ナルグとタバサ
食堂をバタバタと後にした僕達は、流れでカズチの部屋に向かうことになった。
僕としては予定がなかったのでよかったんだけど、三人は錬成の勉強をしなくていいのだろうか。
「あぁ、午前の部が終わったからな。今は休み時間ってこと」
「私達もこれからどうしようかって話してるところにコープス君が現れたからね、期待の新人君に話を聞きたいと思ったのよ」
「期待の新人って、カズチどんな説明をしたんだよ」
「そのままだけど。色んな騒動を引っ張り込んでくるって」
「どこが期待の新人なんだよ!」
酷い説明に憤っているにも関わらず、ナルグとタバサは大笑いだ。
「あはは! 本当にカズチと仲がいいんだな、驚いたよ」
「同年代の子とは仲良くなれないと思っていたから心配してたのよ」
「俺って、そんなに心配されてたんですか?」
ぶすっとしながら呟くカズチに対して、ナルグ先輩が当然とばかりに答える。
「そりゃそーだろ。ただでさえ副棟梁の弟子ってだけで目立ってるのに、それが悪ガキときたもんだ。心配される要素しかねぇよ」
「……悪ガキじゃねえし」
「はいはい、ナルグもディアン君をいじめないの」
三人のやり取りを見ていると、とても仲良しのようで羨ましい。
食堂で嫌な視線に晒されたからか、その感情が顕著に現れているようだ。
「……ジン、どうしたんだ?」
「ピキュキュー?」
そして、これまた顔に出ているらしい。
「何でもないよ!」
「むっふっふー、コープス少年よ、寂しいのだなぁ?」
僕の心を盗み見たようにズバリ指摘してきたナルグ先輩は、突然肩に手を回してきて密着してきた。
「分かる、分かるぞー少年よ! 一匹狼が格好いい時代なんて昔の話さ。今は誰かと寄り添うことこそが大事なんだよ!」
「は、はぁ」
「少年が寂しいと思うなら、俺が一緒にいてやろう! 俺のことは、お兄さんと呼んでもいいんだぞ?」
「いえ、遠慮しときます」
「返し早いなおい!」
えっと、何この人、やばくない?
「ちょっとナルグ、コープス君が引いてるから」
「何でよ! カズチもお兄さんと呼ばないし、ジンもかよ!」
「いや、兄貴じゃないし」
「同じく」
「ぬううぅぅおおおおぉぉぉぉっ!」
何でそんなに悶え苦しんでいるのだろう。ブラコンってやつですか?
「ナルグ先輩は弟さんがいるんですか?」
「いんや、いないけど」
「……えっ、妹さん?」
「いないよ。兄貴が三人」
「…………あー、憧れですか、へー」
「えっ、何でそんなに虚しい感じなの?」
うーん、僕には共感できない感覚だからだろうな。
カズチは……うん、カズチも嫌そうな顔をしているから僕が少数派ではなさそうだ。
「……ナルグ、ドンマイ」
「ぐはあっ!」
タバサの一言に崩れ落ちたナルグをそのままに、僕はカズチと二人の関係を聞いてみることにした。
「カズチはどうやって二人と知り合ったの?」
「声をかけてくれたんだよ」
「あー、心配されてたから?」
「……まあ、そうなるのかな」
「まさにその通りね」
答えてくれたのはタバサ先輩だ。
快活に話すその姿は男性にもそうだが、女性にもモテそうな人だと感じた。
「この子ったら、近よる人全員を睨みつけていたもんだから副棟梁も頭を抱えていたのよ。それで私とそこの変な奴に声がかかったってわけ」
「変な奴は酷くないかな!」
おや、僕の専売特許である変な人がこんなところにも。
「べ、別に弟が欲しいとかそんなんじゃないんだぞ! 単純にカズチのことが心配だったってだけさ」
「はいはい、そういうことにしておきましょう」
「……お二人は付き合ってるんですか?」
「「ないから!」」
いや、息ピッタリなんですけど。
雰囲気も良いし息もピッタリ、ナルグさんも格好良い系だから美男美女カップルになると思うんだけどな。
あっ! せっかく錬成師が三人もいるんだから、カズチにお願いしようとしてたことを二人にもお願いしてみよう。
「ねぇねぇ、錬成でいらなくなった素材とかないですかね?」
「いらなくなった素材? そんなもの何に使うんだ?」
「鍛冶の練習に使うんです。カズチから練習用にいくつか貰ったんですけど、それも無くなりそうなので」
「げっ! 結構あげたのにもう無くなりそうなのか?」
「昨日一気に使ったでしょ? 今日の朝確認したら少なくなってたんだよね。僕の錬成はストップしてるから増やせないんだよね」
錬成ができない中で、素材が無くなり鍛冶までできないとなれば発狂するしかない。
カズチもソニンさんがいないので錬成の回数は少ないだろうけど、今日みたいに錬成場で練習できるからどうだろうと思ったのだ。
「今はケルン石の錬成を中心にやってるからな。銅の錬成をやってないんだよ」
「そっかぁ。錬成布もないし僕が持ってる素材を錬成するわけにもいかないし……」
「なんだ、いらない錬成済みの銅が欲しいのか?」
「はい。ジュマ先輩に負けるとゾラさんの弟子を辞めさせられる可能性があるので」
「はあ? 何あいつ、そんなこと言ってるわけ?年下の子供に何やってるんだか」
呆れ顔のタバサは少し思案した後に、一つ頷いて口を開く。
「いいわよ、私の余ってる銅をあげる」
「俺のもいいぞ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「失敗作でいいんでしょ?」
「もちろんです! 売り物を貰うわけにはいかないので」
二人から貰えるとなればしばらくは鍛冶の自主練も問題ないだろう。
それに対して僕が何を返せるのか、そこを今度は考えなければならない。
「その代わりって言ったら悪いんだけどさ、霊獣を触らせてくれないか?」
「あっ! それ私も私も!」
「ピキュン?」
……僕からのお返しではないけれど、ガーレッドが良ければ僕は問題ない。
「ガーレッド、どうかな?」
「ピキャキャン! ピッピー!」
「まあ、そーだねー」
「何だ、なんて言ってるんだ?」
ガーレッドの意見は正しいだろう。僕も同意見だし、あの場にいた誰も否定しないだろう。
「えっと、ノーアさんに比べると全然大丈夫なんだって」
「「「……へっ?」」」
「ピキュン!」
まぁまぁ、ガーレッドがいいと言っているからいいんですよ。
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