魔導師エルミド
エルミドさんのお店には薬草から作られた塗り薬や飲み薬が多く並んでいるのだが、様々な色合いの薬があって何がなんだか分からない。
薬の近くには説明書きもあるのだが、お目当ての薬を見つけるのには苦労しそうだ。
「コープス様、どうしたのですか?」
「フローラさんの予定を聞きに来たんだけど、勉強の邪魔はしたくないから後でいいよ」
「それなら安心しなさい。ちょうど休憩を挟もうと思っていたからね」
エルミドさんは笑顔でそう口にすると、近くにあった椅子に腰掛けた。
フローラさんを見ると、こちらも笑顔で頷いてくれたので用件を伝えることにした。
「明後日から数日掛けて護衛依頼をお願いしたかったんだ。それで、フローラさんの勉強の都合もあると思って予定を聞きに来たんだよ」
「そうだったんですね。でも、数日とはどらくらいの期間になりそうですか?」
日程までは聞いていなかったので困ってしまったが、とりあえず向かう場所について伝えることにした。
「細かな日程までは聞いていないんだけど、東の森を抜けてラドワニって都市に行って、そこからラトワカンって山岳地帯に魔獣素材を取りに行くんだ」
「ラドワニにラトワカンかね。それなら、早くても六日間は掛かるかもしれないねえ」
場所について知っているのか、エルミドさんが教えてくれた。
その日数を聞いたフローラさんは少し困ったような表情を浮かべたものの、ここでもエルミドさんが声を掛けてくれた。
「行ってきなさい、フローラ」
「いいんですか?」
「なーに、友人と交流するのも大事じゃからな。それに、ラトワカンに行くなら採ってきてほしい素材があるんだよ」
エルミドさんはそう言って欲しい素材を教えてくれたのだが、まさかの素材でしたよ。
「
「魔獣素材なんですか?」
「そうさ。岩石竜の外殻を使うと石化を治す薬を作れるんだよ」
「石化? そんな状態異常があるんですか?」
ゲームではよくある状態異常だが、実際に石化という症状があると考えると不思議な気持ちになる。
即死っぽいけど実際は生きていて、その薬があれば回復するわけだからね。
仮死状態、ってことなんだろうか。
「石化は中級から上級の魔獣がたまに使う異常じゃて、そうそうお目に掛ることもないがあって損はせんからのう」
「ですが、岩石竜も上級魔獣で討伐は容易ではないですよ?」
「上級なの!? それってケルベロスと同じってことだよね?」
今はもう懐かしのケルベロス。
あの時は深手を負わせることはできたものの実際に討伐できたのは助けに来てくれた冒険者たちのおかげだった。
護衛依頼には上級冒険者が同行するってことだけど、少ない人数で討伐までできるのだろうか。
「まあ、素材はついでで構わんよ。無理ならそれはそれでよい」
「それだと私が行く理由がなくなってしまいます」
「フローラはよく頑張っているからねぇ。仕事ではあるけど、たまには外に出て気分を変えるといいよ」
エルミドさんは今回の護衛依頼をフローラさんの良い気分転換にしようと考えているみたいだ。
「勉強ばかりだと思考が凝り固まって入ってくるものも抜けていってしまうからね」
「……分かりました。先生、ありがとうございます!」
「ほほほ。なーに、その間に私も色々とやらせていただこうかね」
「エルミドさん、僕からもありがとうございます」
「ええよ、ええよ。フローラをよろしくねぇ。まだわずかな時間ではあるけれど、この子は私の弟子だからね」
「……どちらかと言えば僕が守ってもらう方なんですが?」
「そうじゃったか? ほほほ、まあええさ」
飄々と笑いながら立ち上がったエルミドさんを見て、フローラさんもすぐに立ち上がる。
「どれ、そういうことなら今日はなるべくたくさんのことを教えてあげようかね」
「よ、よろしくお願いします!」
「それじゃあ僕たちはこれで失礼します」
「本当にありがとうございました」
ユウキの合図を受けて、僕は改めてお礼を口にするとそのままエルミドさんのお店を後にした。
※※※※
僕とユウキはそのまま本部へと戻りソニンさんへ報告を済ませた。
「そうですか、それはよかった」
「何か準備しておくものはありますか?」
ちゃんとした護衛依頼が初めてのユウキはソニンさんに質問している。
「いえ、そのあたりは私の知り合いの冒険者が準備してくれていますから安心してください。その時にでも色々と教えてもらえると思いますよ」
「分かりました、ありがとうございます」
「コープス君は外で鍛冶ができると言っていましたね?」
「あ、はい」
突然の質問に僕は返事をすることしかできなかった。
すると、ソニンさんから嬉しい内容を伝えられた。
「念の為、鍛冶に必要な道具は持っていてください。何が起こるか分からないのが護衛依頼ですから、武器を現地調達できるならそれに越したことはありませんからね」
「それは、鍛冶をしてもいいってことですよね!」
「……何かがあればです。何もなければ外で鍛冶をすることもありませんからね?」
ふふふ、何もないに越したことはないけれど、鍛冶ができるならちょっとしたアクシデントは歓迎するべきか?
「……コープス君?」
「……す、すいません」
そう思っていたのだが、ソニンさんにぎろりと睨まれてしまったので考えを改めることにした。……だって、やっぱり怖いんだもの。
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