クラン探訪 錬成場

 錬成場へ向かう前に、一度カズチの部屋に錬成された素材を取りに行く事にした。

 時間もないので素材を取るとさっさと出てきてしまった。少し中を見て見たかった気持ちもあるので少し残念だ。

 素材は銀のようで、表面はツルツルピカピカしていてまるで鏡のように自分の顔が映し出されている。

 そういえば、初めて自分の顔を見たとこの時に思った。

 綺麗な金髪は光を反射させて輝き、目は大きく鼻は小さいがその小ささが子供っぽさを強調している。

 僕が見てもまぁまぁ可愛いと思うのだから、周りから見たらだいぶ可愛い部類なのかもしれない。


「……ジンって自分の顔が好きなのか?」

「あー、ごめん。僕って記憶を失ってるみたいでさ。自分の顔も思い出せなかったから新鮮だったんだよね」


 そう言うとカズチは目を見開いて申し訳なさそうに呟いた。


「そうだったのかよ……なんか、すまねぇ」

「何で謝るのかなぁ。僕としては自分の顔がなかなか可愛い顔だったんだーって喜んでるところなんだけど?」

「……まあ、そう言うことにしておくよ」


 そう言うことって、本当にそうなんですけどね。

 カズチとしても空気を読んだつもりなわけだから何も言うまい。

 僕は大人なのだよ、うん。


「それにしても綺麗な素材だね。これって銀?」

「そうだぜ。採掘された銀には多くの不純物が混ざってるんだけど、錬成することで銀と不純物を分けることができる。その精度が低いと完成品に不純物が残っちまうから良い商品にならないんだ

「でも、この銀には不純物なんてなさそうだね。カズチってまだ見習いなんだよね?」

「これくらいできなきゃ副棟梁の見習いは名乗れないって」


 僕にはよく分からないけど見習いでこれだけの錬成をできるなんて、素直に凄いと思う。

 よく考えてみれば鍛冶場にいた人たちもほとんどが見習いのはずだ。

 役所を通さずに売られている商品もほとんどが見習いの作品だと言うのだからカズチの言葉は大げさでもなんでもないだろう。

 これだけの錬成ができたんだ、それは師匠に見てもらいたいのも分かる。


「それじゃあ、早いとこ錬成場に行って見てもらおう!」

「まあ、邪魔にならない程度にな」


 むふふ、錬成場だよ!

 カズチも素材を見せられるし嬉しいことばかりだね。

 別に、早く行きたいから急かしてるわけじゃないよ。


 到着した錬成場は鍛冶場とは真逆で静かな場所だった。

 机が等間隔に並び、その上に素材を乗せる台座が置かれている。

 錬成師たちは素材と向き合い両手をかざして何やら呟いているが、その声も囁き声で何を言っているのかは分からない。

 それでも、目の前の素材は錬成師の意思の通りに動き不純物が取り除かれていく。

 ある素材は中から不純物がポロポロ飛び出てきたかと思えば、別の素材は一度ドロドロに溶けたかと思えば不純物だけが取り除かれて再び固まる。

 その額には大粒の汗が浮かび異様な緊張感が漂っていた。


「……錬成って、凄いね」

「俺も最初見たときは驚いたよ。今でも少し緊張するしな」


 小声で話しをしながら眺めていると、奥の方からこちらに気づいたソニンさんが近づいてきた。


「カズチにコープスくん、また会いましたね」

「こんにちは、副棟梁」

「錬成場、凄い緊張感ですね」

「うふふ、最初はそう思うものです。集中したら分からなくなりますよ」


 しかし、いくら見てもどういう仕組みで錬成されているのか全く分からない。

 ホームズさんが書物を用意してくれると言ってくれたけど、本を読むだけで覚えられるのか心配になってきた。


「あっ、そうか」

「なんだ、どうした?」

「錬成の勉強だけど、分からなかったらカズチに聞けばいいのかと思って」

「……はあっ!」

「それは良いですね!」

「ふ、副棟梁まで!」


 手を叩いて喜ぶソニンさんとは対照的に、面倒臭そうな表情を浮かべるカズチ。

 僕的には一番理にかなっている方法だと思ったんだけど。


「だって、僕は本を読むだけだと覚えられるか分からないし、実際にやっている人から話を聞けるっていうのは大事なんだ。カズチだって、ソニンさんからの話は真面目に聞くよね?」

「そりゃそうだろ」

「僕だってカズチの話しをちゃんと聞くよ。それにね、覚えたことを人に伝えるっていうのは大事なことなんだ」

「……そうなのか?」


 まだ疑うようにこちらを見ているカズチだったが、ソニンさんから援護射撃が入った。


「コープスくんの言う通りですよ。誰かに伝えると言うことは、本当に理解していなければできないことです。そうでなければ相手に間違ったことを教えることになるのですから。そうならないようにもう一度復習をする、その積み重ねが錬成の精度にも深く関わるのですよ」

「……確かに、そうですね」


 顎に手を当てて考え込むカズチを見て、本当に顎に手を当てる人がいるんだなー、っと場違いなことを考えていた。

 すると意を決したのか顔を上げたカズチが照れ臭そうに口を開く。


「……仕方ねぇから、教えてやるよ」

「やったー! カズチありがとう!」

「うふふ、仲良くなってくれて嬉しいわ」


 顔を赤くして再び俯いてしまったカズチに感謝しつつ、僕はもう一つの目的を果たすためソニンさんに声をかけた。


「そうそう、カズチが錬成した銀を見てほしいって言ってましたよ」

「そういえば、昨日も見れていなかったわね。カズチ、今持っているのかしら?」

「あっ! は、はい、持ってます!」


 あまりの恥ずかしさに忘れていたみたいですよ。まあ、思い出してくれたならいいんだけどね。

 カズチは取り出した銀をソニンさんに手渡した。

 ソニンさんは銀を上から下から眺めて、さらに指で叩いたりと何やら確認している。

 側から見たら何をしているんだろうと首を傾げてしまうが、カズチの真剣な表情を見るとこれが素材の良し悪しを見ているのだと分かった。

 一通りの確認を終えたソニンさんがカズチに向き直り、微笑みながら銀を返す。


「素晴らしいわね、よくできました」

「……あ、ありがとうございます!」


 カズチが屈託なく笑う。

 そんな二人を見て良好な師弟関係を結んでいるのだと羨ましくもあり、そして自分の師匠には誰がなるのだろうかと考えるのだった。

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