閑話 エジル・アーネスト
面白い奴が英雄の器を引き継いだもんだ。まさか英雄に憧れを持たない奴にだなんてなぁ。
あのスキルを宿した人間って、自ずと英雄に憧れを持つはずなんだが……まあ、今の俺が気にしても仕方がないか。
なんせ俺はもう--死んでるんだからな。
俺、エジル・アーネストはジンって子供が持つ英雄の器の以前の所持者だ。
俺の時にもあったんだが、このスキルは以前の所持者の精神が残ったままになるらしい。今の俺みたいにな。
何が原因でそうなっているのかは分からんが、とにかく俺はこのスキルの中で生きていると言える。
そして、今スキルを持っている子供、ジンはなんとも面白い子供だよ。
最初にジンを通して見えた映像は有り得ない規模の炎を打ち出している映像だった。
ありゃなんだ? 魔獣のブレスにも似た炎が出てるんだけど。
その後は水を出したり、風を吹かせたり、木を成長させたり、落とし穴を作っている映像だった。
その時になって気づいたのだが、俺がジンを通して見れる映像は英雄の器が発動している時だけのようだ。それは英雄の器がスキルに対して必ず発動するのでスキル使用時にということ。
次に見えたのは何度も何度もジンが走っている映像……こいつはいったい何をしているんだろうか。
普通は小さい頃に魔法の練習は終わっているはずだ。まあ今でも小さいんだが。
それにしても、こいつのイメージ力は何を基準にしているんだか。
炎もそうだったが、木の成長だなんて俺が生きていた頃にも出来なかったことだぞ。それは木属性スキルが一だった時も、レベルが上がった時もだ。
ジンのスキルは確か一だったはずだ。英雄の器が発動したとしてもそうそう出来る芸当ではない、どういうことだ?
っと、考え事をしていたら次の映像だ。
これだけ魔法の練習していたからてっきり英雄に憧れている子供だと思っていたが……ここからだよ、俺の思惑と全く違ってきたのは。
それは槌で素材を打つ映像だった。
……あれ、ジンって鍛冶師なの?
感情が流れ込んでくるけど、なんかめっちゃ楽しそうなんですけど。
最終的には超一級品のナイフが出来上がったみたいだけど、こいつはどこを目指しているんだろうか。
次の映像は……な、なんだなんだ? めっちゃ走ってるんですけど!
都市の外に出て何かを探してる……いや、追いかけているのか。
何だろうと考えていると、ジンはまた有り得ないイメージを持ち始めた。
ちょっと待て、そんなイメージしたら体が壊れるぞ! こいつ、死にたいのか!
俺の心配をよそに探し物を見つけたジンは相手方をぶん殴って倒したが、自分もぶっ倒れてしまった。
……これ、ヤバくねぇ?
そう考えて声を掛けるかどうかを悩んでいると、突然映像が映し出された。
この子、魔法の練習の時にいた少年じゃないか。ジンを助けに来たらしい。
やはりジンも良い仲間に巡り合っているようだ。
英雄の器には良い巡り合わせに出会える効果が隠されている。
俺にもいたなぁ。剣聖に、賢者に、拳神。みんな化け物みたいに強かったけど、その中でも俺が一番強かった。
何せスキル効果十倍だからなぁ。
それにしても、なーんでこんなところにケルベロスなんかがいるのかね。
チラッとしか見えなかったけどジンがいるところって大都市だよな。そんなところの近くにいる魔獣じゃないぞ。
それに、やっぱり殺されそうだし。あのブレスが直撃したら目も当てられな--って、くらっちゃったよ!
あー、終わった、体借りる前に終わった。
……って、まだ意識があるな。ジンの奴、生きてるのか?
おっ、映像が出た……ケルベロスに攻撃してるじゃん! 素人のくせにやるじゃないか!
って、言ってるそばからヤバイっての! 助けに来てくれた子、殺されるぞ!
ここは悩んでる暇じゃないな--干渉するぞ。
「助けてやろうか?」
(--今は幻聴とかいらないってのに)
「言っとくが、幻聴じゃないぞ」
(--そうですか、それなら聞こえなくて結構です。考えの邪魔なので)
……な、何故そうなるんだ! 助けると言っているのに!
「あー、もう! とりあえず話を聞け、時間を止めるから!」
俺はスキルの一部になったことで唯一使える能力を発動する。
それは英雄の器の所有者を精神世界に連れて来て会話することだ。その間、現実世界の時間は止まるから時間切れまでゆっくりと話すことができる。
そうして、俺は初めてジンと対面することが出来た。
「……な、なんじゃこりゃ?」
「はぁ、やっと落ち着いてくれたか」
ようやく落ち着いて話ができる、そう思ったんだが……全然話が進まない。
挙げ句の果てにスキル効果十倍の素晴らしいスキルに対して文句つけられるし、めっちゃ怖いし、何なんだよ。
作った武器が超一流の武器になったんだよ、褒められることはあっても怒られる筋合いはないよね!
「ちょっと待て、お前にはまずスキルを育てるというところから講義しないといけないようだな」
「いや、君こそちょっと待て! 時間を止めてはいるが長い時間は無理だぞ! 彼を助けたいんだろう!」
……何とか説得できたけど、あの顔は絶対に納得してないよ。後から絶対になんか言われるよ。
俺はジンの体を借りて久しぶりに暴れたかったんだけど即答で拒否されたので、知識だけを貸すことにした。
戦闘……楽しいのになぁ。
でもまあ、次の機会には借りられると信じて俺は時間を戻した。
まずはケルベロスの気を引くために毒の沼の水を使って攻撃するよう指示を出した--が、威力がおかしいなあ!
あんな小さな水の塊でなんで大砲みたいな威力があるんだよ!
ミニ水爆弾って言うネーミングは無視するとして、こいつの体は何かがおかしい。けんじゅうってのが何なのかは分からんが、イメージ力に自信があるってのは本当らしい。
ただ風属性魔法で巻き上げろって伝えたら怒られてしまった、解せんぞ。
ケルベロスはジンを殺すためにブレスを大量に吐き出している。その間断を縫ってイメージを固めながら魔法を発動しなければならない。
ジンにそれができるのかと考えていたのだが--えっ、なんだよこいつ。
ずーっと視界の端に映ってたけど、この赤いのは霊獣か? それにしてもブレスを食べるって、聞いたことがないぞ!
しかし、これならジンも動けるだろう。
……って、あー、うん。あの子、飛んで行っちゃったね。こいつのイメージ、おかしくねぇ?
今度はケルベロスを退けてあの子を助けなければいけない。あの足の怪我は早く治療しなければ動けなくなるぞ。
助言を続けようとした俺だったが--。
「あー、時間切れだ。まあ、君ならなんとかなるだろう」
『--ちょっと待て、時間切れとか聞いてないんですけど! それこそ時間止めろよ!』
「頑張ってねー!」
現世への干渉にも時間制限がある。体を借りるよりかは長時間干渉できていたがもう限界だ。
次に現世へ干渉できるようになるのは七日が経ってからだ。
その間はジンがスキルを使っても映像を見ることもできない。
さーて、暇になっちまったなぁ。
ジンのことは気になるけど、あいつならなんとかなるだろう。
今度は体を借りて暴れたいものだよ。
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