ジンのスキル

 スキルの知識を得たところで、ついにスキルを調べる時間がやってきた。

 この時を待っていたのだ、僕の心は小躍りしてますよ!

 呆れた表情のゾラさんが机の引き出しから拳大の水晶を取り出して机の上に置いた。


「これがスキルを調べるのに使う道具--鑑定水晶じゃ」

「鑑定、水晶?」

「この水晶に両手で触ると、触った者のスキルが浮かび上がってくるのじゃ」

「こんなに小さかったらスキルが多いと見れなくなりませんか?」


 大事なスキルである、もし見落としがあったら大変だ。

 特に生産系に関わるスキルならば。


「それは大丈夫ですよ。スキルは水晶の中に浮かび上がるのではなく、水晶の上の空間に浮かび上がりますから。それに、触れている人の頭の中に自然と記憶されて、水晶と契約をしている人にも記憶されます。こちらの水晶の場合はゾラ様とソニン様ですね」


 ホームズさんの補足に胸をなでおろした。

 自然と記憶できるのなら見落とすことはおろか忘れることもないだろう。

 契約者に見られるのもクランの長としては保険の意味があるのかもしれない。

 まあ、ほとんどの人は自分のスキルを知らないなんてことないはずなので僕のような人は特殊なのかもしれないが。


「……そうか、浮かび上がると私にも見られてしまいますね。やはり席を外しましょうか?」

「あぁ、いてくれて構いませんよ。ホームズさんにもこれからお世話になりますし、知っていてくれた方が良いこともありますよね」

「分かりました、ありがとうございます」


 話が終わり、僕は唾を飲み込んだ。

 ようやくスキルを調べることができるんだ。

 ゾラさんに視線を送ると一つ頷いてくれる。

 一度深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせて、ゆっくりと両手を鑑定水晶に置いた。


 --カッ!


 直後、鑑定水晶が激しく小刻みに震えながら部屋を真っ白に染めるほどの眩しい光を放った。

 あまりの眩しさに目を閉じてしまった僕だけど、その脳裏にはスキルの情報がこれでもかと流れ込んでくる。


 --ちょっと待って、これ全部スキルなの!?


 今感じている情報量が多いのか少ないのか判断がつかないのでただ入ってくる情報に困惑するしかできない。

 何とか判断材料を得るために薄く目を開けて周囲を見てみた。

 ホームズさんは眩しさのせいで浮かび上がっているスキル情報を見れていないようだが、ゾラさんとソニンさんは目を閉じながらも口を開けっぱなしにして驚いているように見える。

 ……これって、普通じゃないっぽい?

 そうこうしていると光が収まり、全員が目を開けると当然のように僕へと視線が集まった。


「……な、何じゃ今のは?」

「……それに、今のスキルは?」

「……えっ? えっ?」


 この場で状況が分かっていないのはホームズさんと張本人である僕だ。

 ただ、そんな二人にも分かったことがある。

 それは、明らかにおかしなことが起こっているということ。

 それはゾラさんとソニンさんの反応を見れば明らかで、僕のスキルに困惑している様子がうかがえる。


「お主、何者じゃ?」

「えっ、人間のジン・コープスですが」

「そういう意味じゃないわい!」

「そー言われてもなー」


 ……いやまあ、実際にはジンでもないんだけど。

 ただ、僕が何者なのかなんて僕にも分からないんだから答えようがない。

 強いて言うなら異世界転生者です、くらいだが信じてもらえるはずもないだろう。

 おそらくだが、先ほどのスキルはよく聞くチートスキルかもしれない。

 だけど、明らかにおかしな名前のスキルがあったのだが、あれは何なのだろうか。


「えー、とりあえず説明できるところから説明しますが、コープスくんは全属性持ちです」

「へっ? ぜ、全属性持ち、ですか?」

「その通りじゃ。先ほど一握りと説明したのは何だったんじゃ」


 ソニンさんの説明にホームズさんが驚愕し、呆れ顔でゾラさんがぼやく。

 そんな三人を横目に僕はひどく落ち込んでいた。

 全属性持ち、もちろん嬉しい。これこそ異世界チートと言える能力だ。

 だけど……だけど!


「か、鍛冶スキルがないよ〜!」

「「「そこかい!」」」


 いや、どう考えてもそこだよね!

 僕が望んだのは鍛冶スキルなんだからね!

 それに、鍛冶スキルだけではなく錬成スキルも持っていない。というか、固有スキルが一つもないってどうなのよ!

 後からでも習得できるとは言っても、やはり持っていないと分かると落ち込んでしまうものだ。


「……もう小僧は放っておこう。それよりも気になるのがあるからの」


 僕のスキルの話なのに酷い!


「こんなスキル、聞いたことがないぞ」

「明らかにオリジナルスキルですよね」

「オ、オリジナルスキルまで。それなのに、あの落ち込みようって」


 だって、名前からして明らかに生産系のスキルとは異なるんですもの。


「な、何というスキルなのですか?」


 興味津々に聞いてきたホームズさんに対して、ゾラさんが口を開いた。


「スキル名は--英雄の器」


 --そんな大それた名前のスキルはいりません!

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