忙しい食堂
食堂に到着した僕たちが見たのは、カズチが言っていた通りにまるで戦場かと思うくらいの忙しさを誇っている食堂内だった。
カウンターも行列ができているし、出来上がった料理を運ぶ為に何度も人が往復している。
厨房からはミーシュさんの声が食堂にまで聞こえてきていた。
「……これ、寒くても外で食べてきた方がよかったかな?」
「だから言っただろう、忙しいって」
こ、これほどとは思わなかったんだよ!
……まあ、帰ってきちゃったし、今さら外に行くのも気が引けるのでそのまま列に並ぶことにした。
ガーレッドは食堂の風景に驚いているのか顔を何度も左右に往復させて人の往来を眺めている。
しばらくしてようやく僕たちの注文となり、いつもと変わらずオススメと新鮮野菜と果物を注文する。
空いているテーブルを見つけて座ると、料理はすぐに運ばれてきた。
「これだけの注文がある中で、凄いね」
「ミーシュさんも他の料理人の人達も慣れたもんだからな」
当然という感じで食事を始めたカズチに驚きつつ、僕はいつもと変わらない美味しさの料理を頬張っていく。
ガーレッドはテーブルに座らせており、自ら野菜や果物を手に取って食べていた。
「ガーレッドも本当に大きくなったよな」
「そうだね。炎晶石を食べ始めてからはみるみる大きくなってるから、このままならすぐにでも成獣になるんじゃないかな」
「ビビ……ビギュア?」
「うん、食べてから喋ろうね」
何を言っているのか聞き取れずガーレッドにそう言うと、何故か食事に集中してしまった。
「晶石を食べるって、考えてみると相当贅沢だよな、霊獣って」
「そうだよね。最初は野菜や果物で良いと思っていたけど、まさか晶石とは。それに、魔獣の肉も好きみたいだし」
「そうなのか?」
当然ながら知らなかったカズチは驚いている。
僕はマリベルさんから教えてもらったことを伝えていくと、徐々に納得顔になっていく。
「……そう説明されると、確かにそうなのかもしれないな」
「えぇー。でも、僕はガーレッドに魔獣と戦わせるつもりはないんだけどなぁ」
「それはジンの都合だろ。ガーレッドが魔獣の肉が好きだって言うなら食べさせてやった方がいいだろ。好きなもんを食べるのって、人間も同じだろ?」
カズチに言われて、確かにと今度は僕が納得してしまった。
僕は知らず知らずの内に人間と霊獣を区別してしまっていた。
好きなものを食べる、食べたいという欲求はどちらも同じはずだ。
「……そうだね。今度、ユウキに魔獣狩りに連れていってもらおうかな」
「それもありじゃないか。その時は俺も行こうかな」
「いいね! カズチも錬成素材を取りに行くことがあるかもしれないしね!」
ソニンさんからも話は出ていたわけだし、許可が出れば一緒に行ってみたいな。
「そういえば、カズチはクランの仕事をしなくてもいいの? 他の錬成師は忙しいんでしょう?」
「俺もちゃんと仕事はしてるよ。ただ、副棟梁が融通を利かせてくれているみたいなんだ」
「そうなの?」
「あぁ。個人契約の売り上げが結構いいみたいで、そっちを優先するように言われているんだよ」
これは、大成功と大出世ではないだろうか。
「凄いじゃないか! これで新しい中石が上手くいったら、もっと評価を上げられるんじゃないの?」
「そう上手くいかないって」
「そうだけど、ちゃんと考えてやれば結果はついてくるよ」
「……だといいけどな」
「僕も手伝えることがあれば手伝うからさ!」
僕にできることは素材の提供くらいかもしれないけど、そこからカズチのアイデアが膨らんでくれたら嬉しいな。
「さて、あんまり長居はできないからそろそろ行くか」
「そうだね。列もまだ途切れないし」
いつもならもう少しゆっくりと食事をしているのだが、今日は人の出入りが多いので早めにテーブルを空ける必要がある。
「ガーレッドも食べ終わってるし、大丈夫だよ」
「ピキャキャー! ビビギャー!」
「炎晶石も食べたいの?」
「ビビ!」
「おっ! 俺も見てみたいな。ユウキの家ではいつの間にか食べてたからな」
「別にいいけど、見てて楽しいものでもないよ?」
言いながら僕は魔法鞄から手のひらサイズの炎晶石を取り出すとガーレッドに手渡した。
ガーレッドはとても嬉しそうにテーブルの上で飛び跳ねると、そのまま口の中へ放り込みバリバリ言わせながら噛み砕いて飲み込んだ。
その様子を見ていたカズチは口を開けたまま固まっている。
「ね? 見てて楽しいものではなかったでしょ?」
「……そ、そうだな。もしかして、フルムもこんな感じで食べるのか?」
「どうだろう。フルムが晶石を食べているのは助け出した時だけなんだけど、その時は小さな屑晶石だったからほとんど飲み込んでいたし」
「……そうか」
なんだか、カズチの中のイメージが崩れたような気がしてならなかった。
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