終息

 ──あれだけの爆発である。

 本来ならば僕たちは助からず、城だって崩れてしまうのが普通なのだろう。

 だけど僕たちは生きており、なおかつ城も健在。被害と言えば王の間の天井がなくなっていることくらいだろうか。

 膨大な熱量を持った岩石、それが完全に消失したのか、もしくは力の方向が玉座ではなく空へと変えられたのか。

 その事実を知るものはおそらくガーレッドだけだろう。

 だが、そのガーレッドは溜めた力を使い果たしたのか、今では僕の腕の中で可愛い寝息を立てている。

 王の間にいる全ての者が呆然としている中、一番最初に静寂を切り裂いたのはブロッシュ副長だった。


「…………あ、あり得ない! こんなこと、あってはならない!」


 目の前の現実を受け止められない、そんな感じで発狂している。

 その体は小刻みに震えており、今にも再び暴走しそうな雰囲気を持っていた。


「黙れブロッシュ! 貴様は私が捕らえてやる!」

「ラ、ライオネル! 貴様の仕業か! だ、だが、俺にはこれがある! これがある限りは――」


 ――バキンッ!


 ブロッシュ副長が声を発したその時、杖の先端に取り付けられていた巨大な炎晶石が音を立てて崩れ落ちる。

 その様子を目を見開いて見ていたブロッシュ副長は、口をパクパクさせたかと思えば、その場に座り込んで動かなくなってしまった。

 それでもユージリオさんは念の為なのだろう、魔法を発動してブロッシュ副長の意識を失わせると大きく息を吐き出していた。

 ガーレッドの翼の外側にいた倒れていたのは暗殺者だけではない。気を失った近衛騎士もいたので、被害はあったかもしれない。

 王様が助かったからといって、もろ手を挙げて喜べる状況ではなかった。


「………………ぅぅっ」


 だが、意外にも被害は翼の外側でも出てはいなかった。

 もしかしたら本当に魔法の力は空へと軌道を変えられて、熱波はあっただろうが直接的な被害はなかったのかもしれない。

 そのことにいち早く気づいたユージリオさんも近くの近衛騎士に声を掛けて救護にあたらせている。

 手の空いた近衛騎士には倒れている暗殺者が逃げないようにと縛りあげるよう指示も飛ばしていた。

 一通りの指示が終わると、ユージリオさんの視線が僕の方へ向く。

 どうすべきが正解か分からなかった僕がたじろいでいると、そんな僕に声を掛けてきたのはゾラさんだった。


「小僧! お主が何故こんなところにいるのじゃ!」

「いや、だって、ゾラさんとソニンさんが捕らえられたって聞いたからホームズさんと助けに来たんです」

「そんな簡単に言うものでもないだろう! ザリウスが来るのは、まあ許そう。じゃが小僧は別じゃ!」

「そうですよコープス君! 危険があることは知っていたでしょう!」

「そうですけど……二人を助けたかったんですよ!」


 僕は自分の気持ちを素直にぶつけることにした。


「草原で拾ってもらって、クランに加入させてもらって、それで色々なことを教えてもらって! 二人がいなかったら僕は今頃、魔獣に殺されていました! そんな二人が危険な目に遭っていると聞かされて、それがもしかしたら僕のせいじゃないかって思ったら、もう居ても立っても居られなくって……なら、僕にできることが少しでもあれば、力になりたいって思ったんです!」


 真っすぐにゾラさんの目を見て、僕は本音を自分の言葉で伝えていく。


「じゃが、危険があったのも確かじゃろう!」

「それでもですよ! 僕は命を救われたんです。なら、命を懸けることくらい当然じゃないですか!」

「当然なわけがあるか!」


 突然怒鳴り声を上げるゾラさん。

 僕の気持ちが伝わらなかったのかと思い、視線を逸らせようとしたのだが、何とか踏み止まりゾラさんを睨みつけるようにして言葉を待つ。

 だけど、次に発せられた言葉は僕の思っていたような内容では全くなかった。


「小僧はもう儂の子供じゃ。子供を危険な目に遭わせて喜ぶ親がどこにおると思う。今回はうまくいったが、次もうまくいくかは分からんではないか」

「……ゾラさん」

「……子供に先立たれるかもしれん親の気持ちを考えろ」


 ゾラさんの言葉は、僕には痛いほど心に突き刺さった。

 日本に残してしまった両親がいる。僕は、まさに親を残して先立ってしまったのだ。

 きっと泣き崩れたに違いない。僕が死んでからしばらくは何も手に付かなかったかもしれない……いや、もしかしたら今だってそうかもしれない。

 僕は一番の親不孝をすでにしてしまっているのだ。


「……すいません、でした」


 だからか、素直に謝ること以外に思いつかなかった。

 これはジン・コープスではなく、大杉政策おおすぎせいさくの心からの声だった。


「――ゾラよ、それくらいにしておかんか」


 そんな僕に助け舟を出してくれたのは意外な人物だった。


「……ですが」

「この子がいなければ助からなかったのもまた事実よ」

「……分かりました――王よ」


 まさかの王様でした。

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