ガーレッド
生暖かい視線を一身に浴びながら、僕はガーレッドを撫で続けた。
「ピキュッ、ピキュー」
「ガーレッド……長くないか?」
「いや、サラマンダーの方が長いじゃん」
「アプールの方が良いではないか?」
「いや、それは僕が別の食べ物を思い浮かべちゃうんで却下です」
「……ポチ」
「即却下」
「何故ですか!?」
……いや、何故って言われても。
説明も面倒臭いしここは無視に限るね。
「僕が決めたことだからいーの! それにガーレッドも気に入ってくれてるしねー」
「まあ、本人が気に入っているならいいのではないか?」
「そ、そうですね」
「……ポチ」
ポチポチうるさい人は置いといて、名前は決まっても根本的な問題がまだ解決していない。
「でも、結局のところガーレッドは何なんですかね?」
「うーむ、もしかしたら霊獣の一種かもしれんのう」
「れいじゅう?」
これまた新しい単語が飛び出してきたよ。
しかも、スキルとか全く関係ないよね。
「人には色々な種族がいるのだが、霊獣は人とは異なる存在なのじゃ」
「まあ、霊獣って言うくらいだしね」
「何処でどのように産まれるのか全く分かっていないが、人が存在する以前からこの世界に存在していたと言われているのが霊獣じゃ。一部では神の使いとも呼ばれておる」
「……また大げさな」
英雄の器といい、霊獣といい、大げさなものが多過ぎないかな。
僕は平凡に色んなものを作りたいだけなんだけど。
「霊獣は便利じゃぞ。成長した時の大きさにもよるが背中に乗って移動することもできるし、個体によっては魔獣と戦わせることも可能じゃ」
「背中には乗りたいけど、魔獣と戦いなんてさせません!」
何より僕が怖いもの!
「もし霊獣なら契約が必要になるの」
「契約なんてあるんですか?」
「霊獣は貴重な存在じゃ。さっきも話たが移動や護衛として戦闘もできる。それ故に盗まれることもあるのじゃ。盗ませないことが一番じゃが、もし盗まれてしまった場合などに契約は主人と霊獣の関係性を証明するためにも必要な処置なんじゃ」
ペットみたいに自由に飼うことってできないんだ。
でもガーレッドが危険な目に遭わないよう契約はしておくべきだろう。
僕も親になったんだからね。
「でも、契約ってどうやるんですか? 住民権の時みたいに役所とか?」
「基本的にはそうなんじゃが、ガーレッドの場合は霊獣かどうかもはっきりしておらんからのぅ」
「誰か霊獣に詳しい人っていないんですかね?」
僕とゾラさんが頭をひねっていると、カズチが静かに手を上げた。
「あのー、ルルに聞いてみたらどうかな?」
「……ルルに?」
これはまた意外な人物の名前が出てきたよ。
ルルってお昼に会った料理人見習いの礼儀正しい女の子だよね。
料理に関することならありだけど、霊獣についてとなれば皆目見当がつかないんだけど。
--まさか!
「ガーレッドを食べる気なのか!」
「ピギャッ!」
「んなわけあるか! ……たくっ、ルルは俺たちよりも霊獣とかそっち方面に詳しいんだよ」
そっち方面の意味が分からないが、食べるわけじゃないならよかった。
ルルが霊獣に詳しいというのは意外だけど、それならすぐに聞けばよかったのにと思ったのだがゾラさんの表情は曇ったままだ。
「ルルか。じゃが、あの子はそれを拒んでいるではないか」
「ですが棟梁、緊急事態だと伝えれば納得してくれると思います。ルルは優しい奴ですから」
おや? 何やら怪しい雲行きですな。
ルルは何かしらの闇を抱えているのだろうか。それを知っている後輩のカズチ、君はもしや?
僕の視線に気づいたカズチが怪訝な顔をしている。
「……どうしたんだ、ジン?」
「……応援してるよ!」
「何の話だよ!」
えっ? 恋話じゃなかったっけ?
あぁ、霊獣の話だったね、失敗失敗。
「だけど、嫌がるなら無理にとは言わないよ。他にも方法はあるだろうしね」
「……いや、カズチの言う通り一度声を掛けてみよう。ルルもそろそろ殻を破らねばならんからな。断られたら別の手段を考えるだけじゃ」
ルルがクランに加入した理由とも関係するのかな。
それって僕が聞いてよかったのかと今更ながら心配になってきた。
僕の心情を察してか、ゾラさんは笑いながら口を開いた。
「心配するな。ルルとも仲良くなったんじゃろう? それなら、早いか遅いかじゃて」
「いや、そこは本人の心の準備ってのがあるでしょうに」
「まあ、聞くだけ聞いてみればいいんじゃよ。ガーレッドの正体、早く知りたいんじゃろう?」
……そうだね、知れるならルルに早く来てもらおう、それが良い。
「……ポチ」
あんたはまだ言ってるのかよ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます