これからのこと
ムンバさんは諸々の手続きがあるといってすぐにソラリアさんの道具屋を後にした。
「……リューネさんは行かないんですか?」
「私の仕事じゃないんだもの」
そう言って出されたお茶をすすっている。
その視線はフルムに向いているのだが、嫌われたくないからだろう、その距離は大分離れていた。
「……つ、次は触れるように気を付けるんだからね!」
「それだけ気合いを入れてたら、また怖がられますよ?」
「ぐぬっ! ……あぁぁ、もふもふ」
そんなことを呟きながら、視線がゆっくりとガーレッドに向けられた。
「ダメですよ?」
「なんで! ガーレッドちゃんなら私にも慣れてるのに! 癒しを、私に癒しをちょうだいよ!」
「お茶で癒されてください」
「ビービギャー!」
「あぅぅ、可愛いが離れていくぅぅ」
ダメな大人は置いておき、僕はユウキとフルムのところへ移動する。
ガーレッドもフルムのことが気になっていたようでご機嫌だ。
「ユウキ、フルムは大丈夫そうかな?」
「うん。霊獣契約をしたからかもしれないけど、なんとなく大丈夫なんだって分かるんだ」
「心が通ってる証拠だね」
「ピピキャー!」
「わふっ!」
ガーレッドとフルムもこくこくと頷いて同意を示してきた。
……うん、これはヤバいね。可愛すぎて倒れそうになる。
リューネさんは……あー、見ない方がいいや。
「──ユウキ」
僕たちが霊獣の可愛らしさにノックアウトされている中、ホームズさんが真剣な表情で話し掛けてきた。
「なんでしょうか、師匠」
「霊獣と契約できたのはとても素晴らしいことです。ですが、これからの行動にも注意しなければなりませんよ」
「……はい」
ユウキは返事をしながらガーレッドに視線を向けた。
僕がガーレッドと霊獣契約を結んだ二日後、ガーレッドは誘拐された。
ユウキのおかげで未遂に終わり、そして多くの冒険者のおかげで助かることができた。
そして、今度は同じことがユウキとフルムの身に振りかかるかもしれないのだ。
「フルムの為にも、これからの行動には細心の注意を払い、依頼を受ける時にもより吟味して選ぶように。そうでなければ、お互いに危険な目に遭うこともありますからね」
「……ユウキ、フローラさん以外に信用できる冒険者の知り合いっていないの?」
「急にどうしたの?」
僕の言葉にユウキが首を傾げながら問い返してきた。
「僕の場合は『神の槌』にいるからたくさんの目で見てもらえたけど、ユウキは独り暮らしじゃないか。霊獣を奪う為に寝込みを襲われる可能性とかもあるんじゃないかと思って。ユウキの家は広いし使ってない部屋もあるんでしょう? だったら、護衛ってわけしないけど一緒に暮らせる男性の冒険者がいてくれたら安心じゃないかなって思ったんだ」
カマド一のクランである『神の槌』に侵入して霊獣を奪おうとした輩がいたのだから、下級冒険者の家に忍び込むくらいのことをやらかす輩がいると考えるのは当然だと思う。
フローラさんは後衛職だし何より女性だ。信頼しているとはいえ男性であるユウキと一つ屋根の下というのは色々と誤解を招いてしまう。
……いやまあ、二人にその気があれば問題はないんだけどね。
「残念ながら、特に親しくしている冒険者はいないんだ。でも、僕だけでもフルムは守ってみせるよ。そうしなきゃいけないんだもの」
「わふっ! わふうぅぅっ!」
ユウキはそう言っているけど、やはり心配だ。
今のところここに来た人以外にはバレていないと思うけど、今後ユウキがフルムを連れて依頼を受けるとなれば必ずバレてしまう。
ガーレッドの時も外に出て遊んでいるところを見られていたのだ。
そして、それに気づいたのはユウキだった。
「……もしユウキが迷惑でなければ、私が泊まってもいいですか?」
「えっ! そ、そんな、むしろいいんですか、師匠!」
まさかの提案にユウキが驚きを露にしている。
確かにホームズさんから最強の護衛になるだろうしユウキとは師弟関係だ。
でも、仕事に差し支えはないのだろうか。
「コープスさんの言う通り、フルムが狙われる可能性は高いでしょう。しばらくは私が泊まり、そういった輩にここには手を出せないと思わせられればいいんです」
「ですが、仕事は大丈夫なんですか?」
「日中は別行動ですよ。私にも『神の槌』での仕事がありますからね」
「良かったじゃん! ホームズさんなら鬼に金棒じゃないか!」
「ほほほっ、また面白い言葉を使うんじゃのう」
僕の例えにソラリアさんが笑いながら相づちを打ってくれた。
「まずはフルムの安全を第一に考えるべきだろうね。ザリウスなら申し分ないじゃないか」
いや、それどころか過剰な戦力になり得ます。
「……その、師匠がご迷惑でなければ、お願いします!」
「分かりました。私もフルムのことが心配でしたから安心です」
「……ホームズ君は霊獣と一緒にいれていいわねー」
「嫉妬ですか、リューネさん?」
「ジン君もガーレッドとずっと一緒だもんねー」
「そりゃそうでしょう!」
「ピキュー!」
「……わ、私も泊まりに──」
「「「ダメです!」」」
「みんなが酷いよー! ソラリアさーん!」
「うふふ、さすがにそれはダメでしょうね」
最後の最後にソラリアさんにまで否定されたリューネさんは、ついに机へ突っ伏してしまった。
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