騒動の結末とジンのこれから
ガーレッドに癒されながら、一つの質問を口にした。
「そうだ! 聞くの忘れてたんだけど、ケルベロスの騒動は僕が気絶した後どうなったの?」
「……ジン、目覚めてから今日まで忘れてたのかい?」
ユウキが呆れ顔で呟く。
いや、だって、休め休めってみんなが言うから聞けなかったんだよ。
戻ってきたと思ったらみんなが集まって聞ける雰囲気じゃなかったしねー。
「ダリアから話を聞いてすぐに救出隊が結成されたんじゃ。ただの救出作戦かと思ったら上級魔獣がいるし、同行した儂とソニンは肝を冷やしたわい」
「あれには驚きましたね。ザリウスさんを連れて行って正解でした」
おっ、ちょうど伺えるタイミング!
「あのー、ホームズさんって、二重人格ですか?」
「……何故そうなるのですか?」
「いや、だって、なんか凄い叫んでませんでした? 抹殺ーって」
「……聞こえていたのですね」
「あれだけ大声で叫んでたらねー」
むしろ、聞こえていなかったと思ってた方が驚きだよ。
「ホームズくんは元冒険者なのよ。それも誰もが憧れる上級冒険者、その中でもトップの実力者ね。付いた通り名が『
「……お、おめでとうございます?」
「絶対に褒めてませんよね!」
そんなことよりも、何故そんな人が事務業務をやっているのかが不思議だよ!
「私は元冒険者です。怪我が原因で引退をして、今は『神の槌』でお世話になっているんですよ」
「でも、あの時の師匠は凄かったです! 無属性魔法も巧みで、僕なんかまだまだだって実感しました!」
……ユウキ、何言ってんの? 師匠って何?
「ユウキくんの魔法操作も相当なものでしたよ。私も師匠になった以上、厳しく教えていきますから覚悟してくださいね」
「はい!」
……えーっと、僕の寝てる間に何があったの? 誰か詳細をプリーズ。
「あー、これはあれじゃ。ケルベロスを退治した時にホームズがブチ切れておってな、無属性魔法全開で攻撃を仕掛けていたのを見てユウキが感動してしまってのう。その場で応急手当を受けた後すぐに前線へ戻ってしまってな、そこでホームズもユウキを気に入ってトントン拍子に師弟関係成立、ということじゃ」
それならしょうがないねー……ってなるかあ!
「ちょっと、ちょっと! ホームズさん、ただでさえ事務業務が滞っていて負担があるのに、ユウキの師匠になったらホームズさんが倒れますよ!」
「その件は安心してください。人員の補充が決まりましたから」
「でも、教えるのに時間が掛かるでしょ!」
「私の場合はたまに体を動かすくらいがちょうどいいのですよ。心配してくれてありがとうございます」
ぐぬっ、そんな微笑みながら言われたら何も言えないじゃないか。
まあ気持ちのリフレッシュになるならいいのか? 絶対にダメな気がするのは僕だけなのか?
「まあ、そういうわけでケルベロスはホームズの活躍と冒険者たちの活躍で退治できたというわけじゃ」
「……すごく簡単にまとめられた結末ですね」
一応、僕もユウキも死にかけた事件である。そんな簡単にまとめられてしまうとなんか釈然としないのだ。
「そうは言うがのう、儂らが到着した時点で相当に痛めつけられていたのだ。上級魔獣を相手に数十分で討伐できたのは奇跡に近いのじゃよ」
「ジンがだいぶ痛めつけていたからね」
「あー、あれはたまたまだよ。英雄の器のせいで魔法の威力も桁違いに上がっていたからね」
「……あれをたまたまって言えるジンが羨ましいよ」
「でもさぁ、何でこんなところにケルベロスが現れたんだろうね。普通はいない魔獣なんでしょ?」
そもそも何故ケルベロスが現れたのだろうか。
まあ、ケルベロスが現れたおかげでガーレッドに追いついて助けられたんだけど、それでも気になるものは気になる。
今後も同様に上級魔獣が現れればカマドが危険に晒されることになり、鍛冶に集中できなくなるかもしれないのだ。
「それに関しては現在調査中じゃ。上級から中級の冒険者がパーティを組んで森の中を調べている。時間は掛かるがいずれ分かるじゃろう」
森の中を走り回ったけど、とても広い森だった。
あの森を全て調べるとなれば相当の時間が掛かることだろう。
