英雄の器

 何なんだろうか、このスキル。

 オリジナルスキルだということは分かるのだが、その効果が全く分からない。

 ただただスキル名だけが大それている。


「このスキル、どういうものか分かりますか?」

「さっぱり分からん」

「ですよねー」


 話を聞くと、オリジナルスキルだけでなく固有スキルでもその効果が頭の中に浮かび上がるということだが、英雄の器に関しては恐ろしいくらいの情報量が流れ込んできたのが分かっただけで、その意味も効果も全く分からなかった。


「しっかし、大それた名前ですよねー」

「過去の例を見ても、英雄と冠したスキルは初めてだわい」

「私も初めてです」

「……」


 誰も見たことがなく、ホームズさんに至っては一切の動きが止まっている。

 ただ、英雄というのは大体が大冒険の果てに魔王を討伐して世界を救い、一国の姫を妻に娶って優雅に暮らしたり、そうでなければハーレムを形成して悠々自適な暮らしをしているイメージだ。

 だけど僕はそんなこと望んではいない。

 大冒険なんていらないし、悠々自適な暮らしも必要ない。

 僕がこの世界でまず目指すべきは--。


「とりあえず、鍛冶スキルと錬成スキルを習得するところからですね」

「「「違うだろ!」」」


 ……おぉぅ、再び三人の声が揃ったよ。


「まずはこのスキルについて調べるのが先決です!」

「コープスさん、オリジナルスキルは効果によっては悪用するために誘拐されたりもする強力なものが多いのですよ!」

「二人の言う通り、まずはスキルについて調べるのが先決じゃよ」


 経験者が言うのだ、そこは従うべきかもしれないと思い渋々頷いた。


「だけど、どうやって調べるんですか? なんか、名前的にあまり色んな人に知られたくないんですけど……」

「儂らも広めるつもりはないし、むしろできる限り秘匿すべきだと思っておる。適任なのは、やはりリューネかのう」

「彼女ならエルフの知識もありますし、普通の職員が入れない書庫にも入れますからね」

「私も事務仲間の信用できる筋に聞いてみましょう。仕事上、色々な情報が集まりますから」


 ……リューネさん、マジ万能。

 それぞれが意見を出し合う中、僕は一般スキルを使用しての鍛冶方法を考えていた。

 だって、今できることってそれくらいだもの。

 まず火属性は必須であり、風属性もあるから火を強くすることも簡単だし、鉄を冷ますことも可能だ、水属性があるしね。

 土属性で素敵な火炉を作ることもできるし、やれることは多いのだ。

 木属性については……後々考えてみよう。

 正直よく分からないのが光、闇、無属性である。

 鍛冶に使えるのかもそうだが、どのように活用するのかも分からない。

 もしかしたら鍛冶ではなく錬成の方で使えるのかもしれない。

 鍛冶ならば日本の知識があるのである程度の予想ができるのだが、錬成はこの世界の技術なのでさっぱりだ。

 早い段階で錬成について勉強をするべきかもしれない。


「--聞いておるか、小僧!」

「へっ? 何ですか?」

「やっぱり聞いていなかったか」

「難しい話は分かりませんから。今後の鍛冶錬成について考えている方が有益です。それで、どうなりましたか?」

「全く、小僧の話をしているんだがのぅ」


 ゾラさんの溜息交じりの呟きに苦笑しながらソニンさんが口を開いた。


「当初の話し合い通りに英雄と冠したスキルの調査をリューネさんへ依頼し、別口でザリウスさんにも調査していただきます。それと、私は他の都市に出向いて英雄を冠するスキルについて調べようと思います」

「えっ! そんな、ソニンさんがわざわざ他の都市に行ってまで調べなくても大丈夫ですよ?」

「いえ、それくらいやる必要があることなんですよ」

「そ、そうなんですか?」


 言い方は悪いが、僕は赤の他人だ。

 ソニンさんの立場なら、クランのプラスになるスキルと判断できれば採算は合うだろう。

 だが僕の場合はそれとも異なる。

 英雄の器、名前だけで単純に考えれば勇者のように世界を救う為に冒険へ出るのが正解な気がする。

 まあ、そんなことするつもりは毛頭ないけれど。


「オリジナルスキルは一国の王が囲い込んだりする可能性もあるスキルが多いのです。コープスくんでなくても、英雄を冠していなくても、分からないスキルであれば私は同じ行動をします。あなたはすでに『神の槌』のメンバーなのですからね」

「……ありがとうございます」


 あぁ、そういうことか。

 ソニンさんは僕のオリジナルスキルについて調べて事前に対策をしてくれようとしているんだ。

 もし勇者になれるようなスキルであっても、国を相手にしても守れるように。

 ゾラさんもホームズさんも優しい笑みで見つめている。

 ……本当に、良い人たちに拾ってもらったなぁ。


「私の場合は次に向かう都市も決まっていますし、出張もよくあることですから気になさらないでください」

「分かりました」


 そこまで言われてしまうと素直になるしかない。

 甘えてばかりで申し訳ないが、今は仕方ないのだ。

 早くこのクランの助けになれるように鍛冶と錬成について勉強をしよう。

 何せ鍛冶スキルも錬成スキルもないのだ、習得に向けて動かなければ何も始まらない。


「それじゃあ、僕のオリジナルスキルについてはお願いします。僕も早く皆さんの助けになれるよう頑張りますね」

「焦るな焦るな! まずは鍛冶のなんたるかを教えてやるから楽しみにしていろ!」

「それじゃあスキルについては一旦置いておきましょう。ザリウスさん、コープスくんを部屋にお願いしていいですか?」

「分かりました。それじゃあコープスさん、行きましょうか」


 英雄の器に関しては完全に任せて、僕はホームズさんと部屋を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る