久しぶりの錬成は

 魔力の量を調整して、増やすところと減らすところを見極めていく。

 銀色をしているミスリルの液体から、今まで見たことのないほどの光が溢れ出してくる。

 どれだけ魔素を含んでるんだよ、とは思わない。

 おそらくこれが素材による錬成の違いなのだろうと、僕は直感的に理解していた。

 そして、固有スキルで習得していた魔素分解スキルの効果が早くも役に立ってしまった。


「……あ、あれ? もう終わり?」


 浄化の光が、銅を錬成した時よりも早く消えようとしている。

 魔力もそれほど使っていないはずで、僕は一瞬困惑したのだが、すぐに魔素分解スキルに行き着いた。


「……ソニンさん、これって」

「……コープス君の思っている通りでしょうね」

「な、なんだ? なんのことですか?」


 事情を知らないカズチだけが、僕とソニンさんを交互に見ている。


「コープス君は、鍛冶スキル以外にも魔素分解スキルと鑑定スキルを習得したのですよ」

「……」


 どうやらもう言葉も出てこないようだ。


「とりあえず、浄化も終わったので構築に移りますね」


 ミスリルは鍛冶の為に錬成しているので、形は一番イメージしやすい四角で構築を行う。

 魔素分解スキルのおかげだろうか、今までで一番早く錬成が完了してしまった。


「……か、確認をお願いします」

「それでは、失礼しますね」


 僕の言葉を受けて、ソニンさんがミスリルを手に取り確認を行う。

 上下左右から見るだけではなく、軽く指で叩いて音も確認する。

 銅の時と比べて倍以上の時間を要しただろうか、ソニンさんは軽く息を吐き出してミスリルを返してくれた。


「全く問題ありません。これは一級品に仕上がっていますよ」

「げっ! ……初めての素材を一発で一級品って、マジかよ」

「これでは錬成師としても色々と考えなければなりませんね」

「そ、それはご勘弁を!」

「……もう聞きたくないが、他にも何かあったのか?」


 あぁっ! カズチの目がおかしなものを見る目になってるよ!

 ぼ、僕はいたって普通だからね! おかしいのは英雄の器だからね!


「えっと、鍛冶師見習いを、卒業しました」

「……なんだ、そんなことか」

「……えっ? その、驚かないの?」


 ここでもカズチの『マジかよ』が聞けると思ったのだが、まさかの納得でした。


「ジンの場合は色々とおかしなことが多いからな。見習いくらいさっさと卒業すると思ってたよ」

「……そ、そうですか」

「ただ、まさか錬成師の見習い卒業まで抜かれるとはなぁ……そこだけは悔しいぜ」

「ま、まだ錬成師見習いを卒業すると決まってないからね! ってか、錬成のことはまだまだ分からないことだらけだから! ですからね、ソニンさん!」


 ここで何も言わなければ本当に錬成師見習いも卒業させられてしまう。

 鍛冶師は前世の知識があるからなんとかなるかもしれないが、錬成師はマジで無理、一人でなんて自信がないよ。


「卒業に関してはゾラ様にも確認が必要ですからね、今は忘れてください」


 ……忘れるとか無理なんですけど。


「一度休憩を挟んでからアスクードを錬成しましょうか」

「はい!」

「……今回は妙に素直ですね」

「僕はまだ見習いですから! 錬成は一日三回までですよね!」


 マジで卒業とか無理! ここはさっさと抜け出して食堂に向かわなきゃ!


「カズチ! 食堂に行こう!」

「お、おう」

「うふふ、いってらっしゃい」


 笑顔で手を振るソニンさんに見送られながら、僕はそそくさと錬成部屋を後にした。


 ※※※※


 ……はあぁぁぁぁっ、どうしたものか。

 このままアスクードを錬成して、これも一級品になったら確実に錬成師見習いも卒業してしまう。

 かといってラウルさんとロワルさんの為にも失敗はできないし、変な葛藤が生まれてしまったよ。


「まさか見習い卒業を嫌がるやつがいるなんてな」

「僕にとってはまだまだ分からないことだらけなのー」

「だけど、卒業できたら錬成部屋も造ってもらえるんじゃないか?」


 ……なんですと?


「カズチ、今なんて言った?」

「だから、卒業できたら錬成部屋も造ってもらえるんじゃないかって言ったんだよ」


 ……そ、そこまで考えてなかったよ!

 そうか、その手があったか! 鍛冶部屋を自由にしていいって許可が出たわけだから、錬成部屋に関しても造ってもらえれば自由にしていい可能性は高いじゃないか!


「カズチ、その考え方は素晴らしいよ!」

「まあ、造ってもらえるかは分からないけどな」

「可能性があるなら、お願いしてみる価値はあるよ! よーし、次の錬成も成功させて、ソニンさんに交渉だ!」


 ふふふ、やる気に満ち溢れてきたよ!


「……やべ、変なこと言っちまったか?」


 そんなことはないよカズチ、僕にとっては神託の様なものなんだから!

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