夜営二日目

 ホームズさんにも言われた通り、僕は長剣を打つ。その理由をヴォルドさんに話すと、それもそうだなと納得してくれた。


「俺のでよければ長剣ロングソードもあるが見るか?」

「今回は大丈夫です。イメージはできてますから」

「そうか。素材は何を使うんだ?」

「そうですねぇ……」


 前回同様にどうせなら役所が出してくれた素材を使いたい。

 持ち出しでもいいのだが、昨日のライトストーンでうまくいったこともあり、様々な素材を試してみたいという僕自身の願望もあるのだ。


「あっ! これなんて面白そうですね──うわあっ!」


 そう言って取り出した素材は、見た目のサイズ感からは到底想像できない重さをしていた。


「おいおい、それは魔獣の素材じゃないか?」

「げっ! そ、そうなんですか?」


 重たそうにしている僕を見かねたのか、ヴォルドさんが素材を手に取り教えてくれた。


「こいつは重亀ヘヴィタートルの甲羅だな」

「さ、さすがに魔獣の素材を打つのは……あれ? でも、そっかぁ」

「んっ? どうしたんだ?」


 素材を見つめながら、ヴォルドさんは相づちを打つ。


「いえ、錬成の時には魔素の影響で大変だって聞いたんですけど、鍛冶なら錬成された後だから大丈夫なのかなって思ったんです」


 錬成済みなら、打てるのかな?


「というか、役所もこんな高価な素材をよくポンポンと出せるよなぁ」

「これも高価な素材なんですね」

「ライトストーンよりも高価だぞ、これ」


 うわー。それって、マジで失敗が許されないんじゃないかな。

 この場にダリルさんがいなくてよかったかも。


「重亀は体長が人の五倍くらいあるからな。討伐するだけでも大変な魔獣だ」

「ケルベロスとどっちが大変ですか?」

「重亀だ。同じ上級魔獣でも、重亀はその中でも上位種にあたるからな」


 ……わーお、それは貴重な素材でしょうな。


「せっかくだからやってみたらどうだ? 誰にでも始めてはあるんだろ?」

「まあ、そうですね。悩んでる時間ももったいないですし」

「くくくっ! 今の言葉をダリルさんが聞いたら仰天するだろうな!」

「えぇー、やれっていったのはヴォルドさんじゃないですかー」

「決断したのは小僧だからな!」


 笑いながらハッキリと言い切るヴォルドさんを半眼になって睨んでいたのだが、ラチがあかないと悟り僕は長剣のイメージを固めることにした。

 重亀の素材は漆黒をしている。特徴としては先ほど感じた重さだろう。名前に『ヘヴィ』と付くだけのことはある。

 ならば、その重さが見た目に分かる——いや、ここはあえて分からないようにした方が相手の意表をつけるのではないだろうか。


「……これだけの重い素材で作った剣だと、誰が使えると思いますか?」

「俺は問題なく使えるぞ。後はザリウスとグリノワくらいだろうな。ガルとアシュリーも使えることは使えるが、特徴を殺してしまうことになる」

「特徴ですか?」


 戦い方のスタイルってことだろうか。


細剣レイピアを使うアシュリーの為に軽い素材のライトストーンを使っただろう。ガルもアシュリーと同じで速度重視だからな」

「だったら、これはヴォルドさんかグリノワさんにってことですね」

「ザリウスじゃなくていいのか?」

「ホームズさんにはキャリバーって言う愛剣がありますからね。それに、一級品のナイフも渡してますし」

「……ザリウスの装備って、そこまで充実しているんだな」


 少し声に詰まっているように聞こえたけど、そこは気にしないでおこう。きっとヴォルドさんの大剣クレイモアだって一級品だろうし、腰に下げてる長剣も似たようなものだろう。


「さて、どうするかなぁ」


 少しだけ思考した僕は、面白いことを思いついてヴォルドさんに提案する。


「片刃の剣って使ったことありますか?」

「片刃だと? 使ったことはないが、そんな剣が役に立つのか?」


 そうでしょうとも。両刃の剣しか使ったことのない人からするとそう思うのも仕方ないか。


「護衛依頼とか、相手を殺してはいけない時とかに役立つんですよ」

「殺してはいけない時?」

「護衛対象が子供で人死にを見せたくない時とか、相手を捕まえて情報を引き出したい時とか、刃と逆の部分で峰って言うんですけど、峰打ちで気絶させることも可能ですよ」

「うーん、人相手に戦う時ってことか」

「その分、刃の斬れ味は保証します! だから作らせてください! そして、作った暁には使ってみてください!」


 懇願にも近い僕の言葉に、ヴォルドさんは苦笑しながら頷いてくれた。


「了解だ。だが、それは出来によるからな。アシュリーの時みたいに超一級品が出来てくれたら嬉しいんだがな!」


 冗談交じりにそう言ってきたヴォルドさんに頷き返し、僕はを打つことに決めた。

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