冬支度⑪

 魔法鞄から取り出したのはお礼の品の中では一番デザインに凝った置物である。


「……おいおい、これはやり過ぎじゃないか?」

「あはは。まあ、僕もそう思ったんだけどカズチに渡すものならこれくらいやらないとと思ってさ」

「いや、だからってお前……さすがに錬成陣をデザインした置物とか、普通しないだろう」


 カズチが言う通り、僕は錬成台に書かれていた錬成陣を模写し、それを見ながら錬成を行い置物として作ってみたのだ。

 自分でもやり過ぎたとは思うけど、これくらいでは返せないくらいにカズチにはお世話になっているので問題はない……はず。


「これは、人前には出せないだろうな」

「えっ!」

「……もちろん、俺の部屋に飾りはするけどよ」


 その言葉を聞いてホッとした。

 これでどこか押し入れにでも押し込まれてしまったら作った甲斐が無くなってしまう。


「だけどな、もう少し自重しろよ! ジン、他の人にもこれと似たようなものを渡しているんじゃないだろうな!」

「わ、渡してないよ! ……あー、ソニンさんにはちょっと工夫した置物を渡したかも?」

「……まあ、副棟梁なら問題ないんじゃねえか? ジンの規格外をよーく理解している人の一人だし」


 うん、そうですね。そして一番理解しているのはカズチか、ゾラさんかなー、あははー。


「あっ!」

「どうしたんだ?」

「そういえば、ゾラさんにも渡さないといけないんだ。午前中は出掛けてるって話だったし、夜には戻るってホームズさんに聞いてたんだけど……さすがにもう遅いよね」

「そうだな。棟梁ならさっき見かけたけど疲れた顔で自室に戻ってたからもう寝てると思うぞ」


 うーん、それならゾラさんには明日渡した方がいいかもしれないな。

 明日も行くところがあったし、朝一か夜にでも渡そう。


「それにしても……これ、見れば見るほど凄いな。細かなところまで再現されているし、このまま魔力を注いだら錬成ができちゃうんじゃないのか?」

「いやいや、専用のインクとかも使ってないし、できるわけないよ」

「それじゃあ、専用のインクを混ぜて錬成陣を錬成したらどうなんだ?」

「「……?」」


 二人して首を捻ってしまったが、これは試してはいけないやつだと思う。


「……や、やるなら、ソニンさんに詳細を説明してからじゃないとダメだろうね」

「……そ、そうだな。じゃないと絶対に後から雷が落ちるぞ」

「「……止めておこう」」

「ピッキャーン!」


 声が揃ったところでガーレッドが僕の膝の上に飛び乗ってきた。

 ずっとゴロゴロしていたのだが暇になったのだろう。


「ガーレッドも大きくなったよなぁ」

「そうだね。生まれた頃なんて、頭に乗っかれるくらいに小さかったもんね」

「ピッキャ! ピッキャキャー!」


 お腹を上にしてだらしない格好を披露してくれているのでこちょこちょと指で触るとキャッキャと笑っている。

 ただし、その大きさは大人の中型犬くらいになっておりもう頭にも肩にも乗せられない。鞄に入れて動き回るのも大変なくらいに重くもなっている。

 足取りもしっかりしてきたのでそろそろ移動について考えなければならないかもしれないな。


「額の角もポッコリ出てきたし、成獣になったら立派になるんだろうな」

「そうだねー。早く成獣にならないかなー」

「ピキャ! ピキャキャ!」

「へっ? 魔法鞄? ……あぁ、炎晶石のことか」


 炎晶石を食べることでここまで大きくなったのだ。そのことをガーレッドも自覚しているからこうして叩いているのだろう。

 王都で手に入れた炎晶石はまだまだ大量にあるので、これを全部食べさせたらもしかするとあっという間に成獣になることも可能かもしれない。

 でも、僕は暴食はしてほしくないと思っている。


「うーん、それじゃあ今日は特別な日だから大きい欠片をあげるね」

「ピッキャーン!」


 だからこうしてちょっとずつあげるのだ。

 それに、小さい頃の思い出も大事に作っていきたいしね。


「フルムはもう少しかかるだろうな」

「風晶石があれば違うかもしれないけど、晶石自体が貴重なものだからね。僕の場合は本当に運が良かったよ」


 バリボリと炎晶石を食べているガーレッドの頭を撫でながら、できればフルムも一緒に成長させたいなと思うようになっていた。


「カズチは晶石を手に入れる方法とか知ってる?」

「そんな高価なもの、知ってるわけないだろう」

「だよねー。それじゃあ、誰に聞くのがいいのかなぁ」


 一番可能性があるのはゾラさんかソニンさんだけど……明日、機会があれば聞いてみるか。

 その後は昔話に花を咲かせつつ、これからもよろしくとお互いに握手を交わして別れた。

 僕はそのままベッドへ横になるとその上にガーレッドがよじ登ってくる。


「……これからもずっとよろしくね、ガーレッド」

「ピーキャー」


 そして、いつの間にか僕もガーレッドも眠りについていたのだった。

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