お昼ご飯

 そうこうしているうちにお昼時間になっていた。

 ホームズさん達は細かなチェックをしてから交代で抜けるようなので、僕は先に事務室を後にして食堂へ向かう。

 食堂のピーク時間に向かうのは初めてかもしれないと思いながら向かうと――そこはさながら戦争のように料理人達の声がこだましていた。


「――Aランチ入ったよー!」

「――オススメランチ三つー!」

「――AとBの両方入ったよー!」

「――さっさと持っていきなー!」


 バタバタと忙しそうにしている厨房からは注文を受ける声と出来上がりを告げる声でてんやわんやだ。

 広間は広間でガタイの良い鍛冶師達と細っそりした錬成師達で入り乱れて食事をしている。

 その誰もが料理をかきこみ急いで食事をしているようだ。


 それもそのはずで窓口の列は途切れることなく並んでおり、お腹を空かせた職人達がまだかまだかと食堂内を睨みつけているのだ。

 こんな中で食事をするなら外に行ってもいいんじゃないかと思うのだが、やはりミーシュさんの料理が美味しいのだろう。

 並んでまで有名店の食事を食べたことがなかった僕だけど、ミーシュさんの料理なら食べたいと思えるね。

 ……クランの食堂だからタダだし。


「ルルー!」

「あっ! ジンくん、何にする?」

「オススメランチと、ガーレッドに新鮮な野菜を」

「はーい! オススメランチ一つと野菜でーす!」


 おぉ、ルルがこんなに大声を出してるところなんて初めて見たよ。

 ルルの注文にミーシュさんがちらりと顔を見せたのだが、僕だと知ると納得顔で引っ込んでいく。

 野菜をそのまま注文する人なんてそうそういないだろうからね。


 僕はそそくさと窓口を後にしてタイミングよく空いた席にさっさと座る。

 今更ながら、クラン内で自分が浮いていることに気付かされた。

 遠目からこちらを眺めている職人達の視線がだいぶ気になってしまう。


「ピキュキュ?」

「あっ、うん、大丈夫だよ」


 心配そうに呟くガーレッドの頭を撫でながら僕は答える。

 人の視線なんてあまり気にしたことがなかったけど、それは僕が他人から見てその他大勢だっただけであり、今は僕が異物として見られている。

 では感じ方がこれ程までに違うのかと実感させられた。


「おまたせー! ……って、ジンくんどうしたの?」

「へっ? 何でもないけど」

「何だか難しそうな顔をしてたよ」


 また顔に出ていたのか。もう隠せる気が一切しなくなってきたよ。


「本当に何でもないんだ。うわー、今日も美味しそうだね!」

「……あまり無理しちゃダメだよ?」

「……はーい」

「こっちはガーレッドの分だからねー」

「ピッピッピー!」


 両手をパタパタさせて喜んでいるガーレッドに癒されながら食事に手を伸ばす。

 ……うん、やっぱり美味しいや。

 野菜をガーレッドに与えながら交互に食べ進めていく。

 心なしか嫌な視線が和らいだ気がする。

 気づかれないように視線をあげると、ほんわかした表情で野菜を食べるガーレッドを見つめていた。

 やはり可愛いは正義である。


「――あれ、ジンとガーレッドだけか?」


 そこに声をかけてきたのはカズチだ。

 錬成場に行くと聞いていたが、お昼になれば食堂に現れるのは当然かと納得し、異物感が半端なかったので心底安堵したのだが、カズチの後ろには二人の見知らぬ人物も立っていた。


「おー! 君がジュマから喧嘩をふっかけられたっていう少年か!」

「ちょっと、初対面でその態度はないんじゃないの? ごめんね、君」


 僕の心配は杞憂のようで、二人ともフレンドリーに話しかけてくれた。


「えー、いいじゃないか別に。あっ、俺はナルグってんだ。ナルグ・パラス、初めまして」

「私はタバサ・エールよ、よろしくね」

「ジン・コープスです、よろしくお願いします」

「この席いいか?」

「うん、大丈夫だよ」

「ピキャキャー」

「おぉっ! これが霊獣か、遠目で見るよりも近くで見た方がやっぱり可愛いな!」

「本当ね、ずっと見ていられるわね」


 どこにいてもみんなのアイドル、それがガーレッドですから。


「えっと、お二人はカズチの先輩ですか?」

「おうよ! 俺が二年で、タバサが一年先輩だな」

「この子と付き合うのって大変でしょ? コープス君、本当にすごいと思うわよ」

「ちょっと、タバサさん!」


 あはは、初対面を思えばそうかもしれないね。


「……ジンも何でにやけてるんだ?」

「あれ、やっぱり顔に出てた?」

「もういいよ!」


 僕たちの席は自然と笑いに包まれた。

 先程までの雰囲気はどこに行ったのか、嫌な視線もカズチたちが来てからはなくなり、皆が食事に没頭し始めたようだ。


 あまり長居しても食堂の迷惑になるので話もそこそこに僕たちも食事をやや急ぎめで進めていく。

 その中でもちょこちょこと会話を挟みながらの食事は楽しかった。

 やはり誰かと摂る食事は楽しいものだと再認識できた時間だった。

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