打ちまくり、作りまくり
※※※※
「小僧! そっちは終わったかー!」
「終わりましたよ!」
「コープス君! それならこっちをお願いします!」
「はーい!」
そして、現在。
相も変わらず槌を振るい、超一級品を繰り返し作り続けている。
依頼人からのオーダーに応える形で見た目を豪華にしたり、珍しい形に仕上げたり、シンプルな美しさを追及してみたり。
去年の初めはゾラさんやソニンさんに最終チェックをしてもらっていたのだが、ある時を境にチェックが無くなってしまった。
一度、どうしてチェックを失くしたのかを聞いてみたのだが、至極単純な答えだった。
『――ん? 無駄じゃろう、そんなもん』
……いや、無駄って言わないでよ、無駄って。
まあ、肩書は一端の鍛冶師なので師匠に認められたと喜ぶべきなのだが、さすがに卸す先が王族や貴族となれば見てもらいたくもなるでしょうよ。
「えっと、これはー……あれ? ユージリオさんからだ」
ユウキの父親であり、王様を守る国家魔法師の魔導師長を務めるほどの大物である。
ユージリオさんからの依頼は、僕個人としてはとてもやりやすい。
シンプルな美しさを求めており、なおかつ有事にも扱えるよう切れ味も求められる。
鍛冶師心をくすぐられてしまうのだ。
貴族の中には華美なものを好む人もいて、豪華な作りであれば切れ味なんて二の次でも問題ないという人もいるくらいだ。
そうなると、見た目にばかり意識がいってしまうので打つ側からすると面白くもなんともない。
まあ、そんなことを言うと仕事に面白さを求めるなと怒られそうだけど、楽しく仕事をしたいと思うのも仕方がないことだと思う。
「刀は以前に卸しているしなぁ。諸刃も作ったし……うん、色を変えた剣を打ってみるか」
元が日本人だからか、刀が銀色というイメージが強く残っている。
そして、美しい剣が刀だというイメージも。
たくさんの剣を打つ中で、美しいを形作るものを考える機会も多くあったが、華美なものでなければ色を付けてもシンプルの中に美しさを融合できるはずだ。
「淡い青……細身……
ユージリオさんは僕が何を打ってくるのかを楽しんでいる節がある。
一度だけ指名依頼を受けたことがあるのだが、そのオーダーが困惑極まりないものだったのだ。
【見たことのない、想像できる中で極めて難しい形であり、機能性を持たせた武器】
……いや、どんな武器だよそれ! 機能性が無いから見たことがないんじゃないのか!
当時の僕はそう心の中でツッコミを入れていたが、ゾラさんが受けてしまったものだから断ることもできなかった。
結果として、オーダーの中に
ちなみに、作ったのは鉄扇だ。
全てを鉱石にすると重くて機能性が低くなるので、外側に当たる部分に硬質でありながら軽い素材を用いている。
扇子としての機能もあり、暗器として懐に潜ませることもできて、この世界に扇子がなければだが、オーダーに応えられると思ったのだ。
結果、大満足だったようで、通常報酬にボーナス報酬が『神の槌』の口座に振り込まれていた。
そして、ゾラさんはボーナス報酬を全て僕の口座に移してしまったから少しだけ揉めたのは言うまでもない。
「ゾラさーん! ユージリオさんの依頼なんですけど、細剣と短剣、どっちがいいと思いますかー?」
「任せるぞー!」
「ソニンさん――」
「任せますよ!」
……食い気味かい。
でもまあ、好きにやっていいってことだから、好きにやらせてもらいましょうか。
打つのは……細剣にしよう。確か、ユウキには姉が二人いたはずだし、有事の際にはそちらに回ることもあるだろう。
もしかしたら、女性騎士がお姉さん方を守ることもあるだろうし、一本くらい超一級品があってもいい気がする。
そんな感じで、僕はユージリオさんのオーダーに応えながらも今まで卸したことのない武器を打つ為に、今日も槌を握るのだった。
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