一件落着?

 僕が唖然としていると、王様は僕に視線を向けてニコリと笑みを浮かべる。


「少年は我らの命の恩人じゃ。礼を言うぞ」

「あの、いえ、その……王様を助けたのは、僕じゃなくてこの子です」


 突然のお礼に驚きはしたものの、僕は事実を告げる為に寝ているガーレッドの頭を撫でながら答える。

 王様はそんなガーレッドにも視線を向けて、しわが深い手で優しく頭を撫でてくれた。


「そうか。少年は誰かの手柄を取ろうとは考えないのだな。偉い、偉いのう」


 試されていたのかな? と思いながらも、今回も本当に僕の手柄ではないので曖昧に頷くだけに留める。

 まあ、子供の手柄を奪う親にはなりたくないので当然といえば当然なのだが。

 僕が王様と普通に会話をしている姿に、一番驚きの表情を見せていたのはユージリオさんだった。

 もしかして、何か不敬を働いてしまっただろうかと困惑していると、そのことに気づいたのかユージリオさんの表情も柔らかいものに変わっていった。


「――コープスさん!」


 そこに飛び込んできたのは美しい衣装を身に纏った一人の女性である。

 アシュリーさんでもなく、ニコラさんでもなく、メルさんでもない。

 一体誰なのだろうかと首を傾げていると、隣でヴォルドさんが堪えきれないといった感じで笑い声が漏れている。

 ゾラさんとソニンさんも何事かと顔を見合わせていたのだが、僕もその時点でようやく思い出したのだ。


「あっ! ホ、ホームズさん!」


 女装をして交渉組の護衛に付いていたホームズさんだ!

 少年暗殺者と決着を付ける為にって離れていたんだったね。王の間での出来事が衝撃的すぎてすっかり忘れていたよ。


「はあっ? こ、小僧、何を言っておる。あのおなごがザリウスのわけが――」

「い、いえ、ゾラ様……あの眼鏡は、ザリウスさんの眼鏡では?」

「ソニンまで何を……」


 そこまで口にしたゾラさんが固まってしまう。

 その時点でヴォルドさんが爆笑してしまい、ホームズさんも自身の姿を思い出したのか顔を真っ赤にしている。


「ヴォ、ヴォルド! 笑い過ぎですよ!」

「はぁー、はぁー、す、すまん! だが、いや、くくくくっ!」

「あ、あなたが加勢にほしいと言ったのではないですか!」

「あん? 何だこの騒ぎは?」


 遅れてやってきたガルさんは、ヴォルドさんの大爆笑と呆気にとられているゾラさんたち、そして顔を真っ赤にしているホームズさんを見て首を傾げていた。


「と、とりあえず! 少年暗殺者は捕らえていますから! どうするかを決めていただきたい! ガルさん!」

「んっ? あー、おう」


 困惑したまま、ガルさんは肩に担いでいた少年暗殺者を床に放り投げた。


「痛えなあ! もうちょっと優しく降ろせよ!」

「貴様は、ビルギット!」

「あん? おーおー、ユージリオ魔導師長じゃないですか。結局のところ、俺達は失敗したってことか。あー、残念だなー」


 ユージリオさんが名前を知っていたということは、この少年暗殺者も国家騎士ということだろうか。


「……えっと、とりあえず、一件落着?」


 暗殺者たちが国家騎士だったこと、王の間での戦闘、ガーレッド、そして……ホームズさんの女装。

 色々と混沌とした状況の中で確認したいことは、今この瞬間が襲撃も終わりを迎え、首謀者も捕らえている状況なのかということ。

 最初に動いたのはユージリオさんで、近衛騎士に声を掛けたところで即座に返事が返ってくる。


「オシド隊長」

「はっ! レオナルド副団長、及びブロッシュ副長が首謀者だろうと思われます。改めて調査も行いますが、おそらく大丈夫かと」


 次いでヴォルドさんがゾラさんに声を掛ける。


「お二人とも、大丈夫ですか?」

「儂らは問題ないよ。最初の頃はどうなるかと思ったが、お主らが交渉に来たことで王とユージリオが色々と動いてくれてのう、この通りピンピンしておるよ」

「私達以外にも捕らえられていた冒険者がいたのですが、全員の無事を確認できていますよ」

「そちらには信用のおける者を向かわせているので問題ないかと」


 ソニンさんの説明を補足してくれたのはオシド隊長だった。


「ガーレッドも寝てるだけみたいだし、問題ないね」


 そこまで確認が終わると、最終的に視線はホームズさんに向かってしまう。

 結局、ヴォルドさんの大爆笑からゾラさんとソニンさんにまで笑いが伝播してしまう。

 さらに破壊者デストロイヤーとして有名人であるホームズさんのことを近衛騎士も知っていたのだろう、なんとか笑わないようにしているのだが所々から漏れ聞こえてくる。

 ガルさんは見慣れたのか、ホームズの肩に手をおいて慰めているようだが、当の本人は大きく肩を落としていた。


「……俺はこんな奴に負けたのかー」


 そんな呟きをビルギットが漏らしたところで、今回の襲撃事件は一応の解決をみたのだった。

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