報告と提案

 ホームズさんは今日からユウキの家に泊り、そこから本部へ通うことになった。


「もし可能ならゾラ様に報告しておいてくれますか? 私からも明日報告は入れますので、可能ならで構いませんから」

「分かりました。気をつけて下さいね」


 僕は落ち込んでいるリューネさんに送ってもらうことになったのだが、それは落ち込んでいたリューネさんを励ます為でもある。


「……ねえジン君、もうすこーしゆっくり歩かない?」

「さっさと行きますよー。ガーレッドも眠たそうですからー」

「ビ、ビビ」


 眠たそうというよりも、だいぶ嫌がっている。

 ガーレッドは今だけリューネさんが抱っこしており、それが励ましになっているのだ。

 ガーレッドも最初はいいよと言ってくれていたのだが、やはりリューネさんのテンションが高くなってからか徐々に変な鳴き声を出すようになってきた。


「今度会った時にはフルムちゃんももふもふするんだー!」

「それはフルムとユウキにちゃんと許可を取ってくださいね」

「もちろん!」


 このままのテンションならまた断れることになると思うのだが、そこは言わないことにしよう……言っても変わらないと思うし。


 ガーレッドの為に早足で進んでいたのであっという間に本部へ到着した。

 もの凄く名残惜しそうにされたのだが、ガーレッドの為にさっさと抱っこを変わり満面の笑みで手を振り別れた。


「……ジン君、酷いー!」


 そう言いながら泣くふりをして帰っていった。

 ガーレッドと一緒になって溜息を漏らしながら本部に入ると、タイミングよくゾラさんが通りかかった。


「ゾラさん!」

「小僧か、今まで外におったのか?」

「ホームズさんとユウキと一緒にいました」

「ザリウスじゃと? そういえば事務の二人がそんなことを言っておったのう。……また何か変なことをしているのではないじゃろうな?」

「またってどういうことですか、またって」

「小僧がふらりと出掛けた時は何か問題が起こるからのう」

「酷いですよ!」

「そう思われる行動をしているのはどこの誰じゃ」


 ……はい、僕です、すいません。


「で、でも今回は良いことをしたんですよ! ホームズさんからもゾラさんに報告しておいてって言われてるんです!」

「報告じゃと? ……ふむ、それでは一度儂の私室に行くか」


 顎に手を当てたゾラさんはすぐに移動を促した。

 霊獣関連の話なので私室での報告はありがたかったのでそのままついて行くことにしたのだが、途中でソニンさんにも声を掛けていたのには驚いた。

 そのまま私室へと移動すると僕はユウキとホームズさん、そしてフルムについてを報告した。


「……鉱山から霊獣じゃと?」

「……それも、また幼獣ですか?」


 もの凄く驚かれてしまった。

 まあ、霊獣自体が珍しいようなので周囲の人間で霊獣持ちが複数人いることも珍しいことなのだろう。


「まあ、そういうことなら仕方がないじゃろう」

「仕事に影響が出ないのであれば問題ありません。むしろ、ユウキ君と霊獣の方が心配ですね」

「そうなんです。だからホームズさんもユウキの家に泊ることにしたんですが、やっぱり心配は心配ですよね」


 腕組みをしながら何やら考え始めたゾラさんとソニンさん。

 しばらくして二人で何やら話し合いを始めてしまったのだが、それもすぐに終わりこちらへ振り返り驚きの提案を口にした。


「——なんならユウキをこっちで預かってもいいぞ?」

「……へっ? いや、でも、ユウキは部外者ですよ?」

「そうですが、ユウキ君とはコープス君を通して付き合いが深いですからね。私たちも信用しているんですよ。それにザリウスさんが仕事で遅くなったりする時もあるでしょうからね」


 おぉぅ、ユウキの信用度半端ないな。

 これって僕よりも信用があるんじゃなかろうか。


「まあ、ユウキのことじゃから遠慮するかもしれんがのう」

「性格からするとそうですね。でも、そこは僕が説得しますよ! フルムの為って言えばユウキも折れてくれますよ!」

「……楽しみですね」


 あっ、ソニンさんから本音が漏れた気がする。


「二人でもやっぱり霊獣は珍しいんですよね?」

「それはそうじゃろう。ガーレッドの時も驚いたが、まさか身近に二匹も霊獣が現れるとは思わなんだ」

「王都に行った時にはそれなりに目にしましたが、それでも珍しいことに変わりはありませんよ」

「そうですよねー」

「なんじゃ、気になることでもあるのか?」


 ガーレッドもそうだしフルムもそうだけど、同じ鉱山から見つかっているのが気になるのだ。


「ガーレッドが生まれた時は卵みたいなのに入ってましたけど、あれは南の鉱山から見つかったものですよね? フルムも同じ鉱山から見つかったので、あの鉱山には何かあるのかなって思いまして」

「うーん、儂も長年カマドにいるが今回のようなことは初めてじゃぞ?」

「私も聞いたことがありませんね」

「そっかぁ。ソラリアさんなら何か分かるかなぁ」


 霊獣が高いところで見つかることが多いと言っていたのもソラリアさんだ。明日は時間を見つけて話を聞きに行くのもいいかもしれない。


「とりあえず、小僧はそろそろ休んだ方がよさそうじゃな」

「コープス君もですが、特にガーレッドですね」

「……ピ……ピィ」

「そうですね。突然の報告ですいませんでした。それに嬉しい提案も」

「ユウキの説得は任せるからのう」

「はい!」


 僕は元気よく返事を返して私室を後にした。

 部屋に戻るとささっと体を流してベッドに潜り込んだ。


「……友達ができて良かったね、ガーレッド」

「……ピピー」


 寝言で返事をしてくれたことに微笑みながら、僕も眠りに落ちていった。

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