ユウキと霊獣

 裏口から入ってきたのはホームズさんとリューネさん、それと見たことのない方がもう一人。


「れ、霊獣はどこなの!」


 ……なんだろう、デジャブを見ている気持ちになってしまった。

 ガーレッドも驚きのあまりに僕の足にひっついてきちゃったよ。


「落ち着いてくださいリューネさん。霊獣は弱っているんですから、そのような勢いでは警戒されますよ」

「はっ! ……れ、霊獣ちゃ~ん、どこにいるのかな~」

「そんなことよりもホームズさん、そちらの方は?」

「ジン君酷い!」


 いやだって、対応が面倒臭いじゃないですか。


「し、失礼いたします。僕は本来の霊獣契約を担当しているムンバ・ホール・グランパスと申します」

「本来の霊獣契約?」

「君がジン・コープス君だね。君の霊獣が契約した時にこいつが先走ってしまったから僕の仕事がなくなったんだよね」

「あー……その切は申し訳ありませんでした」

「いやいや、コープス君が悪いわけじゃないんだから謝る必要はないんだよ。悪いのはぜーんぶこいつだからね」

「……ムンバ酷い!」


 みんなリューネさんへの対応が酷いものだと思いながら、僕はムンバさんに質問する。


「ムンバさんが来たくれたということは、霊獣契約を行うんですよね?」

「そのつもりで来たんだけど……えっ、やらないんですか?」


 誰が霊獣契約を受けるのかという問題がある。

 僕とソラリアさんの中ではユウキ一択なんだけどあの場にはホームズさんもいたのだけれど……。


「ここはユウキしかいないでしょうね」


 まあ、そうなるよね。

 むしろあの場にいたからこそユウキだと言えるのかもしれない。

 興奮していたライガーの声を聞き取り、落ち着かせて、ここまで運んできたユウキしかふさわしい人はいないのだ。


「……本当に僕でいいんでしょうか」

「君はユウキ・ライオネル君だね。その答えは霊獣が教えてくれるよ」

「……霊獣が、ですか?」


 ムンバさんの言葉を受けてユウキは再び視線をライガーへ向ける。

 その瞳はまっすぐにユウキを見つめており、何かを伝えようとしているかのようだ。

 僕たちには聞こえないけれど、きっとユウキとライガーの間では会話がなされているはず。

 僕とガーレッドがそうだったように。


「……うん、分かった、ありがとう」

「わふっ!」

「ムンバさん、僕とライガーの霊獣契約をお願いできますか?」

「もちろんですとも」


 笑みを浮かべたムンバさんはゆっくりとユウキとライガーに近づいていく。

 ビクリと身を震わせてユウキに体を擦り付けるライガーにも微笑んで腰を落とす。


「安心しなさい。僕は君と主の絆を結びつける為にやってきたんだよ」

「……ぐるぅ?」

「大丈夫だよ、ムンバさんを信じるんだ」

「……わふ」


 ユウキの言葉には素直に頷き、体を引っ付けてはいるが顔をムンバさんに向けたライガー。


「ユウキ君、この子の名前は決まっていますか?」

「名前ですか?」

「わふっ!」


 おぉ、僕が毎回悩んでいた名前問題にユウキも直面したようだ。


「名前かぁ。ライガーはどんな名前がいいかな?」

「わふ? ぎゃうぎゃう!」

「僕に決めてほしいの? そっかぁ……それじゃあ、フルムってのはどうかな?」

「きゃん!」

「決めるの早い!」

「ど、どうしたのジン?」


 ま、まさか即答で決まるなんて思っていなかったよ。

 それにフルムって、なんか可愛い響きがこの子にとても似合っている。


「……な、なんでもない」

「フルムですか、とてもよい名前ですね。それでは霊獣契約を行います」


 準備が整ったのだろう、ムンバさんは以前にリューネさんが行った霊獣契約と同じように詠唱を始めた。


「火の精霊、水の精霊、木の精霊、土の精霊、風の精霊、光の精霊、闇の精霊、七精霊へ願い奉ります。人の子ユウキ、神の子フルム、二人の心を繋ぎ生涯の契約と為す」


 ムンバさんの指先から現れた七色の光。

 ユウキの額とフルムの額に触れると光が二人を繋ぐ。

 光はすぐに弾けて二人の中へ消えていった。


「これで問題ありません。ユウキ君とフルムの霊獣契約は完了しました」

「……なんとなく、分かります。ムンバさん、ありがとうございます」

「きゃんきゃーん!」

「とんでもない。こちらこそ、可愛らしい霊獣を見ることができてお礼を言いたいくらいですよ」


 フルムはムンバさんに慣れたのか自ら足元に近づいて体を擦り付けていた。

 その頭を優しく撫でるムンバさんの表情はとろけている。


「……あぁぁーっ! わ、私にもなでなでさせて! もふもふしたいー!」

「ぎゃん!」

「……すいませんリューネさん。フルム、怖がってるみたいです」

「またなの! これで霊獣二回目なんだけど!」

「リューネさんが興奮しすぎなんですよー」

「ジン君の言うとおりだ。お前は毎回そうなんだよ」

「……だって、霊獣なんだもん」


 最後にはいじけてしまったリューネさんに対して、ソラリアさんが笑いながらお茶を出して慰めていた。

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