エピローグ
目覚めとその後
目を覚ました俺が最初に見たものは--ゴツいドワーフのデカイ顔だった。
「どわあっ!」
「うおっ! め、目を覚ましたか!」
……あまり良い目覚めではなかったけどな。
「ゾラさん、ここは?」
「病院じゃ。丸三日寝てたんじゃぞ」
「ま、丸三日!」
「……ピ……ピキュー……」
「あ……ガーレッド」
ガーレッドは寝ていて僕の横でグッスリと眠っていた。
それにしても、あれから三日も経ってるのか。
ここは病院と言っていたけど、倒れはしたがブレスはガーレッドが食べてくれたし、風のヴェールで防げたし、物理的なダメージはなかったんだよな。
それよりも--。
「ユウキは!」
「安心せい、ユウキも無事じゃ。足の怪我が酷かったが、あの場で応急処置も行なったし、カマドの病院には優秀な医療魔術師が大勢おるからの、今では普段通りに歩いておるよ」
「そ、そうか、よかった〜」
ユウキも無事、ガーレッドも無事、そして僕も生きている。これ以上の成果はないだろう。
「それでじゃ、小僧よ」
「何ですか?」
僕がホッとしているとゾラさんが声を掛けてきたので顔を上げる。すると--。
--ゴチンッ!
僕の脳天にゾラさんのゲンコツが落とされた。
「いったああぁぁぁぁっ!」
「こんのバカモンが! 小僧一人で何ができると思ったんじゃ! ユウキまで巻き込みおって、あやつがもし殺されでもしたら責任取れたのか!」
「だって、ガーレッドが--」
「だってもクソもない! ガーレッドが助かればユウキが死んでもいいと言うのか!」
「そんなわけないよ!」
「だったらそういう時こそ役所やギルド、大人に相談しろ! 役所にはリューネがいる、冒険者ギルドにはダリアがいるではないか!」
ぐぬぬ、何も言い返せない。
あの時は焦っていたのも事実だし、よくよく考えればやりようはいくらでもあったんだ。
「……ごめん、なさい」
「うむ、素直でよろしい」
ゾラさんが納得してくれたところで病室のドアがノックされた。
開かれたドアからはソニンさんを筆頭に、カズチやルル、リューネさんと最後にホームズさんが入ってきた。
……んっ? ホームズさん?
「ホーム--」
「ジン! 無事でよかった!」
「本当だよ! ジンくんは無茶をし過ぎだよ!」
意識を失う直前の聞いた抹殺という単語、これが誰から発せられたのか確認したかったがカズチとルルが飛び込んで来たので聞きそびれてしまった。
「……二人とも、ゴメン。カズチは怪我、大丈夫?」
「俺の怪我なんて軽いもんだよ。それよりもジンは大丈夫なのか? 起きてて平気なのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「私、何も出来なかったから、本当に心配で……よ、よかったよ〜」
泣き出してしまったルルの頭を撫でながら、僕とカズチは顔を見合わせて苦笑した。
「本当に無事でよかったですよ、コープスくん」
「ジンくん、心配したんだからね! ……まあ、本当によかったわね。霊獣契約も役立ったみたいだし」
「みんなが生きている、それが一番です。私も久し振りに暴れさせていただきました」
……あ、暴れる?
最後の言葉はやはりホームズさんだったようだ。
それにしても、ここの雰囲気は本当にホッとする。
ガーレッドが拐われた時にはブチ切れて話し方が大杉政策に戻っていたが、ゾラさんやみんなの顔を見たらジン・コープスの話し方に自然と戻っている。
僕はみんなに助けられて今を生きている。それならばみんなを信頼することも僕には必要だ。
「皆さん、僕とガーレッドを助けていただき本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」
全員の視線が僕に向いた。その表情には暖かみがにじみ出ている。
鍛冶や錬成もそうだけど、みんなとの絆も大切にしなければいけないと心に刻み込んだ。
〜〜〜〜
数日は経過観察で入院していたが、問題ないということで退院が許された。
ゾラさんが迎えに来てくれたのだが、その時に英雄の器について分かったことがあると伝えるとそのままゾラさんの私室に通された。
しばらくすると僕が目覚めた時に病室にいた面々が揃い、さらにユウキまでが加わっていた。
「ユウキ! その、巻き込んじゃってゴメンね」
「僕のことは気にしないでよ。それよりもジンが元気になってよかったね」
「……うん、ありがとう」
本当に良い子だよ。
しかし、ユウキを含めてなぜこの面々が集められたのだろうか。
「小僧のスキルは儂の想像を軽く超えてしまうからの。関わることになるメンバーには教えておくべきじゃろう」
ゾラさんの言い分は分かる。
クランメンバーや専用窓口のリューネさんは否応にも関わるだろう。
だけどユウキは別だ。僕が巻き込んでしまっただけで、変な重荷を背負わせたくはないんだけどなぁ。
「ゾラさん、ユウキは--」
「ジン、ゾラ様には僕から頼んだんだ」
「ユウキから?」
「僕はジンの友達だ。ゾラ様には冒険者失格だって言われたけど、やっぱり友達を助けたいって気持ちは変わらないからね。もし、またジンやガーレッドに危険が及んだ時には僕も助けになりたいから」
……ヤバい、泣きそうだよ!
こんな友達僕にはもったいない気がするんだけど、いいんだろうか!
「冒険者としては失格じゃが、友人としては最高じゃ。小僧、この繋がりを大事にするんじゃぞ」
「……はい!」
これで準備は整った。僕は気を取り直して英雄の器について、エジルとの会話の内容について語り始めた。
--結果、全員が口を開けたまま固まってしまった。
……うん、そうなるよね。
スキル効果十倍って、楽しみも何にもないもんね。分かる、分かるよ。
「こんなスキル、いらないよねー」
「「「「「「「違うだろー!」」」」」」」
あっ、なんか懐かしい。
「めちゃくちゃ必要だろ!」
「そうだよ! 十倍ってありえないよ、奇跡だよ!」
「うーん、でも努力することがなくなりそうじゃない? それはそれでつまらないかなぁ」
「……やはり小僧の考えは分からん」
頭を抱えるゾラさんに、僕は一つの提案を口にした。
「そうそう、ゾラさん。もう一度鑑定水晶でスキルを調べてくれませんか?」
「もう一度? 何故じゃ?」
首を傾げるゾラさん。その横ではソニンさんが顔を引きつらせていた。
まあ、あれだけの情報量がまた入ってくるのかと考えたら嫌にもなるよね。
「英雄の器に関して色々知ることができた今、鑑定したら新しい情報が入ってるんじゃないかって思ったんだ」
「なるほどのぅ。それは確かにありそうじゃが、今ここでやるのか?」
「そうです、今ここで。その方がみんなも理解しやすいと思いますよ」
しばらく考え込んでいたゾラさんだったが、立ち上がると引き出しから鑑定水晶を取り出した。
「どれ、やってみろ。儂は小僧の親だからな、あの情報量にも耐えてやるわい」
「……はぁ。分かりました、私も耐えましょう」
「えーっと、なんかごめんなさい」
ゾラさんとソニンさんに謝りながら、僕は再び鑑定水晶に両手を置いた。
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