雑談

 部屋に戻ってからガーレッドとフルムを寝かしつけたタイミングでグリノワさんが戻ってきた。

 二匹の寝顔に笑みを浮かべると、少し離れたところに置かれているテーブルに僕とユウキを手招きで呼んでいる。


「どうしたんですか?」

「ガーレッドとフルムに土産じゃ」


 僕の質問にグリノワさんは当然のように土産だと口にした。


「えっと、グリノワ様? まだラドワニに到着して初日ですよ?」

「そうじゃが、良い品というのはすぐに売れてしまうからのう。見つけたならすぐに購入するのが儂の信条なんじゃよ。それにジンが魔法鞄マジックパックを持っているのも知っていたからのう」

「でも、なんで二匹に?」


 カマドにいる知り合いに、グリノワさんの場合は貸し馬車屋のご主人へお土産をとかなら分かるけど、まさか霊獣の二匹にお土産っていうのはよく分からない。


「そんなもん、似合うと思ったからじゃが?」

「……えっと、それだけですか?」

「そうじゃよ」

「……あっ、そうですか」


 まさかの答えに僕もユウキも呆気に取られてしまう。


「儂は魔法鞄を持っておらんからのう、先に渡しておく」

「に、荷物になるってことですか?」

「装飾品店を見て回ったんじゃぞ? そんなもんを渡すわけないじゃろう」


 そうですよね。……安心しましたよ。

 言いながらグリノワさんはテーブルに銀色の可愛らしい小さな腕輪を二つ、ゆっくりと置いた。

 細かな模様が刻まれており、一つの表面には赤色の宝玉が。もう一つには黄色の宝玉が嵌め込まれている。


「属性付与がされている腕輪じゃよ」

「ぞ、属性付与!? それって相当高い買い物だったんじゃないですか?」

「そうでもないぞ。これでも金は貯めているのでな!」

「答えになってませんよ! もう、上級冒険者の人たちってお金の使い方や物の管理がめちゃくちゃなんじゃないですかね!」


 ホームズさんも僕に魔法鞄をあげるとか言ったし、何を考えているのだろうか。

 ユウキなんて呆れを通り越したのか頬を引く突かせて何とも言えない顔をしているよ。


「誰彼構わず買うわけじゃないからの? 気に入った奴にしか買わんからな?」

「……えっと、そう言われると文句を付けにくいんですけど」

「文句なんて言わずに受け取ればいいんじゃよ。赤色の宝玉の方は火属性付与でガーレッドに。黄色の宝玉の方は風属性でフルムに」

「あの、グリノワさん。本当にいいんですか?」

「そうですよ。僕たち、グリノワ様にお返しできるような物なんてないですよ?」


 僕とユウキが本当に貰っていいのか何度も確認しているのを見て、グリノワさんは苦笑しながら僕たちの頭に手を置いて荒々しく撫でてきた。


「子供が気にすることではない。儂があげたいと思ったから買ってきたんじゃ。素直に貰っておけ。別に何かお返しがほしいわけでもないんじゃからな」


 言われて僕は視線を腕輪に向ける。

 ドワーフのグリノワさんが選んでくれたからだろうか、身に付けているガーレッド想像してみたのだが、とても似合っている。

 おそらくユウキもフルムで同じことを考えているだろう。

 無言のままの僕たちをグリノワさんは黙ったまま見つめている。


「……グリノワさん、ありがとうございます」

「……何かできることがあったら言ってください。少しでもいいので、何かを返したいので」

「気にせんでいいが、何かあれば声を掛けようかのう」


 にかっと笑いながら立ち上がったグリノワさんは、明日も早いと言ってベッドに横になってしまった。


「……ぐごー」

「……えっ、もう寝たの?」

「……早くない?」


 野営の時も思ったけど、グリノワさんって横になるとすぐにいびきを掻くから驚きだ。


「ユウキもこれくらいすぐに寝てた?」

「僕は時間が掛かるかな。でも、どこでもすぐに寝られるようになるのは冒険者に必要な能力だって聞いたことがあるかな」

「何それ」

「体力回復は寝るのが一番なんだって。だから上級冒険者になればなるほど、寝るのが上手いんだってさ」


 寝るのが上手いって聞いたことがないんだが。

 でも、それならマリベルさんもすぐに寝ちゃってたのだろうか。明日にでもフローラさんに聞いてみようかな。


「僕たちも寝ようか」

「そうだね」


 ユウキが明かりを消してくれたので、僕はそのままベッドの方へ移動する。


「それじゃあ、お休み」

「お休み、ジン」


 明日からはまた忙しくなるだろう。

 それでも僕は知らない都市に来たことでテンションは上がっている。


「……ラトワカン、楽しみだなぁ」


 そう呟いた後、僕は目を閉じて眠りについた。


 ※※※※

 宣伝マラソン九日目です!

『カンスト』3巻が2020/02/05(水)から好評発売中!

 これも皆様の応援のおかげでございます、本当にありがとうございます!!

 すでに購入してくれた方もいらっしゃると思いますが、今回も素晴らしいイラストが目を引いたと思います! ガルも、新キャラも、最高の出来でしたから!

 というわけで、ぜひ書籍版を手に取っていただけると幸いです、よろしくお願いいたします!


『異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!3』

 ■作者:渡琉兎

 ■イラスト:椎名優先生

 ■出版社:KADOKAWA(レーベル:ドラゴンノベルス)

 ■発売日:2020/02/05(水)

 ■ISBN:9784040734934

 ■価格:1,300(税抜)

 ■B6判

 ※※※※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る