可愛いもの好き
そろばんの話がひと段落ついたところで、ガーレッドがウズウズし始めた。
元々遊ぶ約束をしていたのだ、我慢をさせ過ぎてしまったと反省しながら約束を果たすことにした。
「ガーレッドが遊びたがってるので部屋に戻ろうと思います」
「そうですか? でしたら仕方な――」
「こちらで遊んで行きましょう!」
「…………ノ、ノーアさん?」
そう強く主張してきたノーアさんは拳を握りながら真っ直ぐにこちらを――ガーレッドを見つめている。
……申し訳ないが、少し怖い。
「ご、ご迷惑ではー」
「そんなことありません! そうですよね、ホームズ様!」
「え、えぇ、大丈夫ですよ」
ちょっと、そこは空気を読んでくださいよ!
「ピキュキュー?」
「はうあっ!」
この光景、どこかで見たような気がするよ。
「ガーレッド、ノーアさんも遊びたいみたいなんだけどいいかな?」
「ピキュ!」
「ほうっ!」
「……ほ、本当に大丈夫?」
「……ピー」
「はあっ!」
……思い出したよ。リューネさんが霊獣契約をする為に始めてガーレッドを見た時の反応だ。ハーフエルフは霊獣とか可愛いものに弱いのだろうか。
ガーレッドも少し困惑してるしなぁ。
「ノーアさん、少しだけ落ち着いてください」
「落ち着いていますとも!」
「……ガーレッドが怖がっています」
「そ、そんなあ! こ、怖くないわよ、ガーレッド様!」
まさかの様付けですか!
「と、とにかく一旦椅子に座りましょう。……に、にじり寄ってこないでください!」
「ですが、その、いえ……わ、分かりました」
自分でも無意識に近づいていたのが分かったのか、渋々頷くと近場の椅子に腰掛けた。
……そこ、ホームズさんの椅子なんですけど。
苦笑するホームズさんは優しいことにわざわざ別の椅子に移動して腰掛けている。
自分の行動に気づいたノーアさんが後で謝る光景が浮かんでくるよ。
リューネさんとは違い、多少の自制は効くようなのでガーレッドに確認する。
「ノーアさんに遊んでもらう?」
「ピー……ピキュキュン」
「な、何と言っているんですか?」
「いいよ、だって」
「はうああああぁぁっ!」
少し唸りながらだったのは伏せておこう。
しかしここまで可愛いのが大好きだったとは思わなかった。
いやまあ、可愛いは正義だと思うけどリアクションが僕の想像を超えているよ。
微笑みながら見つめたり、軽く撫でたり、顔を埋めたり、一緒に寝たり、そんな感じで愛でることは毎日してるけど、言葉使いや性格まで一変させることはなかったかな。
ガーレッドがノーアさんの腕の中に収まり、上目使いでいつもの必殺ポーズを決めている。
悩殺、必殺の一撃、これに勝てる者はそうそういないだろう。
可愛いが大好きなノーアさんであれば正しくイチコロだ。
「はうあ、はう、はふううううぅぅ」
「ピ、ピキュキュ?」
ものすごく困惑しているガーレッドだけど、リューネさんの時のように本当に嫌だ! という感情ではないのでしばらくはそのままにしておこう。
あの時は産まれたばかりで不安ばかりだったこともあるのだろう。今はガーレッドも成長して甘えられる人、甘えられない人を見分けることができているのかもしれない。
「は、はふ、はふん」
……前言撤回、なんか気持ち悪いから見分けられてないね。
「はい終了でーす」
「あぁ! そんな殺生なあ!」
名残惜しそうにガーレッドを見つめているが、毒されてしまう前に助けなきゃガーレッドの今後が心配だよ。
「それにしても意外でした。ノーアさん……というか、ハーフエルフの方は可愛いものが好きなんですか?」
「大好きです! むしろ可愛いもの以外は好きになれません!」
いや、それはそれで問題な気がするんだけど。
んっ? ということは『神の槌』の事務員には元冒険者の
「……事務室怖い」
「わ、私まで対象にしないでください!」
おっと、心の声が漏れてしまいましたよ。
いまだに視線を向けてくるノーアさんだが、ガーレッドはついに怖くなったのか顔を僕の胸に埋めて額を擦り付け始めた。
「ダメですよ、ガーレッドが怖がってますから」
「そ、そんなあ!」
「リューネさんよりはマシだからいいじゃないですか」
「ハ、ハンクライネ様ですか?」
「うん。産まれたばかりのガーレッドに怖がられ過ぎて抱っこもできなかったんですから」
「ピキュー」
「今は大丈夫みたいですけどね。でもやっぱり怖がっているならダメだとキッパリ言わせていただきますよ」
僕の想いを聞いて、ガーレッドが顔を上げてノーアさんを見つめる。
声を漏らすかと思ったノーアさんだったが、予想外に黙ったまま涙目でガーレッドを見つめている。
「……わ、分かりました。……また、抱っこさせてくれますか?」
「うーん、どうかなガーレッド?」
「ピー……ピキュキュン!」
やっぱりガーレッドは優しいね。
「いいよ、だってさ」
「はふんっ!」
その悶え方がなければなお良しなんですけどね!
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