冒険者たちには焦ることなく、じっくりと調べてもらいたい。
「何はともあれじゃ。ガーレッドも無事、小僧やユウキも無事、英雄の器についても少しではあるが知ることができた。そうなれば、やることは一つじゃな」
「やること?」
何かあっただろうか。
僕も退院したし事後処理も進んでいる。事情聴取があるわけでもないだろう。他に何かあっただろうか。
「今日は儂の奢りじゃ、食べて飲んでの打ち上げじゃわい!」
「全く、ゾラ様は何かにかけて飲みたがるんですから」
「私も今日くらいはお付き合いいたしましょう」
「やったねー! ゾラくんの奢りー!」
ゾラさんが声を上げ、ソニンさんが苦笑し、ホームズさんが微笑み、リューネさんが腕を上げる。
「美味いご飯が食べられるぞ!」
「ぼ、僕も行っていいんでしょうか?」
「ユウキくんはジンくんを助けてくれたんだから当然だよ!」
カズチが唾を飲み込み、遠慮するユウキにルルが優しく声を掛ける。
あぁ、この雰囲気、本当に暖かいなぁ。
「ピキュー?」
「ガーレッド……うん、君も良い巡り合わせが、英雄の器が引き寄せてくれたんだよね。僕のところに来てくれてありがとう」
「ピキュキュー!」
抱き上げたガーレッドが僕の胸の中に額を擦り付けてきた。
頭を撫でながら部屋を見渡した僕は改めて決意を固める。
ここで、誰にも作ることができない唯一無二の武具を作り上げるんだ!
「そうじゃ、小僧。明日からは錬成についてをソニンが教えていくからカズチと一緒に頑張るんじゃぞ」
「はい! ……って、錬成ですか?」
あれ、鍛冶じゃないの?
「鍛冶に関しては教えることがなくなったからのう。銅であれだけのナイフを作れるなら大丈夫じゃろう」
「いやいやいや、鍛冶スキルを習得してないから鍛冶をたくさんやりたいんですけどー」
「錬成が出来たら自分で素材を手に入れて好きに鍛冶が出来るんじゃかなぁ」
「やります、錬成やりますとも!」
遠回りが近道になることもあるよね!
「あっ、そうだ。ユウキ、これあげるね」
「これって、ナイフ?」
僕は初めて作った銅のナイフをユウキに手渡した。
「ユウキは友達を助けたい気持ちは変わらないって言ってくれたけど、やっぱり巻き込んだことには変わらないからさ。助けてくれてありがとう。これがお礼になるか分からないけど、受け取ってくれるかな?」
「そんな、初めて作った大事なナイフじゃないか。受け取れないよ」
「ううん、ユウキだから受け取って欲しいんだ。ユウキがいなかったら僕はこの場にいなかった。そうしたらこのナイフも森の中に埋もれていたはずなんだ」
「ジン……分かった、ありがたく頂くよ」
ユウキは笑って銅のナイフを受け取ってくれた。
僕に出来ることなんて武具を作ることくらいなんだ、ユウキには生きていて欲しいからその手助けになるなら何でも作ってあげよう。
「よかったのう、ユウキ。そのナイフは市場に出回れば小金貨相当の価値があるから気をつけるんじゃぞ」
「小金貨かぁ…………えっ、き、金貨あぁっ!?」
あれ、予想外のリアクション。
そういえば前回の依頼で大銅貨一枚追加されただけで喜んでいたような。それが小とはいえ金貨となれば破格の報酬になっちゃうのかな?
「ジ、ジジジジ、ジン! やっぱりこれ返す!」
「気にしないでよー。命を掛けてくれたんだから足りないくらいじゃないの?」
「そんなわけないから! 本当に返すから!」
「ダーメ、受け取ってくれないと捨てる」
「ちょっと、それなら私が貰ってあげるわよん。売って遊ぶお金に変えてあげるからん」
「リューネさんには何があっても作ってあげません」
「えー、ひっどーい!」
話のどさくさに紛れて間に入ってきたリューネさんを遠ざけながら、僕はユウキに無理やり銅のナイフを押し付けた。
何を言われても返品は受け付けません、これは僕の気持ちなんだからね。
さーて、明日からは錬成の勉強だ。
錬成が上手く出来ればスキル習得に動くことも出来る。
僕の異世界生活は始まったばかりなんだからね!
第1章 完
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