっている。

 今回、同行者は優勝した人だけなのでマギドさんに残ってもらうのは当然なのだが、何故ギャレオさんにも残ってもらっているかというと――


「せっかくなので、僕でよろしければ剣を打とうかと思いまして」

「よ、よろしいのですか!?」

「ですが、マギドは分かりますが、私もですか?」

「うん。だって、あれだけ素晴らしい試合をしてくれたんですから、何もないのは申し訳なくて」


 僕としては鍛冶ができればいいので、何かしら理由を付けられれば問題ない。

 予想外だったのかギャレオさんは最初こそポカンと口を開けていたが、徐々に嬉しくなったのか顔をほころばせている。

 しかし、そうなると止まらなくなる人物が一人残っていた。


「わ、私にもお願いしますぞ、ジン殿!」

「……えぇぇ~」

「な、何故ですか! 本来であれば私も選抜戦に参加するはずだったのです! それなのに、それなのにいいいいぃぃっ!!」

「わ、分かりましたから! ポーラ騎士団長にも打ちますから!」


 ゴゴゴゴと擬音が聞こえてきそうな睨みをマギドさんとギャレオさんに利かせていたので、ここで打つと言わなければギャレオさん辺りは奪われかねない。

 ……まあ、オーダーメイドで打つつもりだからポーラ騎士団長がギャレオさんの剣を奪っても使い辛いだろうけど。


「……であれば、私も」

「……オレリア隊長?」

「その、ポーラ様と、お揃いの剣を」


 頬を赤く染めながら口にしているのだが、ポーラ騎士団長は気づいていないのか面白そうに笑っている。

 そして、マギドさんとギャレオさんは若干引いていた。


「あれ? という事は、マギドさんの双剣とギャレオさん、ポーラ騎士団長、オレリア隊長の剣だから、合計で五本になるのか」

「あの、予想以上の数になると思いますので、私は遠慮しますよ?」

「いいえ、僕が決めた事ですから貰ってください」

「……ありがとうございます!」


 とはいえ、五本となればさすがに一日で打つのは厳しくなる。

 みんなも騎士団として仕事もあるだろうし、順番で打っていく必要があるな。


「明日も時間がある人はいますか?」

「私とオレリアは仕事があるな」

「……お二人って、いつも一緒なんですか?」

「その通りです! 私とポーラ様は一心同体なのです」

「……それじゃあ、マギドさんとギャレオさんは?」


 うん、こういう時は無視に限る。僕から話を振ったから悪い気もするけど。


「お、俺は大丈夫です」

「私も問題ありません。元々、選抜戦のトーナメントに勝ち上がった騎士は翌日休みになるよう差配してくれていましたから」

「ならよかった。今日はポーラ騎士団長とオレリア隊長の剣を打って、明日に二人の剣を打つでいいでしょうか?」

「おぉっ! 今日すぐに打ってくれるのですか!」

「お、お揃いの剣でよろしくお願いします!」


 ……オレリア隊長、面倒くさいな!

 だがまあ、ポーラ騎士団長も嫌がっているわけじゃないし問題はないか。


「カズチー! 錬成なんだけど――」

「お前、俺を殺す気か!」

「ごめん」

「……はぁ。すぐに謝るって事は、無理を言ってる自覚はあるんだな」

「む! 無理をさせているのであれば、後日でも構わないぞ!」

「いいえ、やります。俺も一人前の錬成師として、一日一回の錬成しかできないじゃ話になりませんから」


 本当に感謝申し上げると、カズチ。

 僕が錬成をしてもいいんだけど、鍛冶もするとなればそちらに全ての力を注ぎたい。

 カズチに甘えすぎなのは否定しないが、応えてくれるから頼りになる。


「素材ですが、さすがにオシド近衛隊長が賜ったアダマンタイトとかはないですよ?」

「もちろんだ! ……むしろ、アダマンタイトをゴロゴロ持っていたら驚愕するぞ!」


 おっ、そういうところは冷静なのね、ポーラ騎士団長。


「それじゃあまずはお二人の剣を見せてくれますか? なるべく今の剣に合わせて作っていくので」


 僕の言葉に二人はすぐさま剣を抜いて手渡してくれる。

 最初はポーラ騎士団長だが、素材に使われているのはエレフィライトという光属性に強い適性を持っている鉱石。アダマンタイト程ではないが、こちらも貴重な鉱石だ。

 そしてオレリア隊長の剣は鉱石ではなく魔獣素材、土竜アースドラゴンの鱗を使っており、こちらは土属性に強い適性を持っている。


「……これを超える剣を打てと?」

「ジン殿なら可能です!」

「私はお揃いであれば問題ありません!」


 こちとら職人なんですよ! 観賞用以外で使われない剣を打つとか、あり得ないからな!

 魔獣素材を使うとなればお揃いで作るのは難しい。形を整えるだけなら可能だが、どうせなら素材から合わせるか似たようなもので揃えたい。


「魔獣素材だと、それがないんだよなぁ」

「光と土属性って時点で難しくないか?」

「そうだよねぇ。……仕方ない、形を整えて対の剣を作ってみるか」


 カズチと相談しながら、僕たちは素材を決定して稽古場に土窯を作り出した。

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