冬支度二日目
翌日は朝から教会へと向かった。
この時間なら朝の掃除をしている時間だと思ったのだが、予想通りに門の前では神父様やシル君、それに子供たちが声をあげながら掃除をしている。
僕が声を掛けると子供たちは駆け寄ってきて……うん、まあ、ガーレッドに集まるよね。
「ピッキャキャー!」
「しんぷさまー! あそびにいってもいいですかー?」
「ガーレッドちゃんとあそびたーい!」
僕には、誰も、寄ってこないのに。
「あー、うん、ちゃんと掃除を終わらせてからにしなさい」
「「はーい!」」
神父様も僕の状況に気づいたようだが、そこには触れることなく子供たちに注意を促した。
「すみません、ジン君」
「いや、いいんですよ……えぇ、はい」
「おはようございます、ジンさん! 今日はどうしたんですか?」
シル君だけだよ、僕にこうして話し掛けてくれるのは。
そして、用事については掃除が終わってから伝えると口にしてそのまま僕も手伝うことにした。
魔法を使ってゴミを集めることで子供たちの注目を集める……予定だったのだが、シル君が練習がてら魔法を使っているようで特段声が上がることもなかった。
さて、掃除が終わり子供たちがガーレッドと遊んでいるタイミングで僕はシル君にお礼の品を渡すことにした。
「えっ! 逆ですよ、ジンさん!」
「そうかもしれないけど、僕も人に何かを教えることの大変さを知ることができたし、お互い様だと思ったんだ」
シル君に手渡したのは鳥の羽根をイメージした置物だった。
どうして羽根なのかというと、シル君が以前に話していたことを思い出したからだ。
「鳥は自由に色々なところへ飛んでいけるからね。シル君の未来を想像して、この形で錬成したんだ」
「色々な都市を見て回りたい、ですね」
「うん」
今すぐにできることではない。それでも僕はシル君のやりたいこと、夢を応援したいと考えている。
「僕に教えられることがあれば教えるから、なんでも聞いてよね」
「……はい! ありがとうございます、ジンさん!」
嬉しそうなシル君の顔を神父様が微笑ましく見守っている。
「それと、神父様にもあるんです」
「わ、私にですか?」
「でも、これはどちらかというと教会へのお礼の品かもしれませんね」
「……?」
神父様が首を傾げていると、僕は品物を少しだけ魔法鞄から取り出した。
「……あぁ、なるほど。確かに私や子供たちにはこちらの方が嬉しいですね」
「だと思いました」
「よかったらジン君も一緒にどうですか? 腕によりを掛けて作りたいと思います」
「俺も手伝います、神父様!」
「それじゃあ、ガーレッドと一緒にお邪魔しますね」
そのまま教会の台所まで移動すると、僕はお礼の品である魔獣の肉を大量に取り出した。
料理が出来上がるまでの間、僕はガーレッドと子供たちが遊んでいる光景をベンチ一人腰掛けて眺めていた。……そう、一人でだ。
「……あー、僕も料理の手伝いをした方がよかったかなー」
そんなことを考えながらかれこれ一時間近く眺めているのだ。
いや、まあ料理の手伝いができるほど上手いわけではないし、むしろ下手なので邪魔になるだけなのは分かっている。だからここにいるわけだし、ガーレッドと子供たちは見ていて飽きないのだけど……暇だ。
時間的にはそろそろなんだけど。
「──お昼ごはんの時間だぞー」
「「「「はーい!」」」」
「ピッピキャーキャーン!」
シル君の呼び掛けに子供たちとガーレッドが返事をしている。
その姿に笑みを浮かべながら僕が立ち上がると、ガーレッドが自分なりの駆け足でこちらにやってくると──
「ピキャン!」
「……よし、抱っこしよう!」
ふふふっ、ガーレッドに抱っこをせがまれては断る理由などどこにもない!
やっぱりガーレッドの中では僕が一番なんだなー!
「ふん、ふふーん!」
「ジンさん、ご機嫌ですね」
「分かる? へへへー」
シル君は首を傾げているがそれでいい。
これは、僕とガーレッドだけのやり取りなのだから。
神父様が腕によりを掛けた料理はどれもとても美味しく、子供たちも笑顔で平らげてくれた。
その姿に僕も嬉しくなり、笑顔のまま教会をあとにしたのだった。
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