英雄の器と襲撃者の末路
激しい光を放つ鑑定水晶。
最初の時と同じようにあまりの眩しさに目を閉じてしまう。
それは僕だけではなく室内にいた全員が同様だった。
そして--きたよ、あの情報量!
頭の中が爆発しそうな情報量に頭を抱えそうになるが、予想通りの展開になった。
全く分からなかった部分の一部に分かるようになった部分がある。
それはスキル効果十倍だけではなかった。
良い巡り合わせに出会えること、各種スキルを習得可能、超回復、などだ。
まだ分からない部分は多くあるけど、とりあえず今まで経験したことから分かる部分が増えたと考えて間違いないだろう。
「おー、なんかいっぱい出てきましたねー」
「……なんじゃ、こりゃ」
「……本当に、末恐ろしいスキルですね」
「えっ、えっ? なになに、何なのよゾラくん!」
リューネさんがとても興味深そうにゾラさんに擦り寄っていく。
鬱陶しそうにしながらもゾラさんは口を開いた。
「とりあえず、固有スキルなら何でも習得できるようじゃぞ」
「何それ! ジンくんすごっ!」
「いえ、ゾラ様。情報には各種スキルを習得可能、と出ていました。仮定の話ですが、固有スキル以外も習得できる可能性もありませんか?」
「固有スキル以外、ですか? コープスさんは一般スキルの全属性持ちです。そうなれば、オリジナルスキルということになってしまいますが……」
大人たちのやり取りが終わると視線が僕に集中する。
「……いや、見られても分からないよ」
そして訪れる溜息の嵐。
「……何故、小僧にこんなスキルが出たのかのう」
「本当に、なんかもったいないよねー」
「リューネさん、もっと言葉を考えてください」
「コープスさんも大変ですね」
あれ、なんか呆れられてない?
まあいいけどさ。それよりも一つ分からない効果があったな。
「超回復、ってなんだろう」
「怪我が早く治るとかじゃないか?」
「でも、今回の騒動でジンは怪我をしていないよね」
「だったら、魔力の回復が速いとかじゃないかな」
「魔力の回復?」
えっ、魔法を使うのに魔力とか必要なの?
練習からガーレッド誘拐の過程でだいぶ魔法を使ってきたけど、そんな話は聞いたことがないよ?
「知らなかったの? ジンくんが倒れたのは魔法の使い過ぎが原因だったんだから」
「……ゾラさん、そんな説明受けてませんけど?」
「あー、いや、その……すまん! 知っているとばかり思っとったんじゃ!」
「……まあ、いいですけど」
むむむ、そんな素直に謝られると強く言えないじゃないか。
「それにしても、これは面白い効果ですね」
「えっ、えっ? 何なのー?」
「良い巡り合わせに出会える、だそうですよ」
「それならば、ゾラ様やソニン様に出会えたことがその巡り合わせなのでしょう」
ホームズさんが一人で頷いている。だが、その通りなのだ。
あそこで出会っていなければ今の僕はないし、最悪魔獣に殺されていた可能性だってある。
ゾラさんとソニンさんに出会い、クランのみんなに出会い、リューネさんやユウキに出会えた。全ての出会いが僕にとっては良い巡り合わせなんだ。
「しかし、一番の驚きはスキル効果十倍じゃな」
「この能力を王都に知られれば、どのような扱いをされるか考えたくもありませんね」
「どうしてですか?」
鍛冶を楽しむのだから行くつもりはないけれど、そのように言われると気になってしまう。
王都にはゾラさんたちも出張販売に行ったり、確か献上品を届けに行った帰りに僕を拾ったはずだ。
ならば良好な関係を築いているとばかり思っていたのだが……そうではないのかな?
「王都はオリジナルスキルを持っている人材を集めているのです。その理由は能力の有効活用とされていますが……噂では戦争の準備ではないか、と言われているのです」
「儂も引き抜きを受けたのう。クランをソニンに任せて王都に来いとな。献上品を届けに行った時もあーだこーだ言われたから面倒臭かったわい」
……王都怖い。
しかし戦争ねぇ。カマドは魔獣の被害以外では平和だと思っていたから想像がつかないよ。
「戦争って、魔獣との?」
「いんや、人間同士じゃ。国と国、本当か嘘かは分からんがな」
魔獣の被害がある中で人間同士の戦争か。いろんなゲームやラノベを読んできたけど、どの世界も似たようなものだ。
「もし僕が王都に行ったらどうなると思う?」
「間違いなく、前線で規格外の魔法砲台になるじゃろうな」
「何それ、絶対嫌なんだけど」
「そう言うと思ったわい」
僕はカマドで鍛冶を堪能するのだ、その邪魔になるなら王都になんか行かないぞ。
「だからこそ、小僧のスキルは秘匿すべき内容なのじゃよ」
「気をつけます!」
「返事だけはいいんじゃよ、返事だけは」
「えー、本当に気をつけますよー」
「……まあ、小僧の能力について知っているのはここにいる奴らだけじゃから大丈夫だろう」
あれ? でも僕について知っている奴はまだいるはずだ。
「ガーレッドを助けた時に二人をぶっ飛ばしたんだけど、怪しんでないかなぁ?」
あいつらは曲がりなりにも冒険者だ。普通なら子供に倒されるなんてないはず。それなのに僕に倒されたんだ、僕のことを怪しんでいてもおかしくないだろう。
「……襲撃してきた奴らは、死んだよ」
「……えっ?」
「大量の魔獣に襲われてなす術もなかったようじゃ。儂らもその魔獣に道を塞がれて到着が遅くなったんじゃよ」
あの時はケルベロスから逃げるために僕たちを無視しただけで、脅威がなくなれば普通の魔獣に戻る。その時、近くにいたのが襲撃者たちだったのか。
二人は気絶したまま置いてきてたし、仲間を守りながらあの数を相手にしてたら助からないよね。
「冒険者は常に死と隣り合わせです。汚い手を使った奴らでしたが、彼らにも冒険者の矜持があったでしょう。コープスさんが気に病むことはありませんよ」
「……はい」
ガーレッドを助けるためとはいえ、何だが後味が悪くなってしまった。
「ピキュー」
「……慰めてくれるの? ありがとう、ガーレッド」
「ピッピキュー!」
可愛いは正義だな。こんな時でも元気を取り戻させてくれるんだから。
……うん、落ち着いてきた。そして落ち着いたついでに一つ思い出したよ。
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