夜のラトワカン
「――……ン……ジン!」
「……ん? あれ、ユウキ?」
うーん、まだ眠いんだけど……あー、そっか、夜中に活動するんでしたか。
「ありがとう、ユウキ」
「いや、構わないよ。それよりもガーレッドを起こしてもらっていいかな? それとも鞄に入れてそのまま連れて行くかい?」
横を見るとガーレッドがとても気持ち良さそうに寝息を立てている。
この様子を見てしまうと、起こすのは申し訳ないので優しく抱き上げてそのまま鞄に入れることにした。
「フルムはどうするの?」
「ソニン様に抱っこしてもらうことにしたんだ。僕はフルムを入れておける鞄を持ってないからさ」
「ガーレッドも大きくなってきたし、この鞄に二匹は入らないからね」
「普段はどうしてるの?」
「危険の少ない依頼とかなら一緒に走らせているかな。今のうちから走らせていた方が、将来的に動ける成獣になるってソラリア様から聞いているからね」
「えっ、そうなの? 聞いてないんだけど?」
もしそうなら僕ももう少しはガーレッドを歩かせていた……かも?
「ジンの場合は鍛冶師だから必要ないと思ったんじゃないかな。僕は冒険者として成獣になったフルムと一緒に魔獣とも戦うだろうからさ」
「それはそうだけど、知っていたかったかなー」
「今からでも間に合うんじゃないかな。まあ、今日は熟睡しているから次からってことで」
うーん、まあ、そうだね。
今日は危険な魔獣が現れるかもしれないし、カマドに戻ってからでもいいかな。
話をしながらも準備を終えた僕はユウキと一緒にテントの外に出る。
すでに全員が準備を終えていたようで、僕が最後だったようだ。
「遅くなってしまってすいません」
「いえ、構いませんよ。夜中の活動は初めてですからね」
「ありがとうございます、ソニンさん」
「よーし、それじゃあ撒き餌をしたところに行ってみましょうか!」
ソニンさんからお許しが出たところで、僕たちはマリベルさんの号令に合わせて野営地を出発した。
話によると撒き餌をした場所は五ヶ所あるらしい。
普段なら二ヶ所くらいにはヴァジュリアがかかるらしいのだが、今回はイレギュラーな状況なので分からないのだとか。
「最悪、一匹もかかってない可能性もあるから、その時は少しだけ探索をするわ。それでも見つからなければ、同じことをもう一度やるわ。二泊三日を予定しているけど、それで出てこなかったら諦めてちょうだいよね」
「分かっています。目的の素材を手に入れられないというのも、経験の一つになりますからね」
マリベルさんの言っていることも正しいし、ソニンさんの言っていることも正しい。
依頼をすれば必ず手に入るわけではないのだから、失敗した時に備えて別の素材なりを準備することもこれからは考えないといけないのかも。
僕が冒険者ギルドで素材を依頼するとなれば、優先順位をつけるとかして素材を一つに絞らずに複数依頼することとかってできるのだろうか。
一番欲しいものが手に入らなければ二番目のもの、二番も手に入らなければ三番目のもの、みたいなね。
実際に手に入った素材に合わせて報酬を与える。全部手に入ればプラスで与えるし、逆に一つも手に入らなければ失敗とみなして報酬はなしだ。
保険ではないけど、その方が僕としても冒険者としても失敗の確率はだいぶ減るような気がする。
この辺はダリアさんに相談する必要があるかもしれない。
そんなことを考えていると、一つ目の撒き餌の場所に到着したようだ。
「……うーん、小物しかいないわね」
「この魔獣はどうするんですか?」
どうやらハズレのようで、目的のヴァジュリアはいないらしい。
だが、撒き餌には他の魔獣が集まっているのでどうするつもりなのかが気になってしまった。
「残しておくわけにはいかないから狩るわよ」
「ここは僕とマリベル様で向かいます。ハピーはみんなの護衛ですね」
「大丈夫なんですか? 僕が魔法で片付けてもいいですけど?」
撒き餌に集まっている魔獣は結構な数に及んでいる。一匹ずつ狩っていては時間がかかるのではないだろうか。
「そうしたいのも山々なんだけどね。あまり大きな音を出しちゃうと、他の撒き餌にいるかもしれないヴァジュリアが逃げるかもしれないからさ」
「そうですね。ここは無属性を使って一気に片付けたいと思います」
「っていうか、ジン君って攻撃系の魔法が使えるの? いや、ゴルドゥフさんと一緒に野営地の魔獣を倒してたから何かしらあるとは思うけどさぁ」
「マリベル、話は後ですよ。まずは魔獣の討伐からお願いします」
そういえば、マリベルさんには何も話していなかったっけ。
もう誤魔化すのも面倒だし、マリベルさんのことは信用もできるから教えても問題ない気がするんだけど……まあ、そこはソニンさんと相談しながらになりそうだな。
「うー、分かったわよ! ジン君、後でちゃんと説明してよね!」
「あはは、それじゃあ行ってきます」
そしてマリベルさんとユウキが魔獣の群れに突っ込んでいった。
「……ソニンさん、言っちゃっていいですかね?」
「……どうしてコープス君は自分の秘密をそう簡単に話してしまうんでしょうね」
「秘密だと? 儂も魔法は使えると知っているが、やはり何かあるのか?」
……そうでした、グリノワさんにも詳しい話はしていないんだった。
「今のは、ソニンさんが悪いんですよ?」
「……はぁ」
これは、説明しないわけにはいかなくなったみたい?
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