ジンとカズチ
ユウキとフローラさんがその場で依頼をいくつか受けて、僕たちは別れた。
今は僕とガーレッド、そしてカズチとで歩いている。
「なんだか、カズチとこうして通りを歩くのって久しぶりかも」
「確かにそうだな。ってか、二人で歩いたことなんてあったか?」
「……どうだろう、思い出せないや」
「ジンが『神の槌』に来てから、もう長いもんなぁ」
何やらしみじみとしているカズチの横顔を見て、僕はなんだか嬉しくなってしまった。
「なんだ、どうしたんだ?」
「いや、カズチに長いって言ってもらえて嬉しくなったんだよ」
「なんだそりゃ?」
「だって、僕はゾラさんとソニンさんに草原で拾ってもらわなかったらどうなってたか分からなかったんだもん。それがカズチと出会って、もう長い時間を一緒に過ごしているんだって思うと嬉しくなったんだ」
「……そうか」
「あれ、照れてる?」
「照れてないし!」
「ピッキャキャー!」
「ガーレッドも茶化すなよ!」
僕とガーレッドは楽しそうにカズチをいじっている。
だって、本当に嬉しいんだもん、いいじゃないか。
「ったか、ジンはもう寒くないのか?」
「うん! リューネさんには騙されたけど、冒険者ギルドを出る前に何度も練習して、移動しながらでも暖かい空気を維持できるようになったからね!」
「ピーピキャー」
「ほら、ガーレッドも暖かそうでしょ?」
「本当だな、目がとろけてやがる」
そのまま寝てしまいそうな勢いなのだが、これからお昼ご飯を食べるのでできれば起きていてほしいものだ。
「……もうすぐ、年も明けるんだよなぁ」
「そうなんだねー」
「そうなんだねーって……まあいっか」
気候の移り変わりは元の世界と同じ感じなんだろうと思っていたので、そうではないかとは思っていた。
っていうか、色々と経験したけどまだ一年経ってなかったんだよな。
「なんか、ジンと出会ってからは色々とありすぎてめっちゃ濃い一年だったわ」
「あっ! 僕も同じことを考えてたよ!」
「まあ、ジンに比べたら俺の色々なんてどうってことないけどな」
「そうかな? カズチも色々あったでしょ?」
「全部お前が関わってるんだよ!」
そう言われて、ガーレッドとの出会いからケルベロス事件に悪魔事件、それに王都での騒動と色々と言われてしまい反論の余地が全くなかった。
「……すいませんでしたー」
「全部が無事で終わったからよかったけど、本当に気をつけてくれよ。友達として、心配なんだからよ」
「……ふふ、友達としてね!」
友達かぁ。
この世界に来て、友達も本当に増えたと思う。
カズチにルル、ユウキにフローラさん。冒険者の人たちはどうだろうか。シル君は友達でいいと思うな。
大人だった頃の記憶はあるけど、いつの間にか僕の言動も自然と年相応のものに変わっているし、なんだか不思議な気分だよ。
「お昼はどうするんだ?」
「うーん、暖かくはなったけど、本部の食堂で食べようかな。カズチは寒いでしょ?」
「まあ、そうだな。慣れてるとはいっても、寒いものは寒いからな」
「ルル、今日は一緒に食事できるかな?」
「どうだろうなぁ。この時期の食堂は忙しくなるから」
「そうなの?」
「あぁ。年末は仕事が休みになるから、ちょうど追い込みの時期なんだよ。それで職人も多くなってくるから、食堂も早い時間で混み合うんだ」
だから僕にも仕事が回ってきているのだろうか。
でも、リューネさんは普段受けない依頼も受けているって言ってたし、それとはまた別の理由があるのかな。
「でも、忙しいことはいいことだよね」
「だな。俺も仕事の合間にケルン石をもっと錬成しないとな」
「さっきも話に出てたけど、個人契約の方は順調なの?」
「うーん、俺が作ってた雫形が他の店でも出回ってるんだ。たぶん、他のクランが真似し始めたんだと思う」
「そっか。まあ、人気が出たらそうなっちゃうよね」
「だから、今は新しい形で勝負できないかサラおばさんと相談しながらいろんな形で錬成をしてるんだ」
カズチも本当に色々な経験をしていると思うよ。
しかし、早速別のクランが雫形を作り出してきたかぁ。ケルン石の群青色を上手く使うには、水をモチーフにした形が一番なんだけどなぁ。
「……別の素材で錬成するってのはどうかな?」
「ケルン石以外で中石の部分を作るのか?」
「ケルン石だと、どうしても群青色に引っ張られて形も決まっちゃうでしょ? キルト鉱石なら黄色だから、別の形でも綺麗に見えるんじゃないかな」
僕だったらキルト鉱石で星の形や果物の形を作ったりするかな。動物なんかも人気が出そうだ。
だけど、ここで全てのアイデアを僕が口にするのは違う気がする。ヒントを与えて、そこからカズチが考え出すのがベストだろう。
「……そうだな。ちょっとそこも検討しながら、またサラおばさんと相談してみるよ」
「うん。また、人気が出る商品ができるといいね」
「ピキャー!」
「おう、頑張るよ」
ふふふ、カズチのやる気にも火が付いたようで何よりである。
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