シルへの授業

 翌日、僕は二の鐘に教会へと向かった。

 ホームズさんから神父様は三の鐘に合わせて礼拝を行うと聞き、少し早めに向かうことにしたのだ。

 教会に到着すると、神父様だけではなく子供たちも一緒になって掃除を行っていた。


「神父様、おはようございます」

「おはようございます、コープス君。朝早くからどうしましたか?」

「シルくんに魔法操作を教える話しですが、ゾラさんから許可を貰ってきたので今日でも可能ならと思いまして」

「おぉっ! それはよかった。でしたらシルを呼んできましよう、少し待っていてくださいね」


 神父様は一度掃除の手を止めて教会の中に向かった。

 子供たちはガーレッドと遊びたいのだろう、こちらをチラチラと見ているものの掃除をサボってまでやってくる子はいなかった。

 神父様の指導の賜物なんだろうなと感心していると、教会から神父様とシルくんが出てきた。


「コープスさん! あの、本当に大丈夫なんですか?」

「うん。まあ、僕だけじゃないから許可が出たんだけどねー」


 そこで、ホームズさんとユウキも一緒に授業をすることになったのだと告げると、二人ともとても恐縮してしまった。


「これはあれです。僕一人に任せるのは危険だという判断の下なので、お二人が気にする必要はどこにもありませんよ」

「ですが、ライオネル君に加えて、あのホームズ様まで……」

「あの、ホームズ様って、どのような方なんですか?」


 僕は迷いながらもホームズさんが元冒険者で、破壊者デストロイヤーの通り名持ちだったことを告げた。


「え、遠慮します!」


 ほら、こういう反応が返ってくると思ったんだよ!


「今はもうただの事務員さんだから大丈夫だよ。ユウキもフルムをガーレッドと遊ばせる為についてくるってだけだからさ」

「……なるほど、そうですか」


 僕の言い回しから、神父様は依頼金などがいらないようにしていることを理解したみたいだ。


「シル、せっかくですから行ってらっしゃい」

「でも、神父様……」

「シルも今や年長です、いずれここを離れていくことになるでしょう。その時に魔法が使えるというのはとても有利に働きます」

「それはそうですが……」

「今は助けてくれる人に甘えるのもいいと思うけどな。僕だって『神の槌』のみんなや他の大人の人たちに助けてもらっているからね」


 甘えられるのも今の内なのだから、その間に色々と学び自分の糧にするべきだ。

 神父様の言う通り、シルくんもずっと教会で孤児として生きていくわけではないのだから。


「……分かりました。コープスさん、よろしくお願いします!」


 シルくんが頭を下げると、今まで掃除をしながらこちらをチラチラと見ていた子供たちがゆっくりと近づいてきた。

 どうしたんだろうと見ていると、一番前に立っていた女の子が口を開いた。


「シルおにいちゃんをよろしくおねがいします!」


 そして、他の子供たちもぞくぞくと声を上げ始めた。


「シルくんはいつもぼくたちとあそんでくれるから、やさしいんだよ!」

「まほうってすごいんでしょ? シルおにいちゃんすごいね!」

「ガーレッドのおにいちゃん、いいひとなんだね!」


 さ、最後の発言は気のせいだと思いたい。僕って怖い人だと思われたの?


「みんな……」

「シルは子供たちに愛されていますね」

「これは、責任重大だね」


 子供たちの期待に応えらえるようにしなければ後が怖いからね。

 ……マジで怖い人だと思われたくないし。


「このまま行けるかな?」

「だ、大丈夫です!」

「ピッピキャー!」


 シルくんを伴い、僕はホームズさんとユウキに声を掛ける為に本部へ戻って行った。


 本部の中に入るのは恐れ多いと言ってシルくんは門の外で足を止めてしまったので、僕は急いで事務所へ向かう。

 そこにはホームズさんだけではなくユウキも準備万端で待っていてくれた。

 シルくんが外で待っていることを伝えるとすぐに外に出てきてくれ、カチコチで立っていたシルくんに笑顔で挨拶をしている。


「初めまして。ザリウス・ホームズといいます」

「シ、シルです、今日はよろしくお願いします!」

「そんなに硬くならなくていいんですよ」


 緊張しているシルくんを見ていると、初めてユウキと会った時を思い出してしまった。

 あの時はユウキもゾラさんに緊張していてカチコチだったっけ。


「……ジン、なんか変なこと考えてない?」

「んっ? いや、変なことではないよ。ユウキと初めて会った時のことを思い出してたんだ」

「僕と? ……あー、冒険者ギルドの個室だったよね。あの時はいきなりゾラ様の依頼を受けなさいってダリアさんに言われたんだっけ」


 この世界に来て三日目だったっけ、懐かしいなぁ。

 あの時に僕も魔法操作についてみんなから教えてもらったんだから、僕もシルくんにしっかりと教えてあげなければならない。


「よし! それじゃあ行こうか!」

「はい!」


 シルくんが元気よく返事をしてくれたので、僕たちはカマドの外へ向かって歩き出した。

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