役所にて

 役所に到着した僕たちは、すぐに暇そうにしているリューネさんに声を掛けた。


「リューネさん、今日も暇そうですね」

「ふあ? ……あら、ジン君じゃないの。それにホームズ君まで、今日はどうしたの?」

「先日依頼を受けた件の納品に来ました」


 ……んっ? 依頼、納品?


「そうなの? でもあれって、ゾラ君が忙しいから先になるって言ってなかったっけ?」

「とある人物が、それ相応の物を打ってしまったんです」

「とある人物? ……あー、うん、納得」


 そう口にしたリューネさんの視線は明らかに僕を見ている。

 どうやら僕は、リューネさん経由の依頼に値する物を打ってしまったようだ。


「ちなみに、その依頼ってどんな内容だったんですか?」


 まさか王への献上品ではないだろうかと不安に感じ聞いてみた。


「今回の依頼は、ライオネル家からの依頼ですよ」

「……ライオネル家ですか?」


 魔導師を輩出しているライオネル家が、どうして剣を依頼してきたのだろうか。

 ……まさか、ユウキにあげる為とかじゃないよね? だったらもっとちゃんとした素材で打ちたいんですけど!


「まあ、細かく言うとライオネル家の次男からの依頼ね」

「次男? ユージリオさんじゃなくて?」

「……魔導師長のことをさん付けで呼んでるジン君が怖くなってきたわ」


 いや、本人がそう呼べって言うんだもの。


「ライオネル家の次男は、優秀ではあるもののなんというか、豪華なものを好む体質なのですよ」

「うわー。ユージリオさんやユウキとは真逆ですね」

「跡継ぎの長男もそうではないのですが、次男だけは何故だかそうなったようですね」

「長男に後塵を拝するのが嫌になったんじゃないの? それで、見た目だけでも豪華にー、みたいな?」

「あまり変なことは言わない方がいいと思いますよ?」

「あら、心配してくれるのね」


 この人は、なんで人の心配をおちゃらけた感じで言うんですかね。

 まあ、リューネさんが僕に心配をかけないようにしてくれているのは分かってるんだけど、知らない人が聞いたらどう思うことやら。


「本当は断ってもよかったんだけどね。一応、届いた依頼は全部ゾラ君に報告することになってるから伝えたら、そのまま受けるってなっちゃったのよ」

「ゾラさんが?」

「おそらく、ユージリオさんにはお世話になりましたから、その借りを返す意味合いもあったのでしょう」

「でも、お世話になったのはユージリオさんであって、次男さんではないですよね?」

「「言われてみると確かに」」


 ……えっ、そんなんでいいの?

 ゾラさんからするともっと別の理由があったのかもしれないけど、ゾラさんが依頼を受けるってことは相当凄いことなんだということは僕でも分かるよ。


「……ま、まあ、受けちゃったものは仕方ないわね!」

「ゾラ様が受けた依頼でしたからね!」

「……それで、僕の剣はその次男さんのところに行くんですか?」


 観賞用に打った剣なので、購入先が貴族になるのは理解している。

 ただ、自分が打った作品が顔見知りに近いところに行くとなると恥ずかしさもあるので購入先を選べるなら選びたかった。

 ……ユージリオさんに見られて、僕が観賞用の剣しか打ってないって思われたくないもの。


「今のところ、『神の槌』が受けてる依頼は三つだから、その何処かに行くわね」

「それじゃあ、一本ずつって感じですね」

「そうなのよ。だからあと二本はゾラ君に打ってもらわないといけないわね」

「……あの、三本ありますよ?」

「……えっ、あるの?」

「驚きますよね。私も驚きました」


 呆気に取られたような表情を浮かべているリューネさんは、僕とホームズさんの腕を掴んで奥にある個室へと歩き出した。


「シリカー! 後は頼んだわねー!」


 そして、以前見た時と同じような光景が展開される。


「へっ? あっ! ちょっと先輩、せんぱああああい!」


 久しぶりの再会が悲鳴で終わるだなんて……シリカさん、頑張ってください!

 僕は心の中でエールを送りながら、リューネさんに腕を引かれるがまま個室へと入っていった。

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