クラン暮らしと内装と
連れて行かれた部屋は日本で僕が暮らしていた部屋と同じくらいの広さ、六畳一間くらいだった。
大人の一人暮らしなら少し小さいかもしれないが、子供の一人部屋だと考えれば広いかもしれない。
奥の壁には窓があり、そのすぐ下に机が一つとその隣にタンスが並ぶ。右側にはベッドがあり左側には風呂とトイレだ。
食事はクラン専用の食堂がある為台所まではないけれど、十分に満足できる部屋だった。
後は自分好みに内装を整えることができれば完璧だ。
「この部屋って僕の自由にしていいんですか?」
「タンスや机を壊したりしなければ問題ありません。それと、何か欲しいものがあればいつでも言ってください。予算はありますがある程度ならゾラ様から許しを得ていますよ」
「ありがとうございます。でも、何が必要なのかも分からないのでこれがあると便利だよって物はありますか?」
僕の質問に、ホームズさんはスラスラと答えてくれた。
「見たところ荷物も何も無いようなので洋服が数点、それと鍛冶や錬成を勉強するのもそうですがカマドについて知ることも必要になると思うのでそれら書物類、後は自由にできるお金ですかね」
「それじゃあ、洋服と書物類をお願いします。洋服は実用性が高ければデザインは気にしないのでお任せしてもいいでしょうか」
「分かりました。お金も渡しておきましょうか?」
「うーん、使い道が思い浮かばないのでお金は遠慮しておきます。必要に感じたものがあればまたお願いします」
「そうですか。では、私は準備してくるので席を外します。疲れたでしょうから今日は休んでください。明日はクラン内を案内させる見習いが来る予定になっているのでその子と見学してくださいね」
「はーい!」
僕の返事に優しい笑みを浮かべたホームズさんは部屋を出ようとドアを開けたが、何かを思い出したかのように振り返った。
「……コープスさん、今回は本当にありがとうございました」
「急にどうしたんですか? お世話になってるのは僕ですよ?」
「仕事のことです。私はただ期待に応えられるように頑張ってきましたが、限界も感じていました。最初の頃は期待に応えられている自分に酔っていたのかもしれません。そうして時が経つと、人員補充をお願いしづらくなったんです」
「あー、そうなりますよね。できることを人に頼るのって、自分がサボっているんじゃないかって思うこともありますし、相手がそう思うんじゃないかって考えたり。そうすると自分が頑張らなきゃーって頑張るんですけど、結局潰れちゃうんです」
「……本当に不思議な子ですね。まさにその通りでした。だから、コープスさんが進言してくれたおかげで私もお二人に伝えることができたんです。ですから、本当にありがとうございます」
静かに、とても丁寧に頭を下げてくれた。
僕は慌てて顔を上げてくれるよう伝えて気にしないで欲しいと何度も伝えた。
これは僕が生産スキルを向上させるために必要なことだったのだ、言ってみれば自分のために進言したわけだ。
だからお礼を言われる理由にはならない。
「それでもですよ。私にとっては大きなことだったんです。何かあれば声を掛けてくださいね、私もコープスさんの頼みだったら優先して受けますから」
「皆さんに平等でお願いしまーす」
最後は冗談っぽくなってしまったが、ホームズさんは笑顔で部屋を後にした。
褒められることに慣れていないので何だがむず痒くなってしまい、何となくベッドに横になってみる。
この世界に来てから一日も経っていないのに、すでに色んなことがあった。
ゾラさんやソニンさんと出会い、カマドに来てリューネさんと出会い、ホームズさんと出会い、『神の槌』に加入することができた。
右も左も分からない異世界でこれだけの出会いを初日でできたことは僥倖である。
もしかしたら英雄の器の効果なのかもしれないと思ってしまう。
自分を良い方向に導いてくれる人に出会える、それこそ英雄に必要な条件ではないだろうか。
知らず知らずのうちにスキルの恩恵を授かっていたならば、ゾラさんたちが言うように優先的に調べる必要があるかもしれない。
考え事をしていると突然瞼が重くなってしまった。
たった一日の出来事としては少々壮絶な出来事だ、体は正直で僕はいつの間にか眠りについてしまった。
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