クラン探訪
クラン探訪 鍛冶場
翌朝目を覚ました僕は、ドアの外が何やら騒がしいことに気がついてベッドから起き上がった。
何だろうと思い耳をすませてみる。
『--何で俺が新入りの面倒を見ないといけないんですか!』
『--言うことを聞きなさい! あなたも同じように先輩に案内されたでしょう!』
『--時間が勿体無いじゃないですか!』
……あー、これはあれだ。
昨日ホームズさんが言っていた見習いが僕の案内に時間を取られるのが嫌だと騒いでいるみたいだね。
「……ひとりはソニンさんかな? もうひとりは誰だっけ? 聞いたことある声なんだけど」
うーん、分からない。
たぶんソニンさんと歩いている時に挨拶をしていた人の一人だと思うんだけど。
「……あー、思い出した」
ソニンさん、それはいきなりハードル高すぎです。ものすごく睨まれていましたもん。
ドアのすぐ外で言い争われても迷惑極まりないので僕は外に出ることにした。
「あのー、案内してくれる人ですか?」
さも言い争っているのを知りませんでしたー、という感じでドアを開ける。
「げっ! 何で出てくるんだよ!」
「あぁ、すいませんコープスくん、起こしてしまいましたか?」
「起きてたんで大丈夫ですよ。確かカズチくんだったよね、君が案内してくれるんだね」
「いや、俺は違くて、その……」
……んっ? 思っていたのと反応が違うぞ。
もっと反抗的な態度で来ると思ったんだけど、この反応はどちらかというと照れているように見える。
なるほど、友達は欲しいけど恥ずかしくてなかなか言い出せないタイプの子だね。
「そっかー! 近い年齢の子だと話もしやすいから助かるよ! よろしくね!」
そんな子にはこちらから歩み寄るのが正解だろう。
まあ僕としても大人に案内されるよりも、年齢が近い子に案内された方が気が楽なので突っ込んでみる。
「えっ、あの、えぇっと…………ぉぅ」
ふふん、勝った。
……いや、そんな猛獣使いを見つけたみたいな目でこっちを見ないでくださいよ、ソニンさん。
「よかった! それじゃあカズチ、コープスくんのことをよろしくね!」
「……後で俺の錬成した素材を見てくださいね」
「分かったわ」
肩の荷が降りたかのようにスッキリした笑顔でソニンさんはその場を後にした。
残された僕とカズチくん、さて……何を話そうか。
「えーっと、カズチくんは錬成師を目指してるんだよね?」
「そうだぜ! お前は鍛冶師か?」
「できればどっちもできるようになりたいけど、鍛冶師がメインかなー」
「どっちもって、お前バカだろ」
「なっ! いきなりバカはひどいよ、バカは!」
「だってなぁ、そんなことできるのはここでも棟梁くらいだぞ。あの人を目指そうなんて、バカとしか言えねーよ」
そういえば、世界に五人くらいしかいないとか言ってたなぁ。
でも、目標は高くだよね、うん。
「んじゃあ、まずは鍛冶場に向かうか」
「鍛冶場! 行きましょう! 急いで行きましょう!」
僕の様子を見て胡乱げに見つめるカズチくんだが、そんなこと気にしない。
だって、生で鍛冶場を見れるだからね。
向かいながら朝ご飯代わりのサンドイッチを頬張る。
「ありがとうカズチくん」
「あー、なんだ。くん付けはやめてくれないか? なんか慣れねぇ。カズチでいいぜ」
「カズチく……カズチがそう言うなら。じゃあ僕のことはジンって呼んでよ。お前じゃないからね」
「お前、変なこと根に持ってるな」
「だからお前じゃないってー」
頬を膨らませながら指摘すると、ずっとぶすっとしていたカズチの表情が柔らかくなった。
年相応の表情を見て、何となく仲良くなれる気がしてきた。
初対面の印象があまり良くなかったからだろうか、良いところが見えてくると親しみすら覚えてしまう。
「分かったよ。っと、話しながらだったから早かったな。ジン、ここが鍛冶場だ」
「鍛冶場!」
ついに到着したのか! 待望の鍛冶場!
ウキウキしながら開け放たれた扉から中を覗くと、そこには数人の鍛冶師と見られる男女が槌を振るい金属を打つ音が響き渡り、沢山の炉が並び、炎と鍛冶師の熱気が渦巻き見ているだけで汗が溢れる。
この光景の中に僕も入れると考えれば自然と笑みがこぼれた。
「そんなに好きなのか?」
「大好きだよ! 自らの手で何かを作り上げる、僕はそれが好きなんだ! スキルを上げれば思い描いたものを自由に作れるかもしれない、そう考えるとワクワクするよ!」
「自分の手で何かを作り上げる、か。確かに俺も好きだな」
「そうだよね!」
「俺が錬成した素材が一流の武具になってくれたら、それだけで感動ものだ」
おぉぅ、カズチがそんな素晴らしい考えを持っている子供だったなんて。
今なら断言できる、僕はカズチと仲良くなれると。
「僕が鍛冶師になったら、カズチが錬成した素材で武具を作らせてね」
「……いきなり何を言いだすんだよ。気が向いたらな!」
おやおや、ムキになっちゃって。可愛い奴やのぅ。
「そういえば、カズチは錬成した素材をソニンさんに見てもらいたかったんだよね」
「……なんだ、聞いてたのかよ」
そりゃまぁ、目の前でやりとりしてたからね。
「カズチはソニンさんの弟子なの?」
「そうだ。副棟梁の錬成は世界でもトップクラスだから、なーんで俺みたいなガキを弟子にしたのかは分かんないけどな」
「……あれ? でも、それならソニンさんも一人で何でもできるんじゃない?」
世界に五人くらいしかいないのに、ここに二人いるの?
「そーなんだよ! それでも、副棟梁は錬成専門を自負してるから自分は違うんだって言い張るんだよね。鍛冶も棟梁がいない時に仕方なくやる程度だし。職人たちの間ではなんで自分のクランを持たないのかって話まで出てるくらいなんだからな」
ソニンさんってそんなに凄い人だったんだ。
でも、ゾラさんを本当に尊敬しているんだと馬車の中で話をして知っている僕からしたら自分のクランを持たないのも分かる。
ゾラさんを支えること、そして自分が錬成した最高の素材をゾラさんが最高の武具に仕上げる。
ソニンさんはそこに幸せを感じているような気がした。
「まあ、俺は副棟梁が残ってもクランを立ち上げてもついて行くつもりだけどな」
「尊敬してるんだね」
「う、うるせーな」
照れてる照れてる、子供らしい表情もできるじゃないか。
「そうだ! 鍛冶場があるなら錬成場もあるよね? 今から行ってカズチが錬成した素材を見てもらおうよ!」
「はぁ〜? お前、何言ってんだよ。仕事の邪魔になるじゃないか」
「見てもらいたいんでしょ? それに錬成場も見てみたいし、一石二鳥じゃないか」
「い、いっせきに、なんだって?」
おっと、ここでは通じない言葉だったか。
日本にいた頃と同じように喋ると通じないこともあるのね、気をつけよう。
「とにかく、錬成場を見るついでにってことでさ。早速行きましょう!」
「……たく、分かったよ」
カズチとしてもソニンさんに見てもらいたい気持ちが強いのだろう。
仕方なく、と言った感じでぼやいているがその表情には笑みが浮かんでいた。
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