冬支度二日目②

 次に向かったのは、おそらく『神の槌』の面々を除けば一番お世話になっているかもしれない人物のところへ向かう。

 リューネさんもダリアさんもお世話にはなっているが、総合的に見るとこの人には敵わないかもしれない。

 見慣れた裏路地へ迷うことなく進んでいくと、一軒の道具屋へと入っていく。


「こんにちは、ソラリアさん」

「おやおや、ゾラのところの坊主じゃないか。久しいねえ、今日はどうしたんだい?」


 みんなにしてきた説明をソラリアさんにも行うと、笑顔で何度も頷きながらありがとうと言ってくれた。


「儂なんかに挨拶をしに来る奴なんてそうそうおらんからのう」

「ゾラさんもですか?」

「いんや、あいつは珍しく挨拶に来てくれるよ。それも毎年ね。今年も近々顔を出すんじゃないかねぇ」


 楽しそうに笑いながらそう口にしたソラリアさんは僕が訪れた時にいつも出してくれるお茶を入れてくれたので、そのまま少しだけ話をすることになった。

 ……うん、いつ飲んでもこのお茶は美味しいな。


「ガーレッドもだいぶ大きくなったみたいじゃのう」

「王都に行った時に貰った炎晶石もまだあるし、もしかしたら来年には成獣になれるかもしれません」

「ピッキャー!」

「一度にたくさん食べさせるのは体に悪いからね、それがいいじゃろう」


 ソラリアさんの助言には非常に助けられた気がする。それに、道具にも。

 ケルベロスの時にはユウキが購入した魔法石マジックストーンが役に立ってくれたし、悪魔との戦いでは魔法剣マジックソードが結界を破ってくれた。

 ……まあ、全部ユウキが購入したものなんだけどね。

 そういえば、オリハルコンもここで購入したって言ってたっけ。


「そういえば、どうしてソラリアさんは霊獣に詳しいんですか? ガーレッドがドラゴンの霊獣だって言い当てましたし、フルムの時も的確に指示して助けてくれましたし」


 そう、一番助けられた事件といえばフルムのことだろう。

 魔獣に襲われて衰弱していたフルムに風晶石を与えて一命を取り止めたのもソラリアさんが霊獣のことに詳しかったからだ。


「ほほほほ、年の功さね」

「本当にそれだけですか?」


 ……ダメだ、ニコニコ笑っているだけでこれ以上は教えてもらえそうにない。


「まあ、いいですけどね。これからも何か分からないことがあれば頼らせてもらってもいいですか?」

「もちろんだとも。儂が生きている間であればのう」

「それじゃあ、まだまだ頼れそうですね」

「これは、頑張って長生きしないといけないようだね」


 ソラリアさんが笑いながらそう口にしたところで、僕はお礼の品を取り出した。

 様々な道具を取り扱っているソラリアさんに普通のものを渡しても喜んでもらえるかが分からなかったので、正直なところ一番悩みに悩んだ品である。

 喜んでもらえると嬉しいのだが、どうだろうか。


「ほほう。これはまた、美しい湯のみじゃのう」


 光に透かすと青色に変えて見える、口からそこに向けてグラデーションを施した湯のみである。

 口が水色であり、そこに向かうにつれて濃い青に変わっていく。

 海をイメージした湯のみなのだが、これはソラリアさんの底が全く見えないことから作り出したものだ。

 何をどこまで知っているのか、そして全てを見通しているかのようなその瞳はまさしく海と言えなくはないと思っている。


「使っていただけると嬉しいです」

「ほほほほ、もちろん使わせてもらうよ。こんな素晴らしい逸品にはなかなかお目に掛れないからね」


 とても満足気に立ち上がると、早速お茶を注いで口を付ける。

 飲み終わると笑顔でお礼を言ってくれた。


「ありがとうね、めんこいの。これは儂の一生の宝物にするよ」

「それは大げさですよ」

「いやいや、これだけ美しい湯飲みはそうそうないよ。もし売るとしたら、儂なら小金貨一枚で販売するぞ?」

「しょ、小金貨ですか?」

「それだけ素晴らしい湯飲みだということじゃよ」


 ホクホク顔のソラリアさんとはこの後も世間話で盛り上がったのだが、途中でガーレッドの話となり僕は話に聞き入ってしまった。

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