顔合わせ
翌日はソニンさんの提案で知り合いの上級冒険者との顔合わせになった。
ユウキとフローラさん、当然ながらガーレッドとフルムも一緒だ。
顔合わせの場所はなぜか東門で、僕たちは顔を見合わせている。
「ソニンさん、どうして東門で顔合わせなんですか?」
「実は私もよく分かってないんですよ。まあ、彼女は突発的に色々なことをしてくるので、また何か企んでいるんでしょうが」
えっと、それはあまりよくないのでは?
僕がそんなことを考えていると、一人の女性がソニンさんに手を振りながら近づいてきたのだが……えっ、あれってまさか?
「やっほー!」
「遅いですよ、マリベル。待ち合わせ場所を指定したのはあなたでしょう?」
「ごめんごめん、怒らないでよー。それで、この子たちが鍛冶師の子と下級冒険者の子たちだね!」
マリベルさんから声を掛けられているのは分かっている。だけれど、それ以上に注目してしまうものがあるのだ。
「……れ、霊獣?」
そう、マリベルさんの隣には明らかに普通の動物とは異なる生き物が立っている。
その雰囲気はガーレッドやフルムと似ているのだが、その大きさが全く違う。
人を乗せても耐えられる、それも馬とも違う力強さが見てとれる。
これが、成獣なのだろう。
「ブルフフフッ!」
「ケヒートさんが言ってた通りだわ! 霊獣の幼獣が二匹もいるなんてね!」
「あの、そちらは成獣なんですか?」
「そうだよ! この子はシルホースのハピー」
「ブルヒン!」
とても大きな白馬と言えばいいだろうか。
二人、もしかしたら大人三人を乗せても苦もなく走ってしまいそうだ。
「ピーキャキャキャー!」
「わふわふっ!」
「ブルヒヒン!」
霊獣同士で何やら会話をしているようだ。
その姿を見ているだけで時間がどんどんと過ぎていきそうだ……まあ、僕はそれでも構わないんだけど。
「それで、今日はどうして東門で顔合わせをしようと思ったのですか?」
もちろん霊獣の顔合わせが目的ではないはずなのでソニンさんが話を進めていく。
「明日には出発するんでしょ? だから、今日は予行練習でもしようかなって思ったのよ!」
「……予行練習?」
首を傾げるソニンさんだが、それは僕もユウキやフローラも同じだった。
護衛依頼の予行練習なんて、普通はやらないだろうに。
「だって、今日一日暇だったんだものー」
「そ、それが理由ですか?」
「それと、ユウキ君やフローラちゃんの実力も見たいじゃないのよー!」
「……後付けですよね?」
「まっさかー!」
マリベルさんって面白い人だなぁ。
ソニンさんをこれだけ困惑させられる人なんてなかなかいないだろうに。
「三人も時間があるんでしょう?」
「まあ、あるというか作ったというか」
「顔合わせがあると聞いていたので依頼は受けていません」
「ジン君は?」
「まあ、僕も時間はありますけど」
「ほーらどうだ!」
「どうだじゃありませんよ! コープス君はともかく、二人は依頼を受けずに時間を作ってくれているじゃないですか!」
いや、僕はともかくって言う発言もどうかと思いますけど?
「まあまあ、後付けだけど実力を見てみたいっていうのも本当だし、事前に知っていた方が役割分担とかもやり易いでしょう?」
「あの、僕たちは大丈夫ですよ?」
「マリベル様の言うことも正しいですから」
「ケヒートさんは頭が固いのよー! ほらほら、二人からは許可も出たことだし東の森までちゃちゃっと行っちゃいましょうよ!」
「あ、頭が固いとは聞き捨てなりませんよ!」
「だったら行きましょうよー!」
マリベルさんの発言を僕がしていたら激怒どころではないだろう。
この二人、相当長い付き合いなんだろうなぁ。
そんなことを考えているとソニンさんの説得に成功しただろうマリベルさんとハピーがニコニコ顔で僕たちのところにやって来た。
「幼獣が長旅だと大変だと思うけど、よろしくねー」
「ピピーキャキャキャー!」
「わふわふん!」
「ブルッヒヒン!」
ガーレッドとフルムの頭を優しく撫でてくれたマリベルさんの表情はとても柔らかく、ハピーのことをとても大切に育てたんだろうなと分かってくる。
「そっかー。ガーレッドは王都まで行ったことがあるんだ。だったらフルムは気をつけるんだよ」
「わふっ!」
「二匹の言っていることが分かるんですか?」
僕やユウキはそれぞれガーレッドとフルムの言葉しか分からないのだが、マリベルさんは三匹の言葉が分かっているようだ。
「分からないけど、ハピーが教えてくれているのよ」
「ブルヒン!」
「へぇー。ハピーはかしこいんだね」
僕がハピーのことを褒めると、ハピーだけではなくマリベルさんまで嬉しそうに頭を掻いていた。
「それで、東の森に行くと言っていましたがどこまで行くのですか?」
ソニンさんが溜息混じりに質問すると、マリベルさんは笑いながら口を開く。
「中程まで行けたらいいかなー。もちろん、ユウキ君とフローラちゃんが中心で魔獣を倒してもらうからね!」
「「は、はい!」」
少しだけ緊張気味のユウキとフローラさん。
上級冒険者に戦い方を見てもらえる機会はあまりないのかもしれない。
「ジン君も来るでしょ?」
「えっ、むしろここまで来て置いていかれる方が辛いですよ」
「それじゃあケヒートさんの参加も決定ねー!」
「……分かりました、行きましょう」
どうやら僕の同行がソニンさんの同行にもつながったようだ。
……えっと、なんだか申し訳ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます