閑話 ゾラ・ゴブニュ
ソニンと小僧が役所に行っている間、儂は本部で荷物の受け渡しや書類の提出を行うことになった。
普段ならソニンに任せているから、正直何をどうしたらいいか分からんわい。
だが、見習いたちは分かっているようで儂が指示を出す前からテキパキ動きよるので楽なもんじゃい。
「お帰りなさいませ、ゾラ様」
「ザリウスか、帰ったぞ。あー、これが今回の経費書類じゃ」
「おや? ソニン様はどちらかに行かれたのですか?」
「ん? おぉ、そうじゃそうじゃ、お主には伝えておかねばならんな」
首を傾げるザリウスに、儂は小僧のことを説明した。
「戻って来る途中でよー分からん小僧を拾っての、ソニンはそいつの住民権を取得しに役所へ行っておる」
「……よく分からない、小僧?」
あー、そんな顔をするな。
儂だって何故拾ったのか今になって疑問に思っとるんじゃ。
「必要な書類を持って戻って来るはずじゃから、その時はよろしく頼むぞ」
「はぁ、分かりました。……きっと、厄介ごとですねー」
……うぬぬ、ザリウスよ、そんな小声でぼやかないでくれ。
「そ、それじゃあ儂は部屋に戻るぞー!」
逃げるようにして廊下を進み、ようやっと落ち着ける儂の部屋じゃ。
「--ふぅ、今日も疲れたのう」
今回の王都への出張は王太子への献上品があったからか、周りも変に気を使ってしまい大変じゃった。
もう少し簡単に物事を考えんといつか倒れてしまうぞ。
「しかし、あの小僧は不思議な奴じゃわい」
王都からの帰りに拾ったジンという小僧。
儂らがあの道を通らなかったらどうしていたのだろうか。
そもそも、今回の隊商が大規模にならなければあの道は通らなかった。
普段は狭くても早く到着する別の道を通るのだから不思議なものじゃ。
それに、変なことばかり言っていたが、不思議と嘘をついているようには見えんかった。
「……本当に不思議な子じゃわい」
椅子に座りながら天井を眺めていると、扉が三回ノックされた。
「はいよー」
扉が開かれると外からソニンと小僧が入ってきた。
小僧の表情が心なしかウキウキしているように見えるのは儂の気のせいだろうか。
まあ、何故か儂も小僧のスキルを調べることが楽しみで仕方なくなっているので気持ちは分かる。
「ようやく戻ったか。それで、リューネからは書類を貰えたか?」
「滞りなく。先程ザリウスさんに提出してきました」
「そうかそうか! ならば早速鑑定水晶で--」
「不備がないか確認中です。確認が終わればザリウスさんもこちらに来ますのでそれまでは待っていてくださいね」
うぬぬ、頑固者め。お主だって早く調べたいくせに。
まあソニンの言葉が正しいのも事実、ここはザリウスがやって来るのを待つのがよいだろう。
しかし小僧は不思議なことを言いよる。
書類処理は事務員のザリウスの仕事であろう、それにザリウス自身が何も言ってこないのに何故あれほど確信を持って言えるのだろうか。
そしてこれも嘘をついているように見えないから不思議である。
頭をひねっていると、再び扉がノックされた。
「はいよー」
開いた扉からはザリウスが書類を手に中へ入ってきた。
書類にも不備はないようですぐにサインをする。
これでようやく小僧のスキルを調べてやることができるぞ。
「ゾラさん」
「うん?」
「さっきの話、覚えてますよね?」
「うぅむ、そうじゃのう……」
何じゃ、さっきまでスキルを調べたくてウズウズしとったのに急に真面目な顔をしおって。
そんなに気になるなら聞いてやるわい!
