宿屋で朝食を

 翌日の朝は三人で宿屋の食堂へと向かった。

 そこではすでに女性陣が食事を始めていた。


「おはようございます」

「コープス君、おはようございます。本日は三の鐘には出発しますよ」


 ユウキから聞いた通りだったので、僕はその場で頷きベルリアさんのところへと向かう。

 料理の注文もそうだが、霊獣向けの料理というのが気になってしまったのだ。


「ベルリアさん、おはようございます」

「ピキャキャーキャー!」

「あら、おはようございます。うふふ、匂いで分かっちゃったのかしらね」


 元気よく挨拶をしているガーレッドに笑みを浮かべながら、ベルリアさんは僕の料理とは別にガーレッドの料理も出してくれた。


「これは?」

「魔獣の肉と内臓を軽く味付けした料理よ」

「な、内臓ですか?」


 魔獣の肉は分かるけど、内臓って食べられるのだろうか。

 いや、ベルリアさんを信じていないわけではないんだけど、ちょっと不安になってしまった。


「霊獣は魔獣を食べるということは知っていますか?」

「は、はい。マリベルさんのハピーが斥候をしながら魔獣を狩り、食べていると聞いています」

「基本的に霊獣は食べられるものなら何でも食べます。お肉は当然ながら、内臓だって同じなんですよ。本来なら味付けだって必要ないんですけど、少しでも美味しく食べてほしいと思って軽く味付けをしているんです」


 外で魔獣を食べるわけだから、味付けなんてされているはずもない。

 それで十分なわけだからベルリアさんの言っていることは本当なのだろう。


「ピッキャ! ピッキャキャー!」


 そして、ガーレッドの反応を見ていると霊獣が内臓も大好物なんだということも納得することができた。


「ジン君も、外にいる間だけでも余裕があれば魔獣の肉や内臓をガーレッドちゃんに食べさせてみたらいいと思うわ」

「分かりました、ありがとうございます」


 僕はお礼を言ってから女性陣のテーブルへと向かい空いている席に腰掛けた。

 ユウキも後からやって来たのだが、フルム用の料理を持ちながら笑みを浮かべている。


「ビギュ! ビギュギュ!」

「がふっ! がふふっ!」

「……二匹とも、もの凄くがっついてるね」

「……あはは、相当美味しいんだろうね。ジン、僕たちも急いで食べようか」

「そうだね。時間がもったいないし」


 僕たちは二匹にご飯を与えながら、合間に自分たちの食事を始めた。

 途中からはベルリアさんが台所から出てきて食事を与える役目を変わってくれた時は驚いたが、人間が食べる料理の仕込みは前日に終わらせているので問題はないのだとか。

 霊獣向けの料理はとても美味しいようで、最初から最後まで食べる勢いが衰えなかったのだが、僕たちが食べている料理も同様にとても美味しかった。

 薄味なのだが素材の味が濃く出ており、歯ごたえも高い食材が多いのか食べ応えもありとても満足感がある。


 僕たちが食事をしている間、ソニンさんとマリベルさんが何やら話し合いをしているのだが、聞こえてくる内容からするとおそらくラトワカンでの野営について話し合っているようだった。

 何日滞在するのか、何が必要になるのか、目的の魔獣は何なのか……あれ、目的の、魔獣?


「……僕も魔獣の名前とか分からないなぁ」


 中級魔獣の素材とだけ聞いているのだが、それ以上の情報は全くない。

 食事が終わったら少しだけソニンさんに聞いてみようと思っていたのだが、食べ終わる前に立ち上がり食堂を後にしてしまった。

 フローラさんも部屋に準備をしに行ったのだが、マリベルさんだけはその場に残って霊獣二匹を見ながら微笑んでいる。


「マリベルさんは準備しに行かなくていいんですか?」

「あー、私は家で準備を済ませているから大丈夫なのよ。今はフローラちゃんもいるし、ここでじっくりと幼獣ちゃんたちを見つめているわー」

「まあ、準備ができているならいいんですけど。そうそう、さっきの話し合いでは何か決まったことでもありましたか?」


 どうせ黙って見ているだけならと思い、僕はソニンさんとの話し合いの内容について聞いてみた。


「んー? そうねぇ……えっと、なんだっけ?」

「だから! 話し合いの内容ですってば!」

「ちょっとマリベル、ジン君の話を聞いてあげなさい?」

「えぇー! 今は霊獣ちゃんを眺めているんだけどー!」

「もう食事は終わりましたよ? このままでは、ジン君が食事を終えたらガーレッドちゃんを連れて部屋に戻るのではなくて?」


 マリベルさんの扱いに慣れているんだろう、ベルリアさんが何度か会話を挟むと頬を膨らませながらもこちらを振り向いてくれた。


「そんなんじゃあハピーが悲しみません?」

「ハピーには毎日愛情を注いでいるから大丈夫なのよー! それで、ケヒートさんとの話の内容だったよね」


 そこで話を聞くと、ラトワカンには二泊三日、魔獣の名前はヴァジュリア、素材はそいつの牙なのだとか。


「どうして二泊三日なんですか? ラドワニからラトワカンまではそこまで遠くはないですよね?」

「ヴァジュリアは夜行性なのよ。だから泊まりになるの。日中は夜におびき出す為の撒き餌を準備して、夜に備えるってわけ」

「ほほう、ヴァジュリアの牙を狙っているのか」


 そこに口を挟んできたのはグリノワさんだ。


「知っているんですか?」

「中級冒険者がよく使う素材で知られているんじゃよ。……なるほど、ふむふむ、面白そうじゃのう」


 最後には一人納得顔のグリノワさんを見て、僕は首を傾げるのだった?


 ※※※※

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 ※※※※

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