人気者と錬成師事情

 僕の手からナルグにガーレッドを渡すと、キラキラした瞳で見つめた後に頭を軽く撫でている。

 男性であれ女性であれ、やはり可愛いは正義なんだよね。


「なあなあ、ガーレッドって野菜食べてたけど他にも食べるものとかあるのか?」

「基本は野菜とか果物が多いかな。あっ、でもこの前は炎晶石えんしょうせきのかけらを食べてましたね」

「……はっ? え、炎晶石を食べたのか?」

「ピキャン!」


 元気よく答えたガーレッドに苦笑しつつ、僕は炎晶石を食べた経緯を説明した。

 その場にいたカズチも補足してくれたので二人とも納得顔で頷いている。


「霊獣って晶石を食べるんだな」

「私も初めて聞いたわよ」

「そうなんですか?」


 僕はてっきりそういうものだとばかり思っていた。

 ガーレッドは火が好きだから炎晶石だっただけで、他の霊獣も属性に合わせた晶石を食べるんじゃないんだね。


「ガーレッドって何の霊獣なんだ?」


 当然の疑問ではあるが、それを答えることはできないだろう。

 馬や狼などのよく見る霊獣ならまだしも、ドラゴンという伝説級の霊獣だと知られれば思わぬところから事件がやって来るかもしれないのだ。


「……さあ、なんでしょう?」

「はあ? 知らないのか?」

「霊獣ってことはルルのおかげで分かったんですけど、何の霊獣なのかは分からないんです」

「そんなことってあるのかしら」

「珍しい霊獣だと思うってゾラさんは言ってたので、そうなんだーって思ってます」

「そうなんだー、じゃないだろ! ジンはそれでいいのか?」


 心配そうにこちらを見ているナルグ先輩。この人は本当に面倒見がいいらしい。初対面の僕に対してもカズチと同様に接してくれるんだから。

 だけど、そんな人だからこそ変に巻き込むわけにはいかないよね。


「いいと思いますよ。ガーレッドが可愛いことに変わりはありませんからねー」

「ピッキュキュー!」


 本音半分、嘘半分、といった感じで答える。

 納得してなさそうだったけど、そこまで突っ込んで聞ける仲でもないと割り切ったのか、ナルグ先輩は視線を外してガーレッドを見つめる。


「……まあ、お互いが納得してるならそれでいいのかもしれないな」

「心配してくれてありがとうございます」

「おう。何かあったらいつでも頼ってくれよ! ついでにお兄さんと――」

「呼びませんよ」

「ぐはうあっ!」


 ちょっと、ガーレッドを抱いたままで蹲らないでくださいよ!

 慌てている僕を見かねたのか、タバサさんがひょいとガーレッドを抱き上げてくれた。


「あぁ! 俺の癒しが!」

「あんたのじゃないでしょうが! ガーレッドも女性に抱っこされた方が嬉しいよねー」

「ピキュー?」


 そうなの? って、ガーレッドのことを言ってるんですけどー。


「ピキュキュキュンキュン!」

「あー、うん、ありがとう」

「えっ、何だって?」


 こ、これを自分の口から言うのか。少し恥ずかしいけど、嬉しいからいいよね。


「……ジンの抱っこが一番嬉しい、だって」

「ふふふ、愛されているのねー」

「ピキャン!」


 うん、そうだね。僕も大好きだけど恥ずかしいから少しストップしようねー。


「しかし霊獣かぁ、俺も欲しいなぁ」

「お兄さんって呼ばせるんですか?」

「霊獣に呼ばせるわけないだろ! ……いや待て、呼ばすことができるのか?」

「いや、無理でしょ」

「無理だろ」

「無理だと思いますよ」

「みんなして酷い! 特にジンは話を振っといて無理ってさらに酷いぞ!」


 あれ、そうかな。

 でも霊獣にまで言わせようとするとは、この人は本格的にやばい人かもしれない。


「ふん! いいのさ、俺のことを尊敬してくれる後輩を見つけてお兄さんと呼ばせてみせる!」


 うわー、なんか変な決意しちゃってるよ。


「……とりあえずその話は置いといて」

「マジで酷いな!」

「『神の槌』に錬成師って何人くらいいるんですか?」

「今だと副棟梁含めて十五名かな」

「えっ、それだけなんですか?」

「『神の槌』はあくまでも鍛冶クランだからね。錬成クランに比べたらやっぱり少ないわね。それでも鍛冶クランに所属している錬成師としては多い方なのよ」

「そうなんですか。でもそうなると忙しいんじゃないですか?」

「その通りなのよ!」


 僕が疑問を口にすると、タバサさんが声を大にして主張してきた。


「鍛冶師の人数に対して錬成師が少な過ぎるのよ。そのせいで私達はいつもフル稼働してるんだからね!」

「お、お疲れ様です」

「休みだって鍛冶師よりも少ないし、本当に大変なのよ!」

「あれ? でもカズチはよく僕に付き合ってくれてるよね?」


 そう考えるとカズチが僕に付き合ってくれてたのは結構な無理をしてたんじゃないだろうか。

 心配になり振り向くと、手を振りながら答えてくれた。


「俺はまだ見習いだからな。鍛冶師に渡す為の錬成を許されてないから、副棟梁の仕事の都合によっては結構自由が効くんだよ」

「そっか、よかった」

「まあ、たまに手伝うこともあるけどそれは全部ナルグさんとタバサさんにも確認してもらってるよ」

「えっ、手伝うのはいいんだ」


 何か矛盾してないか?

 気になったのでタバサ先輩に視線を向けるがサッと逸らされてしまった。次いでナルグ先輩に視線を向けるがこちらも逸らしてしまう。


「「……」」

「……ソニンさんに――」

「「猫の手も借りたいくらいなんだよーっ!」」


 あー、本当に切羽詰まってるんだね。

 そしてソニンさんには内緒で手伝わせていると。


「……僕も手伝えたらいいんだけどなぁ」

「「いいのか!」」

「いや、ダメだろ!」


 ……ちっ、カズチだけが冷静だったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る