「ところでザリウスよ、最近は困ったこととかはないかのう」
「困ったこと、ですか? ……いえ、特には--」
「ホームズさん」
むっ、そこで小僧がまくしたてるように話し始めた。
確かにザリウスが全ての事務業務をしているが大丈夫じゃろう。
体を壊したら? それは……確かに困るが……なんと、大変だったのか! それにあまり寝れていないじゃと!? あわわ、大至急対策をせねば! リューネにか、さすがソニンじゃ!
まさか縁の下の力持ちが倒れかけていたとは、小僧には感謝してもしきれんぞ。
これは、速やかに小僧のスキルを調べてやらないといかんな、そうじゃそうじゃ。
何? スキルの勉強じゃと? すっ飛ばしてもよいのだが、ソニンが睨んでくるので黙っておこう。
--よし、もういいじゃろう!
儂は鑑定水晶なるスキルを調べるアイテムを取り出して机の上に置く。
小僧がいくつか質問をした後に水晶に手を乗せた。
--カッ!
ぬおおおおぉぉぉぉっ!
なんじゃこりゃ! どんだけ眩しいんじゃ!
それに、あ、頭がおかしくなりそうなくらい情報が多いくせに、意味が全く分からんぞ!
しかも、小僧、全属性持っておるぞ!
意味が分からんにもほどがあるじゃろう!
……ぉぉぅ、ようやく、落ち着いたかい。
儂らの視線は自然と小僧に向いてしまう。
「お主、何者じゃ?」
「えっ、人間のジン・コープスですが」
「そういう意味じゃないわい!」
この期に及んでその反応かい!
しかも全属性持ちのくせに鍛冶スキルと錬成スキルがないことに嘆いておる、そこは習得できるのだから別にいいだろうに。
しかも、あれは何じゃ? 明らかにオリジナルスキルだろう。
多くの情報のほとんどがあれに関するもののはずじゃ……意味は分からなかったが。
「スキル名は--英雄の器」
……マジで何者じゃ?
とりあえずスキルについて何でもいいから情報が欲しい。
儂らは素早く話し合いを行い今後の方針を固めていくが、小僧は全く違うことを考えているように見える。
「聞いておるか、小僧!」
「へっ? 何ですか?」
「やっぱり聞いていなかったか」
何故気にならないのだ!
まったく、とりあえず小僧のスキルに関してはこちらで調べることにして、さっさと部屋に行ってもらおう。
不思議な子だが子供は子供じゃ、そろそろ疲れが出てもおかしくない。
小僧のことはザリウスに任せて部屋に案内させた。
そうしてソニンと二人、大きな溜息をついた時だ。
「ゾラ様、コープスくんのことをどう思いますか?」
「うーむ、不思議な子じゃが悪いやつには見えん」
「そうですね。変に鍛冶や錬成に食いついてきますし、ザリウスさんのことも一目見て気づいていましたし」
「その件は本当に助かったのう」
気づき過ぎている、というのが儂の意見ではあるがな。
まるで同じような光景を見てきたように的確な指摘であった。
小僧は本当に、小僧なのか?
「……コープスくんは、神の落し子ではないでしょうか」
「神の落し子じゃと?
これまた突拍子のないことを言う。
「過去の英雄の方々も全属性持ちだと言われています。全属性持ちが全員とは言いませんが、英雄の器というオリジナルスキルがそうではないかと思わせてしまうのです」
ソニンの言うことも分からなくはない。
儂が感じた本当に小僧なのかという点も合わせると、神の落し子ならば儂らが想像できないような知識を持っている可能性だってある。
……まあ、小僧の場合はだいぶ偏っている可能性もあるが。
「まあ、今ここで話をしていても分かるまい。ソニンは急ぎリューネに事務員募集と英雄を冠するスキルについて調べるよう伝えてくれい」
「かしこまりました」
そう言ってソニンも部屋を後にした。
「神の落し子か。……儂も、今日は早めに休むかの」
棚の中から強めの酒を取り出してお気に入りのグラスに注ぐと、儂は一気に飲み干して奥にあるベッドへ横になり眠りについた。
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