お昼と雑談と

 講座が終わったタイミングで六の鐘が鳴り響いた。

 気づけば太陽が傾き始めていたので、お昼ご飯を食べることになった。

 特にルルとカズチは魔力を使ったのでお腹の減りが早く、ご飯をどうしようかと話し合っている。


「せっかくだから何か作ったらどうかな?」

「ジン、料理できるの?」

「できるわけないじゃん」

「いや、そんな自信満々に言われてもなぁ」


 インスタントラーメンならお湯を沸かすだけだからできるけど、基本料理はやらないのだ。

 ……いや、卵焼きくらいならできるかな?


「でも、勝手に使ったらダメだよね?」

「材料はそこまでないけど、あるものでよかったら使ってもいいよ」

「本当! よーし、料理人見習いの実力を見せてやる!」


 やる気になったルルがユウキに台所の場所を聞いていると、慌てた様子でフローラさんも前に出てきた。


「わ、私も、お手伝いします!」


 おやおや、ユウキの前で良い格好をしたいんだね。


「助かるよフローラさん。よろしくね!」

「はい! 負けません!」

「負け? 何が?」

「こ、こっちの話です!」


 ……心の声がダダ漏れなんですけど、大丈夫かな?

 ユウキたちが台所に移動したので、僕とカズチとガーレッドはリビングで寛ぐことにした。


「さっきの錬成だけど、どうしていつもより遅くなってたの?」

「あぁ、あれな」


 ちょうど良いかと思い、僕は錬成の時に感じた疑問を口にした。


「素材によって魔力の使い方、流し方が変わるんだよ」

「えっ、そうなの?」

「ジンは銅しか錬成してないから分からなくて当然なんだよ。新しい素材を錬成する時には、どうしても探り探りになるから遅くなるんだ。そして、その分どうしても魔力を多く使うから疲労感が半端ない」

「そうだったんだね」

「今回は鉱石だったからまだマシさ。聞いた話だと、魔獣の素材は鉱石より何倍も難しいって聞いたことがあるから本当に大変らしいぞ」

「うげー。ホームズさんが持ってきた素材の中に珍しい魔獣の素材が入ってたんだけど、錬成できるようになるまではまだまだ先かな」


 魔素が濃いとは聞いていたけど、それに加えて魔力の流し方、疲労感とも戦わなければいけないのか。

 錬成スキルの習得が先だけど、その分楽しみが増えると考えればやる気にもなるね。


「銅の錬成が終われば、ジンもケルン石の錬成に移れるはずだから、その時に試してみたらいいさ」

「そうだね。はぁ、でもゾラさんたちはいつ戻ってくるのかな」


 ゾラさんとソニンさんはすでに王都へ向けて出発しているだろう。

 通常だとカマドから王都まで半日程度だけど、北の森が使えないから西の森を通っていく。どれくらいかかるか僕には分からないけど、最低でも二、三日は不在になるはずだ。呼ばれた理由によってはそれ以上かかるかもしれない。

 無事に帰ってきてくれることを祈るばかりだけど、不安は尽きないよ。


「そういえば、ガーレッドが咥えてたあれ、なんだったんだ?」

「あっ! そうだった!」

「ピーキャー」


 ガーレッドに向き直ると、今なお嘴でゴミらしきものを咥えていた。

 ユウキはゴミじゃないって言ってたけど、何なのだろうか。


「ガーレッド、それ見せてくれる?」

「ピキャキャー?」

「ちゃんと返すから安心して」

「ピピ? ピキャキャキャキャー!」


 それなら良いと僕の手の中に咥えていたものをポトリと落としてくれた。

 土の塊のようにも見えるけど……むむむ、全然分からん!


「カズチは何なのか分かる?」

「いや、俺にも分からないな」


 二人して首を傾げていると、台所からユウキが戻ってきた。


「ユウキー、これって何なの?」

「あぁ、ガーレッドが咥えていたものだね。それは炎晶石えんしょうせきの欠片じゃないかな」

「……え、炎晶石?」


 ふーむ、新たな単語が出てきましたな。予想してないところからだったのでリアクションも薄くなってしまったよ。


「ケルン石やキルト鉱石みたいな単純な鉱石とは違って、属性の力が備わっている鉱石が稀にあるんだ。ガーレッドが気に入ってるってことは、たぶん火属性が備わってると思ったんだ」

「だから炎晶石なのか。属性ってことは他にもあるんだね」

水晶石すいしょうせき木晶石もくしょうせき土晶石どしょうせき風晶石ふうしょうせき光晶石こうしょうせき暗晶石あんしょうせき、全属性の各晶石が確認されているよ」

「欠片ってことは、これ自体には価値はないのか?」

「そうだね。これだけ小さい欠片だと価値はないかな」


 そうなのか、少しがっかりである。


「晶石の塊でもあれば魔導陣なしで属性効果が付いた武具を作れるけど、それってものすごい高価なものになるからほとんど出回らないよ」

「でも、どうしてそんな欠片がキルト鉱石にくっついてたんだろうね」

「南の鉱山でも見かけたことなんてないけどなぁ」

「ピキャキャー! ピッピキャー!」


 三人して考え込んでいると、ガーレッドが早く返してと催促してきた。


「ごめんね、ガーレッド」


 手の平に炎晶石の欠片を乗せてガーレッドの目の前に差し出す。

 器用に嘴で咥えたと思ったその時だった。


 ――ゴクンッ!


「あー! ガーレッド、食べちゃったの!」

「ピキャキャーン!」

「美味しい! じゃないよ! だ、大丈夫かな?」


 慌てる僕を見たユウキは苦笑しながら諭してきた。


「ジン、落ち着きなよ」

「お腹壊さないかな? 大丈夫かな?」

「あれくらいでお腹を壊してたら、炎を食べた時に壊してると思うよ?」

「…………あー、うん、そうかも」


 ケルベロスの炎を平らげたことを思い出し、不思議と冷静になれた僕はガーレッドに視線を送る。


「ピッキャキャン! ピッキャキャーン!」


 うん、全然大丈夫そうで何よりだよ。

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