ルルの見解

 ルルを呼び出すためにカズチが錬成部屋を出て行って数分後、再びドアがノックされた。


「失礼します」

「し、失礼します……ルルです」


 ルルはどこかオドオドした様子で錬成部屋に入ってきた。

 まあ、棟梁と副棟梁がいる部屋に呼び出されたわけだからそりゃあオドオドするよね。


「呼び出してすまんかったのう。実はルルに見てもらいたいのがあるんじゃ」

「……話は聞いています。だけど、私は、その」


 言い淀むルルを見て、ゾラさんは優しく微笑む。


「無理にとは言わん。ただ、もしルルの気持ちに変化があればと思ったのじゃ。ずっとこのままというわけにはいかんじゃろ?」

「……はい。だけど、まだ」


 うーん、ルルに何かあったのは確実だけど、ガーレッドの正体を知りたいのも確かだ。

 無理矢理にはお願いできないから、ここは自発的にやりたくなるように仕向けなければいけない。

 その方法も僕には思いついている--まあ、完全にガーレッド任せになるんだけどね。


「……ピキュ?」

「へっ?」


 僕の後ろからひょっこり顔を出したガーレッドが可愛く鳴きながらルルを見つめていた。

 何の鳴き声だろうと声の方はルルが視線を向けた直後、つぶらな瞳と目があう。


「はっ! ……」

「ル、ルル?」


 ルルがガーレッドを見つめたまま固まってしまった。

 ……うんうん、概ね予想通りだ。ガーレッドの可愛さは正義だからね。


「この子、ガーレッドが何なのかを知りたいんだ。僕たちは霊獣だと思っているんだけど、もし違っていたら危険な目に遭うかもしれないし、霊獣だった場合は急いで契約をしなくちゃいけないんだ。ルルが霊獣について詳しいって聞いたからお願いしたかったんだけど……ごめんね、無理はさせられないね」


 僕は間を置かずにガーレッドの状況とルルへの断りを告げた。


「--ちょっと待って!」


 ふふふっ、そうなると思ったよ。

 ……ただ、ルルの大声にはビックリしたけど。あんな声も出るんだね。


「この子、ガーレッドって言うんだね?」

「そうだよ。色々あって今ここにいるけど、僕たちだけじゃ明確な答えまでたどり着けないんだ」

「そう、なんだ」


 見てる見てる、目を離せないみたいだね。

 その気持ちは分かるよ、僕も目が離せないから。


「……分かりました、私でよければ力になります」

「本当! ルル、ありがとう!」

「おぉ! しかし、大丈夫なのか?」

「私も、前に進まないといけませんよね」


 心配そうな声を掛けたゾラさんに笑顔で答えるルル。

 ガーレッドの可愛さを利用した気がして少し心が痛むけど、それでルルが前に進めるなら良しとしよう。


「それでは準備をするので少し時間をいただきますね」


 そう言ってルルが取り出したのは一本の筆。

 その筆の先を地面に付けると、突然筆が白く輝き出した。


「な、何ですかこれ?」

「筆に光属性を通わせて魔力の魔法陣を描きます。描くのは光属性魔法のリサーチャーと言って、魔法陣の中にいる生物の鑑定を行います」


 鑑定って、なんか全部を覗かれちゃうんじゃないですか?


「今回は種族の鑑定だけでいいんですよね?」

「それで良いぞ」


 ……よかった、種族の鑑定だけなのね。

 んっ? 今の言い方だと種族以外も鑑定できるみたいな言い方だよね?

 ルルって、マジで何者なんだろう。

 そんなことを考えている間に魔法陣を描き終えたルルが立ち上がった。


「それでは、ガーレッドちゃんを魔法陣の中に入れてくれるかな?」

「分かった。あっ、ガーレッド、動いちゃダメだよ」

「キュキュ?」


 魔法陣の中に移動させたガーレッドだったが、僕が離れようとするとヨチヨチ歩き出して魔法陣から出て来てしまう。

 どうしたものかと思い、ルルにこんな提案をしてみた。


「僕が抱いたままでも大丈夫かな?」

「ジンくん一人くらいなら大丈夫です、お願いできるかな?」


 僕がガーレッドを抱いたまま魔法陣の上に立ったのを確認すると、ルルが何やら詠唱を始めた。


「魔導師ルル・ソラーノの名の下に、彼の者の種族を見定めよ。我が魔力を贄として捧げ、光となりて教えたまえ。--リサーチャー」


 ……ん? 魔導師?

 僕が疑問に感じた直後、魔法陣が筆の光よりも更に強い光を放つ。

 光の中にいる僕とガーレッドはただただ立ち尽くしているだけで、これからどうなるのかも全く想像がつかない。

 ただただ唖然としていると、突如体から光が溢れ出した。


「な、何だこれ?」

「これはリサーチャーが上手くいった光です。この光の色によって対象の種族が分かります。ガーレッドちゃんがもし霊獣なら金色の光が現れるはずだよ。ちなみに、ジンくんからは緑の光が現れるかな」

「そっか、どれどれ……」


 ガーレッドに視線を向けてじーっと見ていると、ガーレッドの体からは金色の光が溢れていた。


「あっ! 金色だからガーレッドは霊獣だね!」

「ピキュキュー!」

「よかった。それじゃあ後はジンくんが契約を済ませれば--えっ?」


 安堵したルルだったが、突然驚きの声を上げた。

 その視線は一点を見つめている。

 その視線の先はガーレッドではなく--僕だ。


「ど、どうしたの、ルル?」

「……ジンくんって、人間、だよね?」

「そうだけど、えっ?」


 何となく視線を自分の体に向けてみた。

 ガーレッドから金色の光が溢れているのと違い、僕の体からは別の光が溢れている。

 緑の光だよ--んんっ!?


「緑……に、赤、青、黄、紫、白に黒。七色の光?」


 えーっと、あれ? 僕って、人間じゃないの?

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