ジンとグリノワ

 無属性魔法を使って走っていたので野営地には一〇分と掛からず到着した。

 マリベルさんが驚くのも無理はないと思うくらいに、魔獣が野営地の中央に集まっている。

 まるで、何かを求めて突き進んできたかのようだが、不思議なことに魔獣同士での争いはどこにもなく、今はただ中央に顔を向けて佇んでいるように見えた。


「……やはりか」

「さっき言っていた誘発がどうのこうのってやつですか?」

「そうじゃな。おそらく、野営地の中央に魔獣が好きな臭いを出すものが置かれている可能性が高い」

「そ、そんなものがあるんですか?」

「もちろん違法なもので正規には売っておらん。じゃが、そういうものもあるということじゃな」


 魔獣の好きな臭いって、どこに需要があるのだろうか。

 ……あぁ、さっき言っていた後ろ暗いものがある人には需要があるのか。


「おそらく、置いていった奴らが自分で作った可能性もある。じゃが、そうなるとさらに面倒臭いかもしれんな」

「この先でも同じようなことがあると?」

「その可能性は高くなる。じゃがまあ、まずは目の前の魔獣からじゃな。ジンは風属性と火属性以外でも大規模な攻撃魔法は使えるのか?」

「風と火属性以外ですか?」


 話の流れからかまいたちで一気に倒してもいいのかと思ったのだが、そうではないらしい。

 それに火属性もダメだということは、臭いの元を回収したいと考えているのかもしれない。


「……大量の水を頭上から落とすのと、地面をひっくり返すのと、色々と考えることはできますよ?」

「……ガハハハッ! 本当に面白い奴じゃのう!」

「ちょっとグリノワさん! 気づかれちゃいますよ!」


 突然笑い出したグリノワさんに驚きながらも慌てて止めに入る。


「大丈夫じゃよ。なぜかは分からんが、魔獣共は何もせずに佇んでおるから、臭い以外でも何か仕掛けがあるんじゃろうて」

「そうですか。でも、そういうことなら水だと洗い流す可能性があるので土属性でひっくり返した方がいいかもしれないですね」

「頼めるか?」

「やってみます。失敗しても怒らないでくださいね?」


 僕の軽口にグリノワさんは笑顔で返してくれた。

 視線を魔獣の群れに向けて魔法の範囲を決めていく。

 おそらくは野営地の中央に目的の物があるはずだから、そこは範囲外にする必要がある。

 中央を範囲外にして、その周囲に魔法を発動するのってできるのだろうか? 今まで考えたことのない範囲指定なのでどうするべきか考える必要があるな。

 ドーナツ型で範囲指定してもいいかもしれないけど、範囲外と内が近すぎると余波で埋もれる可能性もあるから、細かな調整が必要となる。


「……逆にいつも通りに大きく範囲指定してもいいかも」


 そうするなら、中央だけを事前に埋もれないように壁を作る必要がある。もしくは後ほど掘り出せるように目印を作って先に埋めてしまうのもありだ。


「……後で掘り出す方向で魔法を使ってもいいですか?」

「いいぞ。というか、儂の思惑によく気づいたのう」

「いや、風だと臭いが広がる可能性がありますし、火だと物自体が燃えてしまうかもしれないってことですよね? 僕じゃなくても気づきますよ」


 苦笑しながら僕は準備に入っていく。

 おそらく目的の物を埋めると臭いが薄まり魔獣が暴れ出す可能性は高い。

 埋めた後は迅速に次の魔法を放たなければ一掃することが難しくなるだろう。

 魔法の流れを頭の中でイメージ……うん、いけるな。


「……いきます」


 グリノワさんへ合図をした僕は、両手を前に突き出して土属性の魔法を放つ。

 まずは野営地の中央にドーム型の土の壁を作ると、周囲に目印となる円錐状の土の壁——壁を二重にして作り上げた。

 すると、中央より遠くにいた魔獣から少しずつ動きが見られたので次の魔法を即座に発動させる。


「——アースクエイク!」


 我ながら捻りのない命名だと思うが、まあ似たようなことをやるのだからいいだろう。

 魔獣の群れの外側から内側に向けて地面を隆起させ、そして埋め尽くしてしまおうという考えだ。

 外に移動しようとしていた魔獣が倒れ、そして内側へと転がっていく。その頭上に大量の土が降ってくるのだから堪ったものではないだろう。

 内側に向かうにつれて土の量が倍々で多くなっていくので、中央で立ち尽くしている魔獣は我に返る間もなく圧死してしまうかもしれない。

 そんなことを考えながらアースクエイクの最後を見守ると、円錐状の土の壁が先端だけ見えるくらいに野営地が捲れ上がってしまった。


「……あっ! 後で整地するってことを考えてなかった!」

「ガハハハッ! 安心せい、これは儂が願ってこうなった結果じゃからな。責任を持って儂が整地してやるぞ!」

「す、すいません」

「……周囲に魔獣はもういないのう。ジンはここで待機じゃ。土に埋もれているとはいえ、魔獣が死んでいるかはまだ分からんからのう」

「グリノワさんは?」

「目的の物を確保しに行ってくる」

「気をつけて下さいね」


 笑いながら立ち上がったグリノワさんは先端が見える野営地の中央へ移動し始めた。

 僕は言われた通りにガーレッドとその場からグリノワさんの行動を見つめている。

 先端まで移動したグリノワさんが魔法を使い、土の中から目的の物を手にした――途端に大爆発が巻き起こった。


 ※※※※

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