ラトワカンへ

 朝食を終えた僕たちは早々と準備を終わらせて宿屋の前に集まった。

 マリベルさんの言う通り、ラトワカンに着いたらヴァジュリアをおびき出す為の準備をするそうだ。


「時間が余ったら鉱石を探してもいいですか?」

「……話の流れが読めませんが、どういうことですか?」

「だって、ラドワニに来たのに鉱石を採らないなんてもったいないじゃないですか!」

「……買えばいいだけの話では?」

「それでは意味がないんですよ! 自分で採ってこそのロマンです!」


 そして、自分で採った鉱石を使って武具を作る、何て素晴らしいんだろう!

 僕の力説がソニンさんに溜息をもたらし、渋々の了承を勝ち取った。


「ただし、時間があり、なおかつ安全だと判断できた場合のみですからね?」

「もちろんです! 危険なことはしません!」

「……その行動が危険なんですがね」


 右手で顔を覆いながらの発言に、僕以外の面々は笑っている。


「ケヒートさんにこれだけの物言いができるなんてね」

「ある意味、ジンが一番の大物だよね」

「本当ですね」

「がはは! 本当にジンは面白い奴じゃのう!」

「笑い事ではないですよ?」


 ソニンさんには申し訳ないと思いながらも、今回に関しては妥協したくないので何も言わずに鉱石探しに精を出す決意をする。


「それじゃあ、ラトワカンに出発しましょう!」


 僕の掛け声にこの状況を楽しんでいるグリノワさんだけが返事をしてくれた。

 こうして、僕たちはラドワニを後にした。


 ※※※※


 しばらくは舗装された道が続いていたのだが、徐々に砂利が多くなり馬車がガタガタと揺れ始めた。


「あわわ!」

「森と違って硬く大きい石が転がっていることもありますから。枝なら折れたりして特に問題ありませんが、石は車輪が乗ってしまいますからね」

「で、でででも、これはは揺れすぎぎぎではははは?」


 馬車に乗り慣れていないのだろう、僕とソニンさんは普通に話せているのだが、フローラさんは言葉をガタガタさせながら話している。


「まあ、そのうち慣れますよ」

「は、はいいいいい」


 ラトワカンまでの道程は魔獣と出会うこともなく順調に進んだ。

 廃坑になっていると聞いていたので魔獣もそれなりにいるのかと思っていたのだがそうではないらしい。


「到着したよー!」


 そして、僕たちはラトワカンに到着した。


 廃坑だからだろう、人気ひとけは全くなく緑も少ない。

 岩肌も風が吹くだけでカラカラと欠片が落ちていくところを見ると、中に入るのも危険かもしれない。


「なんだか、カマドの南の鉱山とは雰囲気が全く違いますね」

「あちらはまだまだ銅の採掘が活発ですからね。採り尽くされた廃坑はこのようなものですよ」


 そんなものかと思いながら、馬車は山道を進んでいく。

 ここまで来ると揺れはさらに強くなり、舌を噛まないようにと無言の時間が続いた。

 斥候にはマリベルさんが出ているようで姿が見えない。

 魔獣の姿もいまだに見えないのでハピーと一緒に狩りながらなのかと思っていると、夜営をする場所に到着した。


「魔獣は出てきませんでしたね」

「……そうですね」


 良いこと、だと思ったのだがソニンさんの表情はあまりよろしくない。

 マリベルさんはと言うとユウキとフローラさんの三人で護衛について話し合っている。

 グリノワさんは整地をしながらテントを張るという器用な真似をしていた。


「ここの夜営地は、そこまで荒れていませんね」

「人の手が入らない場所ならこれよりも荒れているのが普通なのですが……」

「何か気になることでもあるんですか?」


 先ほどからソニンさんの反応が悪い。

 あまり考えたくはないけど、良からぬことでも起きているのか?


「……もしかしたら、ラドワニまでの道中で夜営地を荒らした奴らがラトワカンまで足を運んでいる可能性があるかもしれません」

「それは、魔獣が少なかったことと関係してますか?」

「コープス君も気づいていたのですか?」

「あまり思い出したくはないですけど、ケルベロス事件の時に似てるなって思ったんです。あの時は突如現れた上級魔獣から逃げる為にその周囲から魔獣が消えていたんですよね」


 ただ、あの時はケルベロスに見つかる前に多くの逃げ出した魔獣と遭遇している。

 今回は魔獣と遭遇していないことを考えると全く同じとは言い切れない。


「まあ、なんとかなるんじゃないですか? マリベルさんもいますしユウキやフローラさんもいます。御者ですけどグリノワさんもいますしね」

「……ここまで来て、何もせずに帰るというのもどうかと思いますしね」

「あれ、珍しいですね。ソニンさんなら安全を考慮して帰宅するって言うかと思いました」


 鍛冶や錬成の勉強でも順序を守り、無理を強いることもなかったソニンさんの口から危ない橋を渡るような発言とは……まあ、帰ると言われて素直に帰ります、とは僕が言わないけれど。


「コープス君が言う通り、陣容は申し分ありません。細心の注意を払い、そのうえで目的を達成したらすぐに帰るというのが一番現実的でしょうね」

「そうですか……えっ? 目的を達成したら、すぐに帰る?」


 えっと、その言い方だともしかして……。


「その通りです。なので、鉱石採掘は諦めてください」


 最後は満面の笑みでそう言われ、僕は大きく肩を落とすのだった。

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