お昼休憩
結果、賊はあっさりと雇い主についての情報を吐いてくれた。
だが、相手は名乗ることもなく、大金を前金として支払ってくれたのでそのまま依頼を受けたという。
衣服類は高級そうだったので、どこかの貴族が恨み妬みで襲撃を依頼してきたんだろうぐらいに考えていたようだ。
これからも襲うつもりがあるのかをヴォルドさんが聞くと、賊は首を左右に大きく振って否定したという。
「命を取られるくらいなら、前金を持って逃げるだとさ!」
ヴォルドさんは笑いながら話してくれた。
当の賊なのだが、話を聞けば中級の冒険者らしく王都で依頼として受けたのだとか。
本来であれば近くの都市に引き渡すのが常なのだが、今回は急ぎ王都へ向かわなければならないので、仕方なく解放することにした。
だが、七人いた賊の残り六人は制圧する中で殺している。それも圧倒的な実力差を見せつけて。
今後、生き残った賊が僕たちを襲うことはないだろうし、次に同じことを働けば確実に命を奪うとヴォルドさんが脅していたので大丈夫なのだろう。
「あいつのギルドカードも確認したからな。どこを拠点にしているのかも分かっているし、ギルドに聞けば色々と調べてくれる。何かあれば、解放した俺が責任を持って奴を殺すさ」
僕たちは今、北の森の中でも拓けている場所でお昼休憩をとっている。そんな中での会話なのだが、休憩中に殺すなんて言葉は聞きたくなかったよ。
斥候の二人は交代で休憩しているが、その他のメンバーは談笑を交えながらそれぞれで休憩しているだが、朝が早かったからか爆睡しているグリノワさんには驚かされてしまった。
「どこでも寝られるようにすることも、冒険者として大事な能力なんですよ」
ホームズさんはそう教えてくれた。
いついかなる時でも体を休めることができる。それは技術が必要なことらしい。
確かに、危険が多い中で寝るということは、完全に無防備になるわけだから、恐怖が少しでもあれば休むことはできないだろう。
寝ながらも警戒しているというが、それもまた技術なのだ。
「それにしても、ジンも
そう口にしたのはロワルさんだ。
どうやらホームズさんに憧れているようで、少しでもお近づきになりたいらしい。
「これ、ホームズさんのお下がりなんです」
「えっ! 貰ったの? 魔法鞄を?」
その反応も頷ける。だって、これがとても高価な物だってことは聞いているからね。大金貨が動くくらいの。
「コープスさんにはそれ以上の助けをもらっていますからね。これくらいは当然です」
「確かに役立ってますけど、返済が大変なんですよねー」
「返済もいらないと言っていますよね? それに、ナイフをいくつか頂いてますし」
「あれくらいじゃ全然足りませんよ!」
ロワルさんはとても羨ましそうに僕らのやり取りを見ている。
それならロワルさんもホームズさんに声を掛ければいいのにと思ってしまう。
「ロワルさんはどんな武器を使うんですか?」
「えっ? 俺かい?」
というわけで、話を振ってみた。
「俺はナイフだな。斥候をやってるってこともあるけど、目立つ武器は使えないんだ」
「そうですよね。だったら、僕が打ったナイフを見てくれませんか? 失敗作なのでいらないかもしれないけど、必要だったら貰ってほしくって」
「えっ! それはさすがになぁ。良いのがあれば正規料金で買いたいけど、今は懐が寂しいんだよね」
「いやいや、だから上げますって。僕としては正直処分に困っていたんです。ちょうどいい機会って言ったら語弊があるけど、誰かに使ってもらえればと思って結構持ってきたんですよ」
僕はそう言って魔法鞄からナイフを何本も取り出していく。
最初はへぇー、って感じの表情で見ていたロワルさんも、一〇本を超えたあたりから徐々に顔を引きつらせていることに気づいてはいたが、特に何も言わなかった。
「……す、すごい数だね」
「練習の賜物です」
「それに、これ、俺が使ってるナイフと同等くらいのものがほとんどだよ」
「そうなんですか? だったらちょうどいいじゃないですか!」
「良くないって! こんなものをタダで貰うだなんてできないから!」
僕が上げるって言ってるのに、律儀な人である。
「何だ何だ、どうしたんだ?」
そこで話に入ってきたのはヴォルドさんだ。
僕は軽くロワルさんとのやり取りを説明すると——
「そりゃあ断られるな!」
とはっきり言われてしまった。
どうしてなのか分からない僕が首を傾げていると、ヴォルドさんが説明してくれた。
「これを家族だったり、贔屓にしている相手になら分かる。だが、会ったばかりの相手にこれだけの品を上げるとなれば、何か裏があるんじゃないかと疑われてしまうんだよ」
「そうなんですか? 僕みたいな子供でも?」
「お前に限ってはないだろうな! だが、それを疑うのが上級冒険者なんだ。俺達は信頼した仲間しか基本信じないからな。だがまあ、今回に限っては貰ってもいいんじゃないか?」
ヴォルドさんは説明したあとすぐに意見をひっくり返してしまった。
僕も驚いたけど、ロワルさんの方が驚いたようだ。
「でも、グランデさん……」
「今回は『神の槌』からの依頼なんだ。依頼主がわざわざ俺達を貶めるようなことをするわけないだろう。それに、こいつは鍛冶師だ。ジンが同行している理由も聞いているんだろ?」
「ま、まあ、聞いてます」
「だったらなおさら貰っておけ。最終的には、こいつが打った武器を使うこともあるんだからな」
そこまで言われてようやく納得したのか、ロワルさんはナイフを真剣な目で物色し始めた。
ついでにといった感じでヴォルドさんも見ているのだが、この人も貰うつもりなのだろう。意外にちゃっかりした人である。
ロワルさんはナイフを見る目も本物のようで、僕が持ってきた中でも一番出来が良いナイフを手に取って眺めていた。
「……なあ、ジン君。本当にこれを貰っていいのか?」
「いいですよ。もし使い道がなかったら、カマドの路地に風呂敷でも敷いて低価格で売ろうかとも考えていたくらいですから。主に主婦層へ包丁として?」
「これを外で! しかも低価格で! 主婦に!」
頭を抱えてしまったロワルさんだが、そこまで言われてようやく決心がついたようだ。
「……そ、それじゃあ、これを貰うよ」
「一本でいいんですか?」
「俺の場合は多くあればいいってもんでもないんだよな。魔法鞄も持ってないし」
ロワルさんは斥候である。動きづらくなるなら荷物は極力減らした方が良いに決まっていた。
「そうですね。すいません」
「いや、謝らないでくれ」
「もし入り用があったらいつでも言ってくださいね。ナイフだけはこれだけありますから」
「分かった。……その、ありがとな」
お礼を言うのが恥ずかしかったのか、頬を掻きながらナイフを腰のホルダーにしまっていた。
その直後にはラウルさんが戻ってきたので交代で周囲の警戒に向かっていった。
そのままラウルさんにもナイフを提供することとなり、喜んでくれたので僕としてもとても嬉しい。
ヴォルドさんは最後にナイフを貰っていたが、ここでも気を遣っていたようだ。
「俺はナイフ使いじゃないから、あくまでも護身用だ。本職が最初に選ぶのが当然だからな」
ヴォルドさんはきっと、冒険者達からの信頼も厚いのだろうと思ってしまった。